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白須美紀
「日本一面白い紙屋さん」を目指して
山本紙業

写真1 | 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

近頃さかんになってきた紙や文具のイベントで、人気を博しているのが山本紙業だ。なにしろ展示や商品が楽しいと評判なのである。わたしが訪れた展示会では、ブースのなかに模型列車がくるくると走り回っていた。線路の中は、一束ずつクラフト紙でていねいに包まれた小さな紙がパレット上に積まれている。紙の倉庫をミニチュア再現しているのだ。お客さんはそこからよりどりで好きな紙のミニパックを5種類選ぶのだが、その姿は真剣そのもの。「どれも欲しくて選べません……!」と、幸せそうに困っているのが印象的だった。
他にも、200色が揃った「TANT(タント)」という紙がハニカム形に美しく展示されていて、思わず見惚れてしまう。TANTの色番おみくじまで用意されていて「TANTという名前の紙があるんだな」「200色もあるってすごいな」と、見る側の記憶に残る展示になっていた。

写真2 | 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真3 | 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

山本紙業は、1972年創業の紙問屋だ。2代目社長の山本泰三さんが、オリジナル商品をはじめたのは2004年のこと。現在40代の若い社長さんだが、当時はさらに若くまだ30代で、営業を担当していた。

「うちは紙問屋ですから、印刷屋さんなどに紙を卸すのが本業なんです。でも印刷には不向きだけど面白い紙ってたくさんあるんですよ。そんな紙で表現がしたいと思い、オリジナル製品をつくるようになりました」

はじめて手がけたのは、鞄だった。強度が高く什器などにも使用されるPASCO(パスコ)という紙で、イギリスのグローブ・トロッターのようなブリーフケースをつくった。山本さん自身が革のように風合いの育つ素材が好きで、紙も使い込まれて味わいが出るものを選んだという。頑丈なPASCO(パスコ)はまさにそんな風に変化する紙だった。

また、同じ考えから誕生し、今では看板商品の一つとなったのが蝋引き紙を表紙に使った「RO-BIKI NOTE」だ。
「蝋引きの紙は皺ができたり、色ヤケしたりするんです。ふつうはきれいな状態が良いとされるので、こうした特徴は紙にとっては欠点なんですよ。でも、僕はそこが面白いと思っていて。『この紙いいなあ、使ってみたい』とずっと思っていたんです」
「RO-BIKI NOTE」は、使えば使うほど皺やヤケが味になって、ヴィンテージ感がでる。そんな表紙のノートはかつてなかったのではないだろうか。これもまた紙を知り尽くした山本さんならではのアイデアだった。

写真4 | 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真1 | 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真2 | 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真3 | 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真4 | 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

ファンに人気の万年筆見本帳

また、山本紙業では、ほとんどのノート商品にどんな筆記具でも書きやすい紙を採用している。

「僕自身が万年筆を愛用しているので、鉛筆やボールペンだけでなく万年筆にも対応することにこだわっています」

鉛筆やボールペンに比べて万年筆は紙を選ぶ。紙の種類によっては書いた線が滲んだり、裏側までインクが抜けてしまうことがあるのだ。買って書いてみるまで予想がつかないだけに、事前に「万年筆OK」と分かっているノートは万年筆愛好家にとってたいへん嬉しいに違いない。

そして、そんな万年筆ファンの心を捉えてしまうのが「万年筆推薦紙見本帳」だ。一見すると一枚一枚を切り離しできるレポートパッドに見えるのだけど、それだけではない。NO.1からNO.18まで、万年筆にお薦めの紙が5枚ずつ綴じられているのだ。

「万年筆で書いて楽しい紙を探すために、長い時間をかけて色んな紙で筆記テストをしたんですよ。そのなかで僕たちが特に面白いと思った18種類を選びました」

それぞれの紙には1種類ずつ詳しい説明書きがつけられている。どこでつくられた紙なのか、性質はどんなものか、紙が持つ物語もそれぞれで楽しい。そして、一枚一枚読んでいくうちに、ノートとして定番の紙から書籍用紙、食品用耐油紙、銀行の帳簿用に開発された紙、紙問屋が開発した万年筆専用用紙などが多彩に綴じられていることが分かるのだ。

またそれぞれに、山本紙業がテストした結果も詳細に記載されている。例えば、No.4のニューシフォンクリーム75g/㎡では、「粘度の高いインクの場合、すぐに擦ってもインクの伸びはなく、滲まず、裏抜けもありませんでした。HERBINのピンク・赤系など粘度の低いインクの場合若干の滲みと裏抜けが見受けられました」と記載されている。
見本帳であり、図鑑であり、レポートでもある「万年筆推薦紙見本帳」。用紙に悩んでいる万年筆ラバーが見逃すはずもなく、3300円(税込)という決して安くない価格ながらも品切れが起きるほどの人気だという。

写真5 | 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真6 | 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真5 | 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

写真6 | 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

日本一面白い紙屋になる

山本紙業では他にも、テーマごとに3種類の紙の試し書きを愉しむ「Paper tasting(ペーパーテイスティング)」や、印刷屋さんや紙問屋などのプロが持つ「紙屋の手帳」など、マニアックで楽しい商品が揃う。

「どの商品も、うちで製造したオリジナルの紙はひとつもないんです。うちはメーカーではなく、紙問屋ですから。むしろ、一般の方でも手に入りやすいものを選ぶようにしているんですよ」

紙は一般的なものを使いながらも、山本紙業は際立ったオリジナリティを発揮している。どうすれば、そんな展示や商品が生まれるのだろうか。

「若いスタッフの感性や意見を大切にしていますね。紙のパレットが積まれた倉庫なんて僕にとっては当たり前の風景でしかなかったのですが、新人社員たちが「面白い」と言ってくれて。山本紙業がすでに持っていた価値に気づかせてもらった形です。3年前にブランド名を「Yama-kami letters」から「山本紙業 YAMAMOTO PAPER」に変えたのですが、それも彼女たちの意見を参考にしたんですよ」

山本さんは「日本一面白い紙屋さんになりたい」という。プロならではの豊富な知識や情報に加えて、山本さんやスタッフたちの若い感性が、紙の面白さを捉えなおし、伝えてくれることで、その目標は着実に達成されているように思える。

そして山本紙業を語るうえでもうひとつ欠かせないものがある。それは、「紙への愛と伝える情熱」だ。それらは商品や展示からこちらにひしひしと伝わってくる。わたしを含めた購買客は、そんな山本紙業に惹かれて製品を手に取ってしまうのだ。

山本紙業

 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所

ホームページ:http://www.yama-kami.com

 「日本一面白い紙屋さん」を目指して 山本紙業 - 白須美紀 | 活版印刷研究所