(株)和光
活(い)きた版 「活版印刷について考える」
箔押しも一段落がつき、今回は活版印刷について考えてみます。
年末、喪中はがきを作成していると、ラジオ等で、年賀の挨拶をSNSやメールで済ませてしまう方が多い事が話題になっていました。確かに、私の周りでも、年々多くなっている実感があります。
スマートフォンの普及により、手軽に、都合の良い時にすぐ発信できるツールが手元にあれば、そちらに移行しようというのは、人間の性かも知れません。仕事上でも、メールですべてを終わらせようとしている人にもよく遭遇します。それに違和感をおぼえるのも、古い人間(昭和な人)だからかも知れません。
名刺交換も、頂いた後、スマホで管理するためにデータ化するので、そのうちスマートフォンを向かい合わせて指でスライドして名刺データ交換という時代になるかもしれません。
しかし、活版印刷のイベント等でお会いする方々や、活版で印刷された名刺やカードを手に取られた方は、どうして笑顔になるのでしょうか?
それは、“人”がキーワードになると考えます。人が介在する割合が少ないデジタル印刷では、人が作っていても、何か冷たい物の感触しかありませんが、人が介在する割合が多い、特に活版印刷は、文選から印刷まで、ほとんど手作業で作りあげられます。手作業の割合が多い分、工夫やアイデアで様々な特殊加工ができますし、同じ絵柄の印刷物でも1枚1枚微妙に個性が違う印刷物が出来上がり、その思いや費やされた時間が印刷物を通して手に取られた方に温かみや感動として伝わるのではないでしょうか。
人という生き物は、人とふれあい、コミュニケーションをとっていなければ、生きていけない生き物だと思います。仕事でも、プライベートでも、人との接触が希薄になりつつあるこの時代に、手造りやオーダーメイドといった物に今まで以上に惹かれるのは、そのせいかもしれません。
活版印刷は、その工程を知れば、知るほど魅力的なものになります。活字を“馬”と呼ばれる活字棚から一文字づつピックアップする文選。文選した活字を組版ステッキを使って原稿通りに並べる組版。組版した版をチェースと呼ばれる金属の枠に入れ締め木や締め金、ジャッキを使ってレイアウト通りに固定。打ち合わせ通りの色になるようにインキを調合。インキを印刷に最適な状態にするインキ練り。印刷ムラや濃度、多色の見当やデボスのかかり具合などの数十ミクロン単位の微調整を行っての印刷。ローラーや版の洗浄、組版をした版を分解し、活字を“馬”に戻す解版。と工程を拝見すると、印刷物の価値が自分の中でどんどん上がっていきます。機械の動きや音も良いエッセンスとなります。大袈裟と言われるかもしれませんが、印刷物を超えた芸術の域に入るのではないでしょうか。
ちなみに、活字棚を“馬”と呼ぶのかというと、活字棚を横から見ると、棚の形状が馬の背に似ていて、四本の四脚で支えていることから、馬と呼ばれるようになったと言われています。
弊社は製版を通して、この素晴らしい世界に携われる事に感謝し、弊社のノウハウを投入して皆様のお手伝いできればと考えております。
また、半自動活版印刷機を導入いたしましたので、レタープレスコンボキットと共に皆様に情報発信をしていきたいと思います。