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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]④
活版ワークショップレポート
「ヴィンテージペーパーで糸綴じノート作り」

活版印刷機「ADANA」

 

赤い胴体、上部には何か訴えかけてくるように円盤がこっちを見ている、不思議な形。
何かの機械なんだろけど、あんまり見たこともないな、と視界に入るたび思っていた。
思うだけ。
その機械の上には10年ちかく分の埃がうっすらとかぶっていて、使われた気配も、使われる気配もなく、私たち資料保存ワークショップの道具類の収納されている棚に、ずっとそこにあった。
それが活版印刷機だということ、知ったのは3年ほど前だろうか。
日ごろ図書の修理や製本について指導頂いている主催のT氏が知人から譲り受けられたと聞いた。
その赤い胴体の側面には
「ADANA」と型が押されてある。
「アダナ?」「あだ名?」ふーん。
そんな感じで眺めるだけ。

クラフトや手作りのものが好きな私は、休日は、雑貨店や興味のある作家さん、クリエイターさんの関わられているイベントへ足を運ぶ。みなさん宣伝媒体としてショップカードやフリーペーパーなどを配布されている。そのどれもが印刷へのこだわりを感じものばかり。活版印刷の体験イベントなんてものもここ1、2年で見る機会が急に増えてきた。
印刷、・・・印刷って・・・オモシロイ!
活版印刷?それ、あるやんか!持ってる、持ってる!
私の頭の中でガチンとリンクしたのだ。

私たち資料保存ワークショップは、取りまとめ担当の職員の異動が相次ぎ、参加者も減る一方、なぜか引き受けてしまった連絡役。何をしたら人離れを食い止められるかも分からず、ぼんやり悩む。どげんかせんと、とは思いながらも、何も手立てはない状態で、ただただ、月日が流れるのみだった。
存続危ぶまれていた資料保存ワークショップの巻き返しに、私はその「ADANA」へ、白羽の矢を立てた。

そんな頃、たまたま近所に活版印刷のお店を見つける。
やるしかないでしょ!というもう一人の私の励まし。
自動ドアの向こうへ足を踏み入れ「あの~、ADANAという活版印刷機があるのですが、どうやって動かしたらいいか分からないのですけど、指導してもらうことはできませんか?」と切り出したのが始まりで、約半年を経て、先日3月4日(土)の「ヴィンテージペーパーで糸綴じノート作り」イベント開催へとつながったわけです。

活版印刷機「ADANA」

 

もう何年も、いやもしかしたら1度も動かされたことなどなかったかもしれないその「ADANA」が、京都活版印刷所さんの職人の手により、時間をかけて丁寧に整備、調整されてゆく。
赤い体のその子は、ゆっくりと目を覚ましていった。

始めは私たち資料保存ワークショップメンバー自分たちの手で「ADANA」を動かし、何か作ることができればという目的で門を叩いたのだが、いつの間にか話は京都活版印刷所さんでワークショップを開催することへと急速に進んでいったのだ。
印刷のことはさっぱり分からない図書館員と、本の修理について興味津々の京都活版印刷所さん。せっかくこの協力関係でワークショップをさせてもらうのだから、ただADANAで印刷するだけではなく、私たちの日ごろの活動についても知ってもらえる機会となるだろうから、と初心者でも簡単にできる方法でノートを綴じ、その表紙にADANAで好きなワンポイントの図柄と文字を印刷するオリジナルノートを作る形にした。
印刷屋さんという環境は、非常に恵まれている。
ノートの本文となる紙も印刷も、手配してもらえるのだ。

フランスのムーラン社製の手漉きコットンペーパー

 

今回のワークショップのこだわりの材料を紹介しよう。
ヴィンテージのものだというフランスのムーラン社製の手漉きコットンペーパーを見せてもらった私たちメンバー、一目で気に入ってしまい、贅沢にもその紙を使わせてもらうことに。
手触りはあたたかみがあり柔らかく、コットンが漉き込まれているので、紙であるのにまるで柔らかな頒布のようにも感じるほど。手すきなので端はもやもやと毛羽がある。
少し褪せたような色合いもいい。
色は淡いブルーとグリーンの2色から選べるようにさせてもらった。

パンフレット綴じ

 

それから、綴じ方について。 パンフレット綴じと言われる、その名の通りパンフレットなど本文枚数の少ない冊子を綴じるのによく使われるもので、中綴じともいわれる綴じ方でする。
ただ、最近は糸で綴じられたものは少なく、ホチキスでとめられたものばかりが目に付くが、図書館の資料保存の観点から見ると、ホチキスで綴じるスタイルは長期保存には向いていない。経年によりホチキスは錆び、その周辺の紙をも酸性化させ冊子そのものの破損の原因になるので、長期保存するものや既に酸化しているものは、可能な範囲でホチキスを外し、糸で綴じ直すという作業をしている。
この綴じ方、完成すると表側の背に綴じた糸が大きく出てくるので、綴じ糸はノート全体のデザインのアクセントとなるもの。
その綴じ糸は、家庭用縫い糸では国内シェア1位の京都の糸メーカー、株式会社フジックスさんのもこもこした風合いのステッチ糸「MOCO」を、なんと協賛という形でご提供頂いたのです。それも60色入りとグラデーションカラーの20色入りの計80色の中から好きな色を参加者に選ばせてもらえるという、これまた贅沢なもの。

