白須美紀
takeo paper show 2018「precision」大阪巡回展へ
[What A Wonderful Paper World vol.1]
奥深い紙とデザインの世界
はじめて竹尾の紙に触れたときの衝撃と興奮を、今でもよく覚えている。社会人1年目のとき、職場でグラフィックデザイナーの先輩が一綴りのメモ帖のようなものを手渡してくれたのだ。
それは今までに見たことがない、個性的な紙でできていた。しかも一枚一枚種類が違い、どれもニュアンスあるきれいな色をしている。風合いも厚みもそれぞれ個性的だった。
「すごい! なんて素敵で面白いんだろう!」
色のついた紙といえば折り紙や包装紙くらいしか知らなかった当時のわたしにとって、まさに未知との遭遇だった。そして先輩は、メモ帖を撫でさすりほれぼれと眺めているわたしに
「竹尾さんって知ってる? 展示会でお土産にもらったのよ」
と教えてくれたのだった。
そのメモ帖は竹尾の紙の見本帳を兼ねていたわけだが、ただ紙を変えるだけで制作物の印象が大きく変わることもそのまま体現していた。今にして思えばあのときのわたしは、具体的なことまでは何もわからないまま、デザインというものの奥深さを垣間みたのだと思う。だからこそ、竹尾の社名は憧れとともに深く心に刻まれ、長い月日がたった今も、あの日の感動を昨日のことのように思い出せるのだ。
4年ぶりのペーパーショウ開催
そんな竹尾のペーパーショウが、2018年10月5日〜7日にグランフロント大阪で開催された。6月に行われ東京展からの巡回だという。今年のテーマは「precision 精度を経て立ち上がる紙」だ。
「紙は古来から情報を載せるメディアとして使われてきました。しかしここ最近のインターネットやデジタルデバイスの普及によって、大きな転換期を迎えています」
と、竹尾有一大阪支店長はいう。
「そこで今回の展示会は、紙そのものを見つめなおし、正確さや緻密さといった『精度』を持った素材としての存在感にフォーカスをあてました。美術、プロダクト、グラフィック、テキスタイルなど国内外で活躍されている9名のクリエーターにそれぞれの立場で紙をとらえなおしていただき、原点から再考したのです」
その言葉通り、メイン会場にはそれぞれ9つの紙をめぐる思考実験が展示されていた。
廃品となった特殊紙を福祉作業所で砕いて手漉きし、新しい紙に甦らせたものや、機能に重きを置かれてきた段ボールを色や形状から見直した試みなどは、とても新鮮で新たなヒット作の予感さえ抱かせる。
また、フェライト粉をすき込んだ紙を磁石で動かし、まるで紙自身が意志を持つかのように集まったり起き上がったりする展示や、半透明の紙に高精度に丸い穴をひたすら空けて新しいマテリアルを出現させたものは、まるで現代アートを見ているかのようだった。不思議な美しさに惹き付けられ、なかなかその場を立ち去れない。
こんな風にどの展示も意外性があり興味深いため、大勢の来場者もそれぞれの展示を取り囲んでじっくりと見入り、案内者に質問を投げかけていた。そこには単なる展示会にはない独特の熱気があった。
大阪支店長によれば、来場者の中心はやはりプロのクリエイターやデザインを学ぶ学生なのだという。
「今回は幅広い年代のクリエーターにご協力いただいたのですが、なかには『学生時代にペーパーショウを見てデザイナーを志したので、今回の依頼に感激しました』と言ってくださる方もいて、本当に嬉しかったですね」
竹尾のペーパーショウは1965年からスタートし、今回で48回目を迎えたという。一社のみの展示会でここまでの内容を50年にわたり続けるのは、並大抵のことではない。ただの商社ではではなく、自ら企画し他にない紙をうみだす業界のリーディング企業として、展示会を大切にしているのだ。だからこそ竹尾と竹尾の紙は、クリエーターを刺激し、クリエイターから憧れをもたれるのだろう。
紙と戯れる時間
展示の後で待っているのが、竹尾の紙がずらりと並んだ「fine papers」コーナーである。
「通常ならばご来場の手みやげにグッズを手渡すところ、今回はここにある紙に触れていただき、好きな紙を破って持って帰っていただくことにしたんです。それぞれの紙の手触りや匂い、紙が破れる音などを楽しんで欲しいです」
と、大阪支店長は楽しげに語った。
来場者たちは肩に下げた透明のバッグに、破り取った紙をどんどん入れていく。わたしもいそいそとその列に並んだ。
「NTラシャ」、ご無沙汰してます。「ヴァンヌーボ」、相変わらずお美しい。ほほう、「玉しき」は、新色展開ですか。「クロマティコA-FS」、はじめまして。こんなにきれいな色のトレーシングペーパーがあるとは知らなかったなあ……。憧れの美しい紙たちにそれぞれあいさつし、ひと撫でしてから思いきりビリビリと破いていく。はじめは上等な紙を破ることに躊躇するものの、ビリリ、シャーっという軽快な音を聞いているうちに童心にかえり、だんだん楽しくなってくる。大きなロール紙も破り放題。なんとも豪快で愉快な時間だった。また竹尾に、未知との遭遇を体験させてもらった。
わたしがはじめて竹尾の紙に出会ったあの日のメモ帖も、その年のペーパーショウのおみやげだったに違いない。きっと今日盛大に破り取られ持ち帰られた紙もまた、来場することのなかった誰かに手渡されて、その人を魅了するだろう。そうして小さな紙片は、豊かな紙の可能性を伝える使者となるのだ。
※takeo paper show 2018 大阪展はすでに会期終了しています
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