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紙ノ余白
染めと仕立ての紙ノ余白の仕事

染めと仕立ての紙ノ余白の仕事 - 紙ノ余白

今回は私、紙ノ余白が一体どんなことをしているのか、お話させてください。

私は芸大の銅版画を専攻していて、雁皮紙による多層コラージュ技法による制作がきっかけで、和紙により興味を持つようになりました。

卒業後、「和紙」「版」「生活を彩るもの」という私にとっての3大キーポイントが揃った京都唐紙制作工房「唐長」へ修行に入りました。

唐紙の制作工程は「板木(はんぎ)」による木版刷りを皆さん良くイメージされますが、もう一つ、「具引き」あるいは「染め」という大切な工程があります。
具、とは、絵の具の「具」のことで、そういった胡粉や雲母などの顔料を刷毛で染めることを「引く」と言います。
絵の具で和紙を覆うというより、和紙の素地を活かす薄化粧仕上げにすると、和紙と具が年々馴染んで、品の漂う唐紙になります。

刷毛染め。100枚染めるのであれば、100枚全て刷毛に含む絵の具の量と刷毛を動かす回数を揃えなければ、仕上がりにムラができてしまいます。 - 染めと仕立ての紙ノ余白の仕事

刷毛染め。100枚染めるのであれば、100枚全て刷毛に含む絵の具の量と刷毛を動かす回数を揃えなければ、仕上がりにムラができてしまいます。

この技法はつまり、刷毛で和紙の表面に触れるのですが、和紙の見極めと絵の具の調合を誤ると和紙の繊維が毛羽立ったり、水分を吸った和紙の伸びを感覚的に読んだ刷毛の角度で適切なスピードで染めなければ、途端にシワだらけの染め紙になります。
これは染める手が変わると答えが変わるので、先輩や、当主、若当主が工房で悪戦苦闘する私の前を通りがかけにアドバイスを言ってくれても、3人3様で実は頭の中は?だらけになっていました。

私はこの、染め始めると豹変する和紙の変化が恐怖で、修行時代は染めに苦手意識を持つようになりました。
それは今思うと、染めている「和紙」という相手を知らず、自分の感覚や手加減がどう間違っているか理由が分からなかったからです。

このコンプレックスと、愛知県の紙漉きの方との交流がきっかけで、和紙そのもののへの自分の無知を痛感し、唐長を退職して島根県石州和紙へと修行に赴きました。

前回までにお話した様に、石州では楮栽培から、日常の原料処理、紙干しをしながら、時には建具張りなどの施工もしつつ、めまぐるしく日々を過ごしていました。
ある時から紙を漉きながら、紙床に重なる湿紙を見ていると、それがどんな加工をして、どんな商品になり、どんなディスプレイで、どんな人の手元に届くのかが、私の強い関心であることを自覚するようになりました。
それは、初めて師匠にお会いした時から、「2次加工、加工装飾」という紙漉きの次の工程で、石州和紙に関わり、伝えるという役割が果たせれば良いなと話していたように思います。

石州で施工や商品企画をしていていると、今まで京都で学んだことが、まだまだ私の中に経験や知識として蓄積されていないこと、県外の自分が、「石州で学んだから、石州和紙が良い」という理由はあまりに説得力がなく、和紙の各産地の特徴、それぞれの風土、歴史と違いを知って初めて、和紙を求めておられるその相手の用途に応じた「良い和紙」をお伝えできるのではないか?と思う様になりました。

和紙の2次加工の文化があり、厳しい目を持つお客さんがいる所といえば・・京都だとその時思いました。
滝に打たれなければ。
と思ったのです。
それも早いうちに。

京都に戻り、制作環境を整え、自分の制作技法の確立と、方向性や販路を考える日々を過ごす中、唐長の修行時代に、よく見せてもらっていた「揉み紙」というテーマに辿り着きました。

貴重な揉み紙の資料。揉み方も色あわせも巧みです。 - 染めと仕立ての紙ノ余白の仕事

貴重な揉み紙の資料。揉み方も色あわせも巧みです。

二層の顔料引きをした染め紙を手で揉み、一層目の顔料剥離を起こし、複雑な皺模様を表現する技法です。
言葉で言うと、簡単ですが、これは和紙そのものの和紙の素地が、強く、緻密で、かつしなやかでないといけません。
そして、顔料調合の正解の的がかなり小さいのです。
揉んだ時、剥離しすぎてもいけませんし、逆に和紙にしっかり染めついて取れないと意味がありません。
これを専門的にされていた松田喜代次さんの揉み紙や資料を見て、京都の重要文化財の住宅の今でも使われている揉み紙の襖を拝見したりと、美しさと難しさとに魅了されていきました。

この分野はまだまだ私の修行と挑戦の段階です。
ライフワークとして、これからも研究したいです。

つまり、私は今、唐長で苦手だった染めをメインに和紙装飾をしています。
無地の和紙が一番自然ですが、その魅力をさらに引き立てられないかと思っています。

揉み紙であれば、美濃和紙を、素朴で強い石州和紙は、植物染料の揉み染めなど、その和紙に応じた染め技法を探すことが私のコンセプトです。
今は各産地の若手の漉き手の方と新たな商品や和紙表現を一緒に模索する試みをしています。
また、揉み紙を始め、丁子引き、箔押しなど先人たちが残した装飾技法を現代の日常で使われるものに変換したいと思っています。
産地や和紙研究の方が残している資料を見ると、先人たちの試みの熱意と試行錯誤の膨大さに圧倒されます。
それに学びたい。

「温故知新」
この言葉が紙ノ余白のテーマです。

染めと仕立ての紙ノ余白の仕事 - 紙ノ余白

刷毛染め。100枚染めるのであれば、100枚全て刷毛に含む絵の具の量と刷毛を動かす回数を揃えなければ、仕上がりにムラができてしまいます。 - 染めと仕立ての紙ノ余白の仕事

刷毛染め。100枚染めるのであれば、100枚全て刷毛に含む絵の具の量と刷毛を動かす回数を揃えなければ、仕上がりにムラができてしまいます。

貴重な揉み紙の資料。揉み方も色あわせも巧みです。 - 染めと仕立ての紙ノ余白の仕事

貴重な揉み紙の資料。揉み方も色あわせも巧みです。