白須美紀
キュートで本格派の貼り箱たち
BOX&NEEDLE KYOTO
紙そのものの魅力に心うばわれる
ドアを開けた瞬間に、カラフルでキュートな紙の世界へ一瞬でトリップしてしまうお店がある。個性的かつ実用的な貼り箱が豊富に揃う、BOX&NEEDLE KYOTOだ。店内を歩けば歩くほど気になるプロダクトが見つかってしまうためなかなか歩みが進められず、素敵な紙の迷宮に迷い込んでしまったような心地になる。貼り箱に使われている紙は世界17カ国から選び抜いたデザインペーパーをはじめ、どれも魅力的なものばかり。なかでも作家と直接交流して図案から考案し一枚いちまい和紙に手刷りされるオリジナルペーパーは、どのデザインも愛らしく生き生きとしている。お店の2階ではそれらの紙自体もディスプレイされており、1枚から購入することも可能だ。
ショップスタッフの中川志織さんも「紙はやはり、オリジナルペーパーが人気です」とうなずく。
「陶芸作家であり様々な分野でご活躍の鹿児島睦さんや、イラストレーター・絵本作家としてスイスで長きにわたり活動を続けておられるフーバー・葵さん、木版作家の本田このみさんやグラフィックデザイナーのいのうえ彩さんといった方々とコラボレーションしています。現在50種類以上ありますが、毎年新作も作っているんですよ」
中川さんによれば、これらの紙たちは模様だけにこだわっているのではないという。
「BOX&NEEDLEでは、紙自体の質感が貼り箱作品の魅力を左右する重要な要素だと考えているんです。セレクトペーパーは柄が引き立つことはもちろんですが、手触りや強度、透け感も考慮して買い付けています。オリジナルペーパーは、昔から使われてきた和紙が中心です。美しいうえに強度があり細工もしやすいため、貼り箱に最適な紙なんですよ。京都の伝統的な和紙と世界中のクリエイターの持つ独特な色彩や模様の要素を融合させることで、手に取ったときにわくわくしたり、発見があるような特別な紙づくりを目指しています」
伝統に裏打ちされた確かな技術力
こだわり抜いた紙をどう生かすのか、そこにたくさんの工夫があるのがBOX&NEEDLEの真骨頂だ。引き出しや道具箱、円形の帽子ケースといった収納用途の箱以外にも、二つに折りたためるフォトスタンドや、仕切りの小箱をカスタムできるJewelry Box、手軽なPAPER TRAY など、ユニークな貼り箱アイテムが豊富に揃う。
しかも見逃せないのは、それぞれの仕立ての確かさだ。どんな複雑な製品もすみずみまで美しく端正に仕上げられており、頑丈な形状になるようにさまざまな工夫が施されている。「この製品は強度を持たせるために見えない部分を二重にしてあります」「この製品は一度も床に置かず手に持ったまま仕立てるんですよ」と、それぞれの説明を聞くたびに技術の高さに感心してしまう。単に模様が可愛いだけではなく、箱としても上質で実用的な本格派ばかり。それもそのはず、BOX&NEEDLEは、大正時代から続く京都の貼り箱メーカー・マルシゲ紙器が母体なのだ。
「本社では職人さんたちが、BOX&NEEDLEのオリジナルアイテムはもちろん、さまざな企業やショップなどからのご依頼に応えて、企画から印刷、手貼りまで手がけています。私たちは、BOX&NEEDLEのアイテムを単なる収納のための箱ではなく、暮らしに寄り添う道具であり、贈り物として想いを届けるメディアであると考えているんです。手仕事のていねいさを大切に、使う人に『持っているだけで嬉しい』と感じてもらえるものを目指してものづくりしています」
オーダーやワークショップのサービスも盛りだくさん
また、箱以外に人気なのが、その場で表紙とリフィル、リングの色、バンドの有無などを選んでオーダーする「PLAYFUL NOTES」だ。お店が混んでいなければその場で製本してもらえるのも嬉しい。ふらりとお店に入ってきたインバウンドのお客様がノートを作っていくことも多いという。
そしてもうひとつ見逃せないのが、店内で定期的に開催されるワークショップだろう。実際に貼り箱づくりに使われる膠を使って接着し、自分で箱をつくる体験ができるものだ。
「ワークショップのメニューは普段販売していない限定品が多いので、特別感があってお客さまにも喜んでいただいています。卓上で使いやすいような小ぶりで便利な箱が特に人気がありますよ」
BOX&NEEDLEのワークショップはプロの技を教わるチャンスでもあるため、全国から参加申し込みがあり、常連参加者も多いのだそう。予約スタートとともにすぐ席が埋まる講座も少なくないという。
また月替わりで開催される「オーダーメイドフェア」も見逃せない。その月のテーマ製品を、好きな紙でセミオーダーすることができるサービスだ。通常は3万円以上の購入でなければオーダーはできないため、テーマの製品が欲しいものだった場合はラッキーだ。
「貼り箱はすべて手作業で制作していますので大量に生産ができず、『この紙でこの形が欲しい』というお客様の個別の要望に細やかに対応できないのが悩ましいところなんです。けれどできるだけ好みの箱に出会っていただきたいという想いから、オーダーメイドフェアの企画が生まれました」
お買い物をしたり、理想の品を求めてオーダーしたり、自分で貼り箱づくりに挑戦したり。BOX&NEEDLEには、紙や貼り箱を楽しんでもらうためのさまざまな工夫が溢れている。従来、焼物や扇子、菓子など「大切なものを保護し、価値をあげる」という役割を担ってきた貼り箱は、いわば縁の下の力持ちのような存在だった。しかしBOX&NEEDLEによって、使う人の日常をカラフルに彩る「持っているだけで嬉しい大切なもの」へと進化を遂げたのだ。
BOX&NEEDLE KYOTO
京都市下京区烏丸通六条下る北町195−2
075-354-0351
10時〜18時
無休
webサイト:https://boxandneedle.com/
オンラインショップ:http://boxandneedle.shop-pro.jp/