生田信一(ファーインク)
レタープレスポスター&フレーム─NECKTIE design office 千星健夫さんを訪ねて
今回と次回のコラムは、NECKTIE design officeのデザイナー 千星健夫さんの作品を紹介します。
千星健夫さんのお仕事は、GRAPHIC・WEB・PRODUCTとジャンルをはみ出してデザインしていることが特徴です。NECKTIE design officeのWebサイトのトップページでは、「NECKTIE」の単語を使った100種類のグラフィック表現のムービーを見ることができます。多彩なグラフィックを見ると、千星さんが活躍されていいるフィールドの広さを実感できます。
多彩な分野のお仕事の中で、今回ぜひ紹介したいのは「レタープレスポスター&フレーム(Letterpress Poster & Frame)」のプロダクトです。活版印刷によるポスターとそれを収納する真鍮製のフレーム、木製のスタンドから成っており、とても美しく仕上がっています。
今回のコラムでは、プロダクトに込められた思いをできるだけ詳しく紹介したいと思います。
プロダクトが生まれたきっかけ──子供のために鯉のぼりのポスターを作る
千星さんは、デザインのお仕事と併行して、写真撮影や活版印刷も手がけておられます。仕事場は、東京・JR中央線吉祥寺駅を下車、井の頭恩賜公園を抜けてしばらく歩くと到着します。仕事場のスペースがとてもユニークで、以前、アーティストのご夫妻が建てらたものをそのまま借り受けているとのこと。地上部にはアトリエが2棟並び、2つの建物は地下でつながっているとのこと。地下は在庫スペースなどに使用しているとのことでした。1Fの仕事場でお話を伺ったのですが、自然光が入る明るい部屋で、楽しいお話をいっぱい聞かせていただきました。
お伝えしたいことは多岐にわたるのですが、今回は「レタープレスポスター&フレーム」のプロダクトをメインにお話しします。NECKTIE design officeサイトから、「プロダクト」ボタンをクリックすると「SHOP by NECKTIE」のページが開きます。今回のコラムでは、こちらのページに掲載の写真をお借りしてプロダクトの特徴をお話ししていきます。
「レタープレスポスター&フレーム」の作品は、現在6種類が販売されています(写真1、2)。最初に取り上げる「鯉のぼり(BOY’S DAY)」のポスターはその中の1つです。
「レタープレスポスター&フレームは自分に男の子が産まれて、自分の家のキャビネットに置ける鯉のぼりを作りたい、というとても個人的な欲求からスタートしたプロダクトです」と千星さんは語ります。
「鯉のぼりは昔から子どもの健康と出世を願い飾られてきました。今も昔も親が子に思う気持ちは変わらないですが、生活スタイルや住環境は大きく変わり、鯉のぼりが風にそよいでいる姿をあまり見かけなくなりました。かくいう私の家も、大きな鯉のぼりは飾ることができません。そこで比較的スペースのあるキャビネットの上なら、自分の家はもちろん、いろんな家でも飾りやすいのではと考えデザインを始めました」(写真3、4)。
フレームにはフックが付属されていますので、モビールのように吊り下げても楽しいです(ムービー1)。これなら住環境が厳しくても、鯉のぼりを泳がすことができそうです。
活版ポスターを収納するフレームとスタンド
このプロダクトの特徴は、美しく仕上げられたフレームとスタンドです。「繊細な印象の細い真鍮製のフレームは京都の精密金属加工会社で製作されています。細く裏板のないフレームのため何度も構造を検討し、小さなビスだけで四辺を留める構造を開発しました」と千星さんは語ります(写真5)。
フレームを立てるスタンドは、木の感触が手に優しく馴染みます。「日本家屋などでよく見かける衝立の脚をモチーフにデザインし、無垢のオーク材を削り出して製作しました。古材風の仕上げをしています」と千星さん(写真6、7)。
さらに、壁面にも取り付けられるよう、フックが付属されています。壁面にピンで留めたり、モビールのように吊り下げても楽しいです(写真8〜11)。
ポスターはビンテージの活版印刷機で1枚1枚ハンドプリント
ポスターはビンテージの活版印刷機で1枚1枚ハンドプリントで製作しています。紙は風合いのある徳島のコットン100%の阿波和紙を使用。ハンドプリントで印刷されているため、カスレやムラがあり、1枚1枚それぞれ違った表情を持っています(写真16〜19)。
そのほか5種類のポスター
残りの5種類のポスターを紹介します。
ポスター:No Phone(スマートフォンを置いて話をしよう)
