三星インキ株式会社
乾燥性を改善する補助剤
つづいては、乾燥性を改善する補助剤について説明します。
版式によってインキの乾燥機構は異なります(何度も説明させて頂いておりますので既に周知だとは思いますが)ので、補助剤も乾燥機構に合わせた内容となっています。
まずは平版印刷用インキから
平版印刷用のインキは、金属石けん等の触媒の働きによって空気中の酸素を基に樹脂が徐々に架橋して重合し、皮膜を形成させるという乾燥機構(酸化重合)というのが一般的です。
この乾燥機構による皮膜形成は非常に時間を要するものであり、温度や湿度等によって変化しますが、数~数十時間程度の時間が必要であります。
この完全乾燥までの時間が長すぎる事は、印刷時に裏付きや擦り取られ(キズ入り)といった現象を引き起こす事があり、特に非吸収紙などの通気性の悪い原反を使用した場合は、より顕著に現れやすくなっています。
従って、こういった場合に補助剤を添加し、乾燥性を早める事で問題発生を軽減する事ができます。
乾燥性を早める補助剤は一般的に『乾燥促進剤』や『ドライヤー』などと呼ばれており、成分的にはインキ製造時に既に添加している金属石けんなどの触媒が主となっています。なお、触媒の種類によって効果に違い(皮膜表面を重点とするのか内部なのか)がありますので、目的に応じて使い分けて頂ければと思います。
逆に乾燥が早すぎる場合に使用する補助剤としては、一般的に『乾燥抑制剤』と呼ばれており、触媒よりも先に酸素を取り込んで架橋時に必要な酸素量を減らす事で皮膜形成時間を遅くする効果を有するタイプや、インキ皮膜表面に補助剤が覆う事で触媒に酸素を供給するのを抑制するタイプなどがあります。
皮膜形成が早いほど、裏付きや擦り取られといった現象は改善できますが、印刷機上で皮膜を形成してしまってうまく印刷できない場合や、形成した皮膜が異物となる、また樹脂の架橋が進む事でインキ調子が硬くなってインキ調子が変化する、等の現象が発生する事がありますので、このような場合は『乾燥抑制剤』の添加をお薦めします。
続いては凹版(グラビア)印刷用インキについて
グラビア印刷はインキ中の溶剤成分が揮発して固形成分だけが残存する事で皮膜を形成する乾燥機構(蒸発乾燥)が主流である事から、溶剤が有する固有の揮発速度によって乾燥性に差異が発生します。従って、グラビア印刷の場合、乾燥性を上げる方法としては揮発性の高い溶剤を使用する。逆に遅くするには揮発性の低い溶剤を使用するという方法が一般的に取られ、補助剤というよりも、速乾型溶剤や遅乾型溶剤として使用される事の方が多いと思います。
この乾燥機構はグラビア印刷だけではなく、孔版(スクリーン)印刷、及び一部の凸版(溶剤型フレキソ)印刷も同様の乾燥機構でありますので、同様の対応となります。
なお、溶剤が揮発後に残存した固形分が皮膜を形成しますが、その際に樹脂同士の架橋を促進させる働きを持つ『硬化剤』と呼ばれる補助剤も存在しています。インキ盛りが大きい場合等は補助剤の使用について検討して下さい。
続いては凸版印刷用インキについて
凸版(フレキソ)印刷が多く使用されている用途として、段ボール印刷(水性型フレキソインキ)が挙げられますが、この印刷方式の乾燥機構は用紙中に溶剤が浸透する事で固形分が残存する乾燥機構(浸透乾燥)であります。
浸透乾燥の場合は、用紙中にどれだけ早く水が浸透するかによって乾燥性に違いが出てくるので、水の表面張力を下げる、あるいは揮発しやすくするようにアルコール等を添加する方法が取られます。逆に遅くするには乾燥性の遅い溶剤の添加等の方法が取られています。
なお、新聞印刷や活版印刷の乾燥機構も浸透乾燥であります。
新聞印刷は平版での印刷方式の為にインキ膜厚が非常に薄く、用紙(新聞紙)も吸油性が高い事から溶剤成分が浸透しやすいので乾燥性を上げる必要はあまりない事から、特に補助剤として乾燥性を上げる製品はありません。
活版印刷については、使用成分が平版印刷用インキと類似しており、乾燥が遅い場合は金属石けん等の触媒を添加して酸化重合と併用させる事も可能ですので、平版インキ用補助剤と同じ補助剤の使用について検討して下さい。
以上、補助剤として様々な製品概略を紹介させて頂きましたが、異なるメーカー同士の製品と補助剤の場合、相性が悪く、トラブル発生の懸念もありますので、実際に使用される際はメーカーに確認の上、ご使用頂きたいと思います。