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紙ノ余白
『真っ白ではない石州和紙』続:石州和紙

椿

「未晒」という言葉がありますが、石州和紙の未晒は男性的、野性的と表現されるほど丈夫さ、強靭さが特徴です。
その理由を和紙の工程とともにお話したいと思います。

前回お話した「皮剥ぎ」をした楮の皮は乾燥して保管されるため、次の工程に移る前に、一晩ほど水に浸け、柔らかくします。

椿

『そぞり』

楮の皮は何層かに分かれています。
外側から『外皮』または『表皮』と呼びます。
石州では赤茶色の薄い皮を『さる皮』と呼びます。
皮剥の後の乾燥で、自然に風で取れていくものもありますが、残ったさる皮や傷や硬い皮は人の手で1本1本とりのぞきます。

さる皮も漉き込むチリ入りの和紙もある

さる皮も漉き込むチリ入りの和紙もある

この作業をそぞりと呼びます。
石州では包丁を使います。
右手に包丁、左手に外皮を上に皮の端を台に置き、角度と加減を調整しながら包丁を皮に当てながら、皮を引いて表皮を削ります。

包丁でそぞる

包丁でそぞる

外皮の内側にあるのが、『あま皮』。
うす緑色をしているこの部分を残す「なぜ皮」が、石州の最大の特徴です。
恐らく皮肌を撫ぜる(撫でる)ような包丁の当て加減を表した表現が由来です。
あま皮は細く短いので、石州楮の長い繊維の間に絡み合って、補強の役割をします。
紙肌が緻密になり、触ると、三椏紙のような張りのある感触と、雁皮紙のような高音の紙音がします。
あま皮の緑色が効いて、少し緑がかった濃い生成色の和紙になります。
これが石州和紙が真っ白ではない理由の一つです。

あま皮の下にある『白皮』は、楮のもっとも内側にある皮で、
この部分が多いほど白い和紙になります。

茶色のさる皮、緑色のあま皮、白色の白皮、と層になっている楮の皮

茶色のさる皮、緑色のあま皮、白色の白皮、と層になっている楮の皮

『煮熟』

そぞった後、大釜で楮を煮ます。
弱アルカリ性の薬剤で高温で煮ることで、繊維間を接着している物質や不純物が溶け、繊維が1本1本バラバラにほぐれます。

さる皮も漉き込むチリ入りの和紙もある

さる皮も漉き込むチリ入りの和紙もある

包丁でそぞる

包丁でそぞる

茶色のさる皮、緑色のあま皮、白色の白皮、と層になっている楮の皮

茶色のさる皮、緑色のあま皮、白色の白皮、と層になっている楮の皮

『チリ取り』

楮が畑で育っている時に、ツル科の雑草が巻きついて残った跡や、脇芽が出ようとした跡は硬いので、最後まで残ります。
楮を水に浮かせて、1本1本裏表返しながら皮に残っている、そういったチリを取り除きます。
工房に見学に来られた方から「大変な作業ですね」と良く言われますが、工房では、地下水を使うため、冬は気温が下がっても地熱で水温が高く、夏はひんやりしていて心地よいのです。
それに美肌の県と言われることもあり、水に手をつけているとかえって肌が整う気がします。
この水質が石州和紙には欠かせないもので、石州の水でなければ石州和紙は作れない、と同じ島根県の出雲の人間国宝安部栄四郎氏も言っておられます。
石州楮を使っても出雲の水では石州和紙の「味」が出ないと。
手漉き和紙はその土地の風土が生み出す独自性が魅力だと言えるエピソードだと思います。

チリ取りは2回行い、チリを残さないようにする

チリ取りは2回行い、チリを残さないようにする

『漉く』

チリ取りが終わると、ビーターにかけ、繊維をほぐします。
工程ごとに水にさらすので、灰汁抜きも同時に行われることになります。
漉き舟に楮とトトロアオイの根を砕いて抽出したネリを入れてよく撹拌し、いよいよ紙漉きの始まりです。
主に二三判という縦二尺横三尺の寸法で一人で漉きます。
「数子」で、紙肌を整え、「調子」で厚みを作り、「捨水」で余分な水や紙料を捨てます。

