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生田信一(ファーインク)
〝環境製本を考える会社〟中正紙工が「紙のホチキス」を開発しました

〝環境製本を考える会社〟中正紙工が「紙のホチキス」を開発しました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

今回のコラムは、東京都江東区東砂の中正紙工さんを訪ね、代表取締役の中村勝彦さんに「紙のホチキス」についてお話を伺いました。「紙のホチキス」は、2020年2月に催されたPage2020、また2018年7月に催された販促EXPOで披露され、注目を浴びた製本技術です。人と自然にやさしい製本とは何か? という問いかけに応えてくれるプロダクトです。

「紙のホチキス」は、2005年に開発された「ペーパーリング」の技術を応用して2010年に開発されました。今回のコラムでは、その2つの魅力をお伝えします。

〝環境製本を考える会社〟中正紙工が「紙のホチキス」を開発しました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

人と自然にやさしい「ペーパーリング」

今回ご紹介する中正紙工の公式サイトのトップには、「『環境製本を考える会社』ペーパーリングの中正紙工公式サイト」と謳われています。中正紙工を知るためには、「環境製本」と「ペーパーリング」の2 つのキーワードを理解することが早道でしょう。同サイトの「ごあいさつ」のページから一文を引用します。

「中正紙工は創業以来、「常に一歩先を見据えた、環境にもお客様にもやさしい製本会社でありたい」という理念のもと、製品開発に積極的に取り組んでまいりました。そんな気持ちを具現化したもののひとつが“ペーパーリング製本”です。分別廃棄の必要がなく、金属を使用していない安全なこのリングは、もともと卓上および壁掛けカレンダーの綴じ具として開発したものですが、独創的でデザイン性の高い形状から、カレンダーだけではなくノートやパンフレット、POP用などとしても好評をいただいています」

リング綴じ製本のリングは、プラスチックや金属を思い浮かべる方が多いと思いますが、「ペーパーリング」は100%リサイクル可能な紙のリングです。金属やプラスチックを一切使用せず環境対応の接着剤で特殊加工してあるため、分別することなくそのまま紙ゴミとして捨てられます。また、焼却しても有毒ガスを発生しません。役目を終えた時いちいちリングを取り外して分別する必要がありません。金属を使用していないので子供のいる家庭でも安心です。

「ペーパーリング」が採用されたカレンダーを見てみましょう(写真1〜3)。ピッチの種類が2種類あり、標準色の白・黒・象牙以外のカラーも可能です(写真4、5)。単なる「綴じ具」としてだけでなく、デザインの一部としてアクセントを持たせることができます。

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(写真1〜3)「ペーパーリング」が採用された卓上カレンダー。写真では隠れて見えないが、吊り下げ用のパーツを引き出して、壁に掛けることもできます。
クライアント:ばんえい十勝様

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(写真5)
(写真4、5)「ペーパーリング」の種類には、(写真4)の12.7mmピッチ(6mm幅)、(写真5)の10mmピッチ(5mm幅)があります。

ノートやスケッチブック、メモ帳、メニューなどに使用することで高い商品価値を生み出します(写真6、7)。

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(写真6、7)ノート(写真6)やスケッチブック(写真7)に使用した例。

ペーパーリングをこの世に送り出したのは2005年。そしてペーパーリングの特許技術を応用して2010年に特許を取得したのが「紙のホチキス」です(現在は両特許を譲渡されています)。

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(写真1〜3)「ペーパーリング」が採用された卓上カレンダー。写真では隠れて見えないが、吊り下げ用のパーツを引き出して、壁に掛けることもできます。
クライアント:ばんえい十勝様

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(写真4、5)「ペーパーリング」の種類には、(写真4)の12.7mmピッチ(6mm幅)、(写真5)の10mmピッチ(5mm幅)があります。

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(写真6、7)ノート(写真6)やスケッチブック(写真7)に使用した例。

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(写真7)

