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白須美紀
因州和紙の歴史と魅力にふれる
鳥取市あおや和紙工房

写真1 | 因州和紙の歴史と魅力にふれる 鳥取市あおや和紙工房 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

千年の歴史を誇る紙の産地

因州和紙は、かつて因幡(いなば)の国と呼ばれていた鳥取県東部の佐治町、青谷(あおや)町周辺で発展してきた和紙だ。その歴史は古く、正倉院文書のなかに因幡の国でつくられたと推測される紙が存在しているという。また、905〜927年に編纂された「延喜式」にも「因幡の国から朝廷に紙が献上された」という記述が残されている。つまり因州は、千年を超えた歴史を誇る紙の産地なのだ。

江戸時代には藩から保護をうけ、藩の御用紙としても庶民が使う紙としても盛んに生産されて発展を遂げたという。洋紙が導入されはじめる明治になっても技術革新を怠らず、県も三椏増産の後押しをするなどして、官民一体の努力で産地の命脈を保ってきた。なかでも書道半紙は「筆のすべりがなめらかで書きやすい」ことから、書道愛好家の間で名声を高めていったという。

戦後になるとライフスタイルの変化によって日本の和紙の需要は大きく変化し、紙の産地にも影響がおよんだ。因州和紙も例外ではなく、それまで主力だった事務用薄紙や障子紙が打撃を受けたという。しかし因州の人々は新しい道を探り、今も産地の需要を支える新たな名品を生み出した。それが、「因州和画仙紙」だ。それまで書画の用紙の名品といえば中国の宣紙(せんし)が知られていたが、因州では滲みがすくなく日本の文字や墨にあって書きやすい「和画仙紙」を開発したという。そして和画仙紙は戦前より評価の高かった半紙とともに、書道用紙の産地として因州の名を高めることになった。昭和40年代からは機械抄き和紙の製造もはじまり、現在も因州では手漉きと機械抄きの両方の和紙がつくられている。

写真2 | 因州和紙の歴史と魅力にふれる 鳥取市あおや和紙工房 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真3 | 因州和紙の歴史と魅力にふれる 鳥取市あおや和紙工房 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真1 | 因州和紙の歴史と魅力にふれる 鳥取市あおや和紙工房 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

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写真3 | 因州和紙の歴史と魅力にふれる 鳥取市あおや和紙工房 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

楽しい和紙専門の施設

こうした因州和紙の魅力に触れられる施設が、平成14年に設立された鳥取市市営のあおや和紙工房だ。館内展示では古い写真や手漉き和紙の道具が展示されており、この山間の地でどのように紙づくりが営まれてきたのかをリアルに伝えている。また雁皮、三椏、楮といった定番のものから麻や筍にいたるまでさまざまな素材で漉いた和紙も展示されており、紙のなりたちや個性が分かるようになっていた。広いギャラリーも併設されており、ここで冬から春にかけて行われる「因州和紙あかり展」は20年の歴史をほこるイベントだという。

「当館の名物イベントで、毎年プロからアマまで全国からたくさんの作品が寄せられます。展示やギャラリー以外に紙漉き体験やランプシェードづくり体験も楽しめますよ」

と話してくれたのは、館長の国森洋さん。充実した内容からも、因州の紙を知って欲しい、楽しんで欲しいという地元の人々の想いが伝わってくるようだ。

そうした思いは、併設ショップの品揃えにも反映されていた。画仙紙はもちろん、便箋や封筒、写真用紙、インテリア用の紙にいたるまでさまざまな種類・用途の紙製品が充実しているのだ。書道半紙は汎用品のほかにも、雁皮、三椏、楮といった原料にこだわった高級半紙も揃う。そしてもうひとつ目をひくのは、カラフルな工芸紙だ。ぼかし染めや模様染めの和紙はほのぼのとした味わいがあり、見ていて飽きない。

「民藝運動をひきいた柳宗悦の薫陶を受けたある製紙屋さんによって、因州の工芸紙は生み出されました。ちぎり絵や紙絵の素材としても人気ですよ」

鳥取は民藝運動が盛んだった地域であり、柳宗悦も因州の和紙を高く評価していたというから、熱意あるつくり手から工芸和紙という美しい紙が生みだされるのも自然な流れだったのだろう。

あおや和紙工房ができてから20年。創立当時22社あったという因州和紙の製造元は、現在10社にまで減ってしまったという。そのうち手漉きを手掛けるのは3社だけなのだそうだ。ずいぶん減ってしまい寂しい心地がするのは否めないが、紙の需要が減り続ける現代でまだ10社が健在であるというところに産地の頼もしさを感じもする。

会場にあった柳の「因幡の紙」という一文が心をよぎる。

「私は着実な因州の製品に進んで肩を持ちたい。決して使用者を欺かないことを知っているからである」

柳のこの言葉こそが、因州和紙の最大の魅力を表しているだろう。この土地で千年を超えて受け継がれる誠実で着実な紙づくりの精神こそが、今も昔も因州和紙が人々に愛されるゆえんなのだ。そしてそれは、因州和紙を未来につなぐ確かな推進力となるに違いない。

写真4 | 因州和紙の歴史と魅力にふれる 鳥取市あおや和紙工房 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真5 | 因州和紙の歴史と魅力にふれる 鳥取市あおや和紙工房 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真6 | 因州和紙の歴史と魅力にふれる 鳥取市あおや和紙工房 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

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鳥取市あおや和紙工房

因州和紙の歴史と魅力にふれる 鳥取市あおや和紙工房 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

住所 鳥取県鳥取市青谷町山根313
電話  0857-86-6060
ウェブサイト https://www.tbz.or.jp/aoya-washi/
開館時間 9:00~17:00
休館日 月曜日(月曜が祝祭日の場合は、翌平日)
年末年始(12/29~1/3)
入館料 無料(企画展観覧料のみ一般300円・高校生以下無料)
紙すき体験 要予約・はがきサイズ300円より

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