石州では縦揺すりだけで漉きますが、小刻みの揺すりを入れたり、簀桁の先を上下させることにより、漉きながら繊維が十分に絡んでいきます。

昔は男性が漉くことが多かった石州ですが、近代になり女性の漉き手も活躍しています

昔は男性が漉くことが多かった石州ですが、近代になり女性の漉き手も活躍しています

空気を入れることなく美しく湿紙を紙床に重ねられるのが熟練の技

空気を入れることなく美しく湿紙を紙床に重ねられるのが熟練の技

『紙干し』

漉かれた和紙は、紙床(シト)に重ねられ、一晩ほど寝かせた後、徐々に圧を加えながら水分を搾っていきます。
よく搾られることにより、1枚ずつ紙床から剥がすことができます。
銀杏の板に紙を貼り付け天日乾燥させる板干しと、蒸気で熱したステレンスの板で乾燥させるステン干しがあります。

板干しは天日に晒すので、山陰の強い日光の紫外線で干した和紙は干している間に少し白くなります。
同じ効果で、障子などに貼って使うと年々白くなっていくことが薬剤漂白をしていない手漉き和紙の特徴と言えます。

二三判を縦に2枚干すことができる銀杏の板は大きく重いので、和紙を干した後、外に出したり、にわか雨が降ると中に取り込んだりと、天日干しは力が要ります。
重い板を表面の和紙を傷つけないように持つにはコツがあり、工房の熟練のおばちゃん達の俊敏な動きにはいつも内心大きな驚きと尊敬でいっぱいです。

いつも空の様子を見ながらの板干し

いつも空の様子を見ながらの板干し

熱いステンレス板に、テンポよく紙を干してゆく

熱いステンレス板に、テンポよく紙を干してゆく

尊敬といえば、もう一つ。
紙すきは寒い冬に大変、というイメージが強いですが、夏のステン干しが実は大変だと、筆者は思います。
まだ比較的暑さのましな午前中に作業をするも、もうもうたる蒸気に満ちた部屋で、熱々に熱したステンレス板に1枚ずつ和紙を刷毛で干していくと、塩が吹き出るほどの汗が出てきます。
これを毎日しているおばちゃん達の汗があってこその和紙なのです。

チリ取りは2回行い、チリを残さないようにする

チリ取りは2回行い、チリを残さないようにする

昔は男性が漉くことが多かった石州ですが、近代になり女性の漉き手も活躍しています

昔は男性が漉くことが多かった石州ですが、近代になり女性の漉き手も活躍しています

空気を入れることなく美しく湿紙を紙床に重ねられるのが熟練の技

空気を入れることなく美しく湿紙を紙床に重ねられるのが熟練の技

いつも空の様子を見ながらの板干し

いつも空の様子を見ながらの板干し

熱いステンレス板に、テンポよく紙を干してゆく

熱いステンレス板に、テンポよく紙を干してゆく

こうして一連の畑での苗植えから乾いた和紙になるまでの作業が工房で行われます。
石州で育った楮を使い、あま皮を残し、薬品漂白をせず、石州の風土で漉きあげられた石州和紙は現代生活で見慣れている純白の和紙と違い、玄米のように味わい深い和紙だと私は思います。

今日もきっと春の風を感じながら、工房でワイワイとおばちゃん達が和紙を作っています。

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京都に工房を設け、手漉和紙に顔料や染料で色や柄をつけ品物に仕立てています。

「温故知新」を心に、古来より伝わる手漉和紙の先人達の思いや技術を学びながら、若手の漉き手と交流し、それぞれの産地の特徴を生かした加工ができないかと試みています。

染めながらも無地の和紙の余白の美しさ、和紙に携わる人々の想いという目には見えない余白を伝えたいという願いで「紙ノ余白」と名付けています。

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