生田信一(ファーインク)
ファインペーパー「グムンドカラーマット-FS」の魅力
今回のコラムは、前回の続きです。竹尾 青山見本帖にて、ドイツの製紙メーカーGmund社のラボルド友紀さん、BULLET Inc.の小玉文さんをお招きし、お話を伺いました。
前回のコラム「restaurant Goût のショップカードを活版印刷で作る」でご紹介した用紙「グムンドカラーマット-FS」のカラーシステムや各種作例、さらにドイツの風光明媚な場所に位置するGmund社の工場、ヨーロッパのファインペーパー事情についてお話しを伺いました。お楽しみください。
グムンドカラーマット-FSの魅力
最初に、グムンドカラーマット-FSの商品ラインナップを見ていきましょう。48色のカラー、5種類の連量構成は竹尾の「ミニサンプル A-8 グムンドカラーマット-FS」で全体を把握することができます(写真1、2)。
(写真3、4)はGmund社が制作した見本帳。カラー見本と種々の印刷サンプルが同梱されたキットです(非売品)。また印刷物の小冊子「Gmund Colors The System」(写真5 店頭で入手可)には、Gmund Colorsが開発された背景やカラーシステムの考え方や特徴がコンパクトにまとめられています。
まず、Gmund Colorsのカラーシステムについて見ていきましょう。前回の記事「restaurant Goût のショップカードを活版印刷で作る」でデザイナーの小玉文さんが作られたショップカードをご覧ください(写真6)。
小玉さんは、「紙を選ぶときに、改めて、グムンドカラーマット-FSの色のラインナップは絶妙だなと感じました。鮮やかな色や微妙な淡い色が同居しているのに、全体のバランスが良いところが素敵です」と語ります。この点は筆者も全く同じ思いです。
小玉さんが作られた12色のショップカードを見てラボルドさんは「まさにグムンドカラーマット-FSのお手本のような作りです」と語ります。それぞれの色の個性が際立ち、互いの色が喧嘩せず、全体にまとまりがあります。
クライアントである「restaurant Goût」は創作フレンチ料理店、ショップカードを通じてヨーロッパの雰囲気が伝わります。ラボルドさんは、「たとえばイタリアではお店のショップカラーとしてGmundのカラーシステムが使われている例があります。お店のチェーンの中で、ミラノ店だったり、ローマ店だったり、テーマカラーを決めてショッパーやショップカード、パッケージが作られていたりします」とヨーロッパの使われ方の事例を挙げられました。
「Gmund Colors」のシステムの特徴について、ラボルドさんは以下のように説明します。
「Gmundは今年で創立191年目になります。紙の色に対して長い年月をかけて取り組んできました。色数だけでもかなりの数があり、鮮やかな色もあればニュアンストーンの色もあります。ヨーロッパには素敵なファインペーパーのメーカーがいくつもありますが、そんななかでも『Gmundと言えば色だよね、他とは何か違った特別な色だよね』と思ってくださっています。
48色のカラーシステムに含まれる色は、10万種類もある色の中から、色の職人が掛け合わせする中で選ばれたものです。最終的には、鮮やかな色やニュアンストーンの色がミックスされたシステムが出来上がりました。カラーのシステムを作るにあたって大切にしたのは、単色でもきれいであること、さらに複数のチームの中にあってもバランスが取れて、それぞれの色が映えることです」
以下に、グムンドカラーマット-FSの小冊子から一部を引用しながらその特徴をみていきましょう。
Gmund Colorsの48色は、システマチックに縦軸の8つのカラーグループと、横軸の6段階のトーンから成り、全体で8×6=48色の構成になります。改めて(写真7)のカラー体系を拡大したショットを見てください。
縦軸の8つのカラーグループは以下の特徴を持っています。
グループ1 ─ クリアで際立った白からナチュラルクリームのトーンへ。
グループ2 ─ グレートーンのパーフェクトなグラデーション。
グループ3 ─ 素肌感のあるニュートラルなトーン。気分を更に引き立てます。
