紙ノ余白
三椏紙の話
前回は植物の三椏の話でしたが、和紙になるとどんな特徴があるでしょうか。
線維の長さは楮のおおよそ三分の一。
線維も細く、漉きあがると、光沢のあるキメ細かい紙肌になります。
色みは真っ白ではなく、少し黄味がかった、いわゆる生成色をしています。
実は木の「皮」の状態の時から、その特徴が窺い知れます。
幹から枝分れし、そのまた先で枝分れする度に「三股」になるためか、繊維が編目状に交差しているのです。
対して楮は平行方向の線維で、「カニかま」のようなのです。
三椏紙は繊維密度が高い紙肌なので、印刷効果が良いのは紙幣に使われていることが良く示しています。
私の仕事で言えば、三椏は「キラが乘る」ということが最大の特徴的です。
キラは雲母(うんも)、またはマイカとも言い、透明なフレーク状の薄層に剥がれる鉱石で、面で輝くのでやんわりとした真珠のような光沢があります。
平安時代から料紙や襖紙の装飾に使われてきました。
このキラ、楮紙には乗り難いのです。
粒子が粗く、同じく粗い楮の線維の間を潜り抜けてしまい、表面に美しく残りません。
ドウサ引きをするなど下処理が必要になります。
余談になりますが、平安時代には楮紙は「打ち紙」といって紙になった後に表面を木づちで何度も何度も叩いて繊維を締めて、キラなどの顔料や墨が美しく表面に乘るように工夫した技法が使われていました。
その点、三椏紙はというとキラと相性が良いのです。
三椏のしっかりしまった繊維がキラの粒子を受けとめてくれます。
私がこれを実感したきっかけは修業時代にとある漉き手の方から楮紙、三椏紙、雁皮紙をお預かりし、様々な絵具の調合で、木版を刷り、全てにレポートを書く。ということをしたことでした。
これは今から思うと、大変良い訓練でした。
「紙によって答えは変わる。」
その難しさと面白さを知る始まりだったのでしょう。