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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]㉙
「修理用和紙セット」そして「しょうふ糊」と「和綴じ用糸」

活版印刷研究所さんに図書館資料の修理用和紙を見つけ出していただき、本の修理用和紙を手に入れにくい環境の方たちに使っていただけるようになったことをお知らせしたのが、このWEB MAGAZINE No.10、2017年9月のことでした。

この度私のルリュールの師匠の紹介で「修理用和紙セット」をドイツ、バイエルン州立図書館修復研究所のご所属で貴重書や写本の修復専門家Iさんにテストをしていただくことができました。私たちワークショップにとっては初めての専門家からのご意見でした。

実際はIさんたちのお仕事には、お送りした「修理用和紙セット」の一番薄い和紙でも、まだ厚すぎ、もっと薄い和紙をお使いだそうです。しかし和紙はやはり修復用紙として使われており、以前は独自で製紙もなさって、使用されていたそうです。

わたしたちの経験では「修理用和紙セット」の一番薄いものより、もっと薄い和紙も試させていただいたのですが、糊をはくことも、糊をはくことができたとしても、それを持ち上げて貼ることも困難でした。やはりプロフェッショナルの技術は素晴らしいです。

テスト結果で気になることとして、“貼った後に反りが出る”との指摘がありました。

また和紙の伝統的な呼び名、製品名、品質、製造法の明記などに統一性が無いので、海外の修復家には困惑の種となっているとのこと。これは私たちも和綴じ用の糸で同じような思いをしました。今後の勉強点、課題をいただきました。

Iさんはドイツ、バイエルン州立図書館修復研究所の紹介も書き送ってくださいました。少し紹介します。

バイエルン州立図書館は13世紀~16世紀の書物や文書を所蔵し、その中にはグーテンベルク時代の活版印刷本であるインキュナブラ、2万冊があり、世界最大のコレクションだそうです。

バイエルン州には40以上の州立図書館や大学図書館があり、バイエルン州立図書館はそのセンター的な図書館であり、Iさんがご所属の資料保存修復研究所はその中に設置されています。専門の資料保存の仕事のなかでも歴史製本の修復が主要なお仕事となっています。

研究所の役割は歴史書物、貴重書のダメージ調査、保存のためのアドバイス、保存状態の改善、修復コンセプトの作成、修復作業、素材研究、比較実験など、ということです。どれをとっても、私たちワークショップのメンバーが、資料保存について指導を仰ぎたい、日本にも欲しいと渇望している図書館資料保存機関です。さすがにグーテンベルクのお国です。

さて、活版印刷研究所さんには「しょうふ糊」と「和綴じ用糸」も私たち、図書館員が修理に使いやすそうで、古い書物に害を与えることが少ない素材のものを探し、パッケージ化もしていただきました。現在ワークショップで試用中です。

私たちの使い心地では「しょうふ糊」はとても滑らかで、従って、延ばしやすい。保管してあるものも固まりにくい。使いやすいものです。

「和綴じ用糸」は白絹糸です。通常和綴じに使っているものより少し細目にみえますが、拠りがしっかりしていることと、細目ということは元の綴じ穴を痛めることが無いと考えられるので、修理用には適しているかと思われます。

Iさんからのメールにもドイツで揃えるのに不便な材料として、「しょうふ」と「柿渋」をあげていらっしゃいます。「柿渋」は仮貼りに使われるそうです。

和紙やしょうふ糊、柿渋など日本の伝統的な書物用材料がドイツの古く貴重な書物の修復に使われていることを誇らしく思うのと同時に、日本の図書館という場で私たちが、それらを有効に使いこなせているとはいえないことから、ワークショップの活動の課題を改めて考えさせられました。

しょうふ糊 | 「修理用和紙セット」そして「しょうふ糊」と「和綴じ用糸」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

和綴じ用糸 | 「修理用和紙セット」そして「しょうふ糊」と「和綴じ用糸」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

資料保存WS
M.T.

しょうふ糊 | 「 修理用和紙セット 」そして「しょうふ糊」と「和綴じ用糸」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

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