白須美紀
頼もしい昔ながらの紙屋さんへ
都産紙 みやこさんし
[What A Wonderful Paper World vol.4]
街中にある紙の老舗店
都産紙は、店頭販売もしている紙の問屋さんだ。カフェやショコラティエ、ファッションブランドなど、お洒落なショップが建ち並ぶ京都の三条通りに、昔ながらの落ち着いた佇まいの店を構えている。
軒先にかかるモダンな暖簾には「あらゆる紙一枚より 卸売・端売」の文字。店頭には端紙でつくったメモ帖が並んでおり、通りがかる人たちが次々に目をとめ、立ち止まる。
店内に一歩足を踏み込むと、そこは紙の宝庫だった。古くて立派な棚に、たくさんの大きな紙が整然と積まれている。
これらはみんな四六判の紙で、暖簾に書かれた言葉通り、一般客も1枚から購入が可能だという。
「さまざまな紙のさまざまな厚みが揃っています。四六判とは788cm×1091cmの紙で、A4の紙が10枚、B4の紙が9枚取れるんです」と、社長の金平満さんが教えてくれた。
都産紙の創業は昭和23年。戦後すぐから紙の問屋店舗をひらき、紙を必要とするさまざまなお客様の手助けをしてきたという。
常連客は、印刷会社やデザイン事務所はもちろんのこと、一般企業や役所、学校など多岐にわたる。紙だけでなく包装紙の印刷までを頼むところも多く、古くから界隈の小売店に頼りにされてきた。京菓子やお寿司、料理屋さんなど、手がける包装紙は、聞いたことがある店名ばかり。わたし自身も幼い頃から何度も手にしてきた包装紙がたくさんあり、なんだか嬉しくなってしまう。
店頭には立派な断裁機が鎮座しており、その場で好きなサイズに断裁もしてもらえる。
「薄紙なら1000枚、厚い紙なら100枚ぐらいを一度に裁断できる機械です。たとえばA4の断裁なら10切で料金は500円です。手間賃だから1枚切るのも500枚切るのもお値段は一緒なんです。だから1枚だけ切るのは、もったいないんですよ」。
そういいながら、金平さんは困ったように「けれど、自分で切るのは難しいですから、断裁までしていかれる方が多いですね」と付け加えた。側にいる金平さんの奥様も同じような表情でうなずく。客のほうからすれば大助かりなのだが、高くついてしまうのがどうにも心苦しい様子だ。優しい心持ちのご夫婦から、この老舗の紙屋さんが正直にお商売されていることが伝わってくる。
「専門店で買う」という価値
実物の紙のほか、店内にはたくさんの紙メーカーの見本帳が並んでいた。金平さんの頭には洋紙から和紙まですべての特性、風合い、値段が入っている。
「寺社にも納めているので、神事や仏事で使うための高価な手漉き和紙も扱っていますよ。けれど、用途によっては和紙に似た風合いの洋紙でいいこともある。そういう場合はお客様の用途や予算にあわせて、違う紙をおすすめすることもありますね」。
店にはない特殊な紙も、毎日メーカーからの配達便があるため、送料をかけずに取り寄せができるという。
「もし紙を探しに来る場合、ほんの小さな紙片で良いので見本を持参くださると嬉しいですね。それがあれば同じものやよく似たものを探し出しますよ。紙の名前や厚さが分からなくても大丈夫。まずは気軽に相談して欲しいですね」。
なんとも頼もしい、まさに紙のプロだ。
この頼もしさは何かに似ているなあ、と思ったら、それは市場の八百屋さんや魚屋さんだった。「今日は◯◯のいいのが入っていてお買い得だよ、煮物にするなら身の締まったこっちがいいね」と商品を知り尽くし、客の要望に対してベストの一品をおすすめしてくれるありがたさ。
何でもネットで楽に買える時代だけれど、お店を訪ねてプロの教えを請えるというのは、なんて豊かなことなのだろう。
最近では、ビジネス目的ではなく趣味のために紙を求めるお客様も増えてきたという。オリジナルの御朱印帖やノートをつくりたいという人たちだ。実際の紙を見て触れて、プロのアドバイスを受けながら選ぶ、理想の1枚。どんな素人にもていねいに教えてくださる金平さんがいるので、鬼に金棒だ。立派な老舗の佇まいを楽しみながら、お気に入りを見つけてみたい。
都産紙 みやこさんし
住 京都市中京区三条通富小路東入ル
電 075-221-3233
営 9時〜17時
休 土曜・日曜・祝日休み
交 地下鉄東西線市役所前駅