紙ノ余白
内山紙を訪ねて
長野県で漉かれる和紙があります。
県北東部の飯山市で漉かれる、内山紙(うちやまがみ)と言います。
飯山駅のすぐ近くにはスキーのジャンプ台があり、縦向きの信号と、恐らく雪解けの薬剤の影響だと思われる赤茶色になった道が、雪国に来たのだなと実感させます。
内山紙は江戸時代から楮の障子紙が漉かれて、長野県内や新潟県などで使われてきました。
楮の皮を深く積もった雪の上に並べ、太陽の紫外線と雪の水分がオゾンを発生させ、楮の繊維が白くなる「雪晒し」を行うのが特徴です。
障子の格子の高さでカットされ、横手を2~3ミリ重ねで継いで巻紙に加工されます。
明治時代からは、晒し粉での薬品漂白も行われ「真っ白」な障子紙が追求されています。
純白で、厚めで、継ぎがあるこの内山紙を障子に貼った豪雪地帯の家の中は暖かく、明るく、きっとホッとする風情なのだろうと思います。
地元に楮畑があり、雪が降り出す前の11月中旬あたりから刈り取りが始まります。
この産地も、楮の栽培が一つの岐路にあります。
実情を目の当たりにしてまだ数週間かしか経っておらず、どう考えたものか私も未だ反芻しています。
信州の山々に囲まれ、野沢菜畑やアスパラガス畑のすぐ横で抜けるような青空に向かって伸び上がるこの楮の風景がどうか残って欲しい。
そして、残したいと強い意志で踏ん張る若手の方がおられ、私は何度か交流をして、染めをさせて頂いていてその方が地元で展覧会をされる機会に、今回飯山に伺いました。
紙ノ余白の目指すところは、和紙それぞれ、産地それぞれの特徴を生かした染めをすること。
和紙が生まれる風景や背景が染めの重要な要素なのです。
内山紙の鮮やかな白さと繊維の存在感の強さを生かす方法を随分模索しました。
その模索と今回足を運んで吸った飯山の空気が、私の染めの一部になり、微力ながら内山紙を伝える風になれればと思います。