グループ4+5 ─ 豊富なブルー。企業の70%がCIでブルーを採用しています。
グループ6 ─ パーフェクトレッドを中心とした温かみのあるトーン。
グループ7 ─ ピュアなイエローとフルーツを連想させる色。
グループ8 ─ 鮮やかなミントから深いオリーブまで揃うグリーン。
冊子では、色のマッチングにおいて「全ての色はどの色とも調和するように作られています」と解説されています。「色は単色で使われるととても素敵ですが、他の色と組み合わせようとすると、マッチするパートナー色を長い時間探し続けることになります。しかしGmund Colorsではその心配はありません。Gmund Colorsは全ての色が他の色とも調和するようにデザインされているのです。特に他のカラーグループの色と組み合わせるとその効果がより発揮されます」
カラー展開の例として、(写真8〜10)のパッケージの実例を見せていただきました。どの色も際立ち、全体としてまとまりがあります。お店に並べた時、単色であってもきれいで、ディスプレイで横に並べたときにも色にまとまりがあってバランスが取れます。色の組み合わせによるシリーズ展開を検討するときに効果的であることがおわかりいただけるのではないでしょうか。
カラーシステムの個々の色は、具体的な色名はなく、番号で指定するようになっています。このことについてラボルドさんは次のように語ります。
「色のコミュニケーションは難しく、言葉の伝言ゲームで色の印象が変わってしまうことがあります。ショッパーを作るとして、フランスから中国の加工メーカーに依頼するような場合には、感性で色が変わってくるんです。色に具体的な名前を付けると、海外のマーケットに行った時に伝わり方が違ってしまうことがあります。そうした理由で、世界共通の番号を作ろうということになりました」
また、様々な印刷・加工に対応することも、大きな魅力です。冊子には「Gmund Colorsの製品は、開発段階で何度も適正試験を行い、オフセット印刷、デジタル印刷、活版印刷、シルクスクリーン、エンボス、箔押し、銅版印刷、抜き加工などの主だった印刷・加工技術に適するように作られました」と解説があります。サンプルキットには、さまざまな手法で印刷・加工された見本が同梱されています(写真11)。
Gmund社の製紙工場
今回のコラムを掲載するにあたってラボルドさんから、周辺の恵まれた環境の風景や抄紙機が稼働する工場などの写真を見せてもらいました。
(写真12、13)は社屋近くのテーガンゼー湖。テーガンゼーはミュンヘンから車でも電車でも1時間ぐらいで行けるそうです。保養地として有名で、休日には多くの人で賑わうそうです。(写真14)は、テーガンゼー湖を水源にするマングファル川。マングファル川に沿い1キロほど北上したところに、Gmund社の工場があります(写真15)。
工場の様子は(写真16〜20)を参照ください。グムンドカラーマット-FSが作られる製造ラインのショットを見ることができます。抄紙に必要な水は、湖や川ではなく、地下水を汲み上げて利用しているそうです。
色の作り方について貴重なショットを提供していただきました。ラボルドさんは語ります。「染料や顔料を組み合わせて作られています。染料をそのまま使うのではなく、計量カップで調合していきます。それぞれ色のレシピがあって、職人が2種類から7種類くらいの染料を掛け合わせています」
(写真21〜22)はグムンドカラーマット-FSの倉庫の写真。ロール状の原反を見ることができます。
(写真23〜25)は、Gmund社の会社案内の冊子です。この中で工場の風景が美しい写真で紹介されています。豊かな自然の環境の中でファインペーパーが作られていることが伝わってきます。
ヨーロッパのファインペーパー事情
ラボルドさんにグムンドカラーマット-FSのヨーロッパでの製品事例を見せてもらいながら、ドイツやイタリアなどのヨーロッパのファインペーパー事情を伺いました。日本の紙文化と比較すると、慣習の違いなど興味深い側面が見えてきます。