水引の紐を使った「紙のホチキス」

では、「紙のホチキス」の詳細を紹介しましょう。通常の中綴じ製本は、留め具に金属製の「針金」が使われますが、「紙のホチキス」はその「針金」が和紙素材の「水引」の紐であることが大きな特徴です。水引の紐は「ストリングス」と呼ぶそうです。

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(写真9)
(写真8、9)「紙のホチキス」の見本。留め具に和紙素材の水引の紐が使われています。

ストリングスのカラーバリエーションは現在、赤・白・黄・桃・紫・深緑・緑の7 色。綴じる際には2本のリールを使用するため、上下に別々の色を使用することも可能です。紙色(または印刷による刷色)と水引の紐の色が対比することで、アクセントが生まれます。和紙素材であるため、見た目に柔らかいナチュラルな印象になります。

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(写真10、11)7色のカラーバリエーションから、紙(印刷)の色に合わせた選択ができます。

強度も金属と同等です。試しに筆者が指先でストリングスを外そうとしたのですが、なかなか外すことができませんでした。見た目よりも、しっかりとした強度を持っていることが実感できました(写真12、13)。

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(写真13)
(写真12、13)留め具は和紙素材であるが、強固に留められている。

「紙のホチキス」の驚くべき点は、日本の伝統技術の水引の紐を応用していることでしょう。水引は、贈答品や封筒に付けられる飾り紐です。古くは元結(武士の髪を結ぶ紐)に使われ、現在でも相撲の髷(まげ)に使われているようです。

水引の紐は、触ると弾力があり、水にも強く、引けば引くほど強く結ばれる特性があります。水引の結び方にはさまざまなバリエーションがあり、鶴亀や花の模様をした工芸品もあります。製造方法は、和紙をこより状にして、糊をひき、乾かして固めます。国内では飯田水引が有名で、国内生産のうち約70%を製造しています。「紙のホチキス」に使われる水引の紐も長野の工場で製造されているとのこと。

素材となる水引のロールを中綴じ製本の機械に据え付けます(写真14)。はじめに紙に穴を明け、そこに水引を刺し、最後に熱で接着して綴じるという方法になりますが、従来の中綴じ製本機に付加機能のユニットを購入することで「紙のホチキス」の製造が可能になるとのこと。

(写真14) |

(写真14)水引きのロール。全長500メートル。

「紙のホチキス」で製本されたノートを見せていただきました。環境にやさしく、子供には安心、安全を届けることができるノートです。製本の費用は通常の中綴じよりも高くなりますが、子供向けの本や文具などで利用することで付加価値が生まれてくるのではないでしょうか。

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(写真16)
(写真15、16)環境にやさしく、子供には安心、安全を届けることができます。

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(写真8、9)「紙のホチキス」の見本。留め具に和紙素材の水引の紐が使われています。

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(写真10、11)7色のカラーバリエーションから、紙(印刷)の色に合わせた選択ができます。

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(写真12、13)留め具は和紙素材であるが、強固に留められている。

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(写真14)水引きのロール。全長500メートル。

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(写真15、16)環境にやさしく、子供には安心、安全を届けることができます。

(写真16) |

(写真16)

広大な工場の全景

中正紙工の製造工場は、驚くほど広々としています。オフィスが広大な工場の中2階にあり、工場の全景を俯瞰して見ることができます。機械の配置から製造工程が伺えます。断裁、丁合、中綴じ製本の機械などが効率的に配置され、加工を終えたものはパレットに載せられ、フォークリフトで運搬します。人やリフトが動きやすいやすいように、ゆったりとしたスペースが確保されています(写真17〜19)。

主な設備機械は以下の通り。

■断裁機 3台  ■紙揃機 5台  ■折機 3台  ■中綴じ機 1台(5鞍)
■丁合機 3台  ■糸ミシン綴機 1台  ■ドンコ穴あけ機 5台  ■穿孔機 2台
■カレンダー金具綴じ機 2台  ■ツインリング綴じ機 3台
■超音波式ペーパーリング