株式会社フジックスさんのもこもこした風合いのステッチ糸「MOCO」

 

製本指導は私たち資料保存ワークショップ、印刷は所蔵のADANA、初稼働を京都活版印刷所職人の腕で。
いかがでしょうか!?(まるで、どこかのまとめサイトのまとめの文句)、初めての学外でのワークショップだというのに、こんなにも恵まれた材料を用意できたのは、ひとえに京都活版印刷所さんのお蔭です。

フランスのムーラン社製の手漉きコットンペーパー

フランスのムーラン社製の手漉きコットンペーパー

パンフレット綴じ

 

株式会社フジックスさんのもこもこした風合いのステッチ糸「MOCO」

株式会社フジックスさんのもこもこした風合いのステッチ糸「MOCO」

当日、参加者は私たちメンバー含め6名。
簡単にこの日までの経緯を話し、自己紹介、それから作業にかかる。

1. コットンペーパーの色を選ぶ、全紙大縦三等分、横三等分に折り目をつける。
2. さらに、それを半分に折り、しっかりとヘラを使って折り筋を付ける。
3. 2.で付けた折り筋の真ん中とそこから等間隔上下の3点に目打ちで穴を開ける
4. 3.で開けた穴に仮綴じ用の糸で綴じる。中央の穴へ、背の外側から糸を通す。
5. 中央上の穴、内側から外へ糸を通し、一番下の穴、背の外側から内側へ糸を通す。
6. 背の内側中央の穴へ通し外側へ。初めに同じ穴から通した糸と5.で通した糸で上下に渡された糸を挟むようにし、結ぶ。
7. 本文紙小口となる部分が袋綴じの状態になっているので、カッターで切り離す。
8. 仮綴じの糸を外し、表紙をADANAにセット。各自でレバーを引き印刷。
9. 選んだ糸で8.で印刷した表紙を合わせて本綴じ
10. 完成

私たちが製本作業を進める間、ADANAのセットを奥で黙々と職人さんにしてもらう。
チェイスと呼ばれる枠の中に希望の活版を組んでゆく「組版」という作業、ADANAの円盤にインクが置かれ、レバーを数回引いていくと、インクはまんべんなく広がってゆき、円盤は鮮やかな紺色一色の面を光らせた。
刷る時の版と紙とが接する部分の微妙な調整には、素人ではできない経験がものをいう微調整が施されてゆく。
元町工場の娘である私は、そういうものづくりの現場を目にすると、心の奥深いところから静かに興奮が沸き上がる。感覚を頼りに人の手によってものが出来、形になってゆく。
今ようやくまた新しいものづくりの世界に足を踏み入れられた喜びの瞬間だ。

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

ワークショップ風景

 

2時間ほどの予定のワークショップだった。
蓋を開ければ、参加者はほとんどが身内だったこともあり、始めから和やかで冗談やちょっとした失敗も交じりながらの作業だったが、仕事場を離れていつもとは違う場所での作業は、刺激的だった。

 

 

 

存続危ぶまれた資料保存ワークショップは、また次回のワークショップに向けての相談を進めている。
「ADANA」を自分たちの手で動かせるその日を目指し、本の仕組みのこと、直すこと、長く保存することを広めて行けるよう活動続けていきたい。

 

今回は、素人のワークショップにも拘らず、カメラマンさんまでつけて頂いた。
想像していなかったので、うれしい驚き。
みんないい笑顔。赤い体のあの子もつやつやうれしそうである。

京都大学資料保存WS
小梅

 

 

 

 

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図書館資料を自分たちの手で補修したい、大学図書館員によるワークショップです。
資料保存に役立つ実践的な情報の発信も目指します。

※【活版印刷研究所より】
京都大学図書館資料保存ワークショップとは、活版印刷機(adana8x5)をお持ちで、動かして自分達で印刷したいとのご相談を頂いたのがご縁でした。
紙モノ、印刷、本と共通する事が多く、本の修復に情熱を捧げていらっしゃる事に共感しました。
海外の図書館には、本の修復室があることがスタンダードとお聞きしましたが、日本にはそのような文化がまだないそうです。
本を修復していく事を広めていく活動を図書館関係者はじめ、たくさんの方に共有頂ければと思い、ご執筆をご依頼いたしました。

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