「ドイツは紙文化の国で、クリスマスカードや誕生日カードを紙に書かれる方が多く、文房具屋さんに行くと素敵なカードが置いてあります。そうしたお店でGmundのカードを見ていただく機会が多いんです。ですから、Gmundの紙が色を追求し環境に配慮して作られてるということを、ありがたいことに多くの方に知っていただいています。
ドイツでは、メイド・イン・ジャーマニーということが大切にされています。ドイツに限らず、ヨーロッパ全体がそうなのですが、環境意識がすごく高くなっています。日本のSDGsやサスティナビリティの動きと同じで、資材に対して気を配っているということが企業メッセージになります。企業が刊行するカタログや文具メーカーのパッケージにGmundのロゴが入っていて、それが環境保全に対する取り組みをしているという企業メッセージになるんです」
インタビュー中、作例を見せていただきながら終始話題になるのは色の絶妙なチョイスのことでした。ホテルのカードで貼合加工のものを見せていただきましたが、合わせる紙のチョイスでイメージや雰囲気が全く変わり、素敵な色の組み合わせになることが実感できました。封筒と中に入れるカードの色を変えたりと、さまざまな場面で応用できそうです。
ラボルドさんは語ります。「こうした色の組み合わせを楽しむ文化はドイツでは日常的で、ファッションやジュエリーなどのデザイン界にいらっしゃる方だけでなく、たとえば街の商店の方がショップカードを作っていたり、ファインペーパーが身近にあります。企業で使われる一筆箋やカードも200〜300kgの厚い紙に手書きでメッセージを書き添えることが多いです。そうしたカードにニュアンスカラーを選ぶことで、企業や店舗の差別化を図ることができます。『このカードの色はあのお店だ』と印象付けることができます」。(写真26、27)はカードや封筒の作例です。
ショップや商品パッケージのファインペーパーの事例(写真28、29)を見ながら、さらにお話を伺いました。「たとえばイタリアではチェーン店のショップカラーとしてGmundのカラーシステムが使われている事例があります。ミラノ店だったり、ローマ店だったりと、店ごとにテーマカラーを決めてショッパーやショップカード、パッケージが作られていたりします。さらに季節ごとのイベントもいろんな色の紙が使われています」
話は、日本とヨーロッパのパッケージに対する考え方の違いに及びました。ラボルドさんは語ります。「ヨーロッパのお店では、商品をあまり包んでくれないんです。日本は、ほんとにきれいに包んでくれます。元々きれいなパッケージなのに、さらにラッピングされて、さらにショッパーに入れてくださって…。一方ヨーロッパでは、日本では考えられないのですが、パッケージにはPPやニスなどの表面加工はあまり施されません。輸送で傷や擦れは発生しますが、それよりも触ったときの紙のナチュラル感が大切にされています。そいうったところは、日本とヨーロッパの感覚の違いでしょうか」
雑誌やカタログの表紙にグムンドカラーマット-FSが使われた例もあります。毎号の表紙に使用すると本棚に背が並んだときにまとまりが生まれます。(写真30〜33)はGmundが刊行する雑誌「GMUND PAPER」。紙面はGmundのさまざまな紙に印刷されたビジュアルブックになっています。巻末には用紙見本が付いています。
今回の取材では、紙そのものの質感、厚み(重量)に加えて、紙本来の色を活用することで、プロダクトの可能性が大きく広がることが実感できました。カラーペーパーは種類や色数も増え、益々充実していますが、それでも色選びは毎回悩むテーマです。グムンドカラーマット-FSのカラーシステムは長年の歴史と経験の蓄積から生まれたカラーシステムであることを知り心強く思いました。カラーサンプルを眺めているだけでも豊かなイメージが想起されます。ぜひ実際に触れてみてください。
では、次回をお楽しみに!
Gmund社について
社名 Büttenpapierfabrik Gmund GmbH & Co. KG
本社所在地 Mangfallstraße 5 83703 Gmund am Tegernsee Germany
電話 +49(8022)7500-0(代表)
Web www.gmund.com
日本代理店
株式会社 竹尾
本社 東京都千代田区神田錦町3-12-6
Web www.takeo.co.jp