スマートフォンという現代の象徴的な事象を、レタープレス(凸版印刷)という過去の技術を用いて表現したポスターです。スマートフォンは古い百科事典のイラストなどでよく見られるハッチング(細い平行線)という技法で描かれています(写真29、30)。
ポスター:OUR OATH(宣誓)。
OUR OATHは恋人やパートナーとの宣誓書です。「1. To always be honest.(常に正直であること)」「2. To never forget to smile and say thank you.(ありがとうの言葉と笑顔を忘れないこと)」「3. To trust and help each other.(信頼し助け合うこと)」「4. To value each other.(お互いを大切に思うこと)」「5. To never forget the importance of the past, and believe in the future.(過去を忘れないこと、未来を信じること)」という文章を記載しています(写真31、32)。
ポスター:Silent Night(サイレントナイト)
「きよしこの夜」の歌詞を古いビンテージの金属活字で手組み組版し、金インキで活版印刷したポスターです。印象的な赤い紙はイギリスの有名製紙メーカー・アルジョウィギンズ社製。フライドポテトなどじゃがいもの加工途中に排出されるデンプン成分を紙の表面にコーティングした独特な質感をもった紙で、力強くはっきりした色味にもかかわらず派手すぎない落ち着いた印象が特徴です(写真33、34)。
ポスターの文字は、デザイナー自ら古いビンテージの金属活字を手組み組版し、活版印刷機で1枚1枚ハンドプリントで製作しています(写真35〜38)。
ポスター:Reindeer(レインディア)
古い百科事典のイラストなどでよく見られるハッチング(細い平行線)の技法で製作したポスターです。赤いマフラーをしたトナカイは、あらたにデザイナーみずからオリジナルのイラストで描きおこしました。赤いマフラーが華やかにホリデーシーズンを彩ります(写真39、40)。
イラストは樹脂版で印刷版を作成、2色で刷り分けられています。紙は風合いのある徳島のコットン100%の阿波和紙を使用(写真41、42)。
ポスター:Tree(ツリー)
ポスターTree(ツリー)では振り金(ふりきん)と呼ばれる技法で製作しています。通常の金インキでは出すすことができない、また箔押しとも違う、落ち着いた輝きがインテリアに馴染む華やかさになっています(写真43、44)。
振り金加工は卒業証書や賞状などの縁の装飾でよく使用されていましたが、非常に手間がかかること、また近年箔押し加工の技術が発達したこともあり、現在ではほとんど使われることがなくなりました。通常の振り金加工はオフセットで透明な糊を印刷し、その上に真鍮粉をふりかけますが、今回は活版インキが乾きにくい特性を生かして金インキを活版印刷機で印刷したあと、インキが乾かないうちにすぐ真鍮粉をふりかけ、インキが乾いた後に余分な真鍮粉を取りのぞくという工程で製作しています。
蒔絵も同じように漆に金粉を振りかける技法のため、このポスターではデザイナー自身が蒔絵の道具を使用し製作しています(写真45、46)。
筆者が千星さんのプロダクトを初めて知ったのは、2016年に発売されたWORDS SANDWICH(ワーズ サンドイッチ)というメッセージカードが発売されたときでした。アルファベットのWORDS(単語)をパンに挟んで贈るユニークなコンセプトのプロダクトです。タイポグラフィと活版印刷が美しいカードや封筒が魅力で、現在でも販売されています。
また2018年には、東京・世田谷のnostosbooksで上村一夫さんの活版印刷カードが販売された折りに千星さんフレームやスタンドを店頭でお見かけして、素敵な仕上がりに驚いたことを覚えています。今回のコラムで詳しくお伝えできてうれしいです。
次回のコラムでは、別の角度から千星さんのプロダクトをご紹介したいと考えています。お楽しみに!
[プロフィール]
千星健夫(Chiboshi Takeo)
1976年、兵庫県生まれ。GRAPHIC / WEB / PRODUCTとジャンルをはみだしたデザインを手がける。写真撮影や活版印刷も自らおこなう。デザイン事務所勤務を経て、2014年NECKTIE design officeを設立。
Interior Lifestyle Young Designer Award 2018受賞。朗文堂タイポグラフィースクール 新宿私塾 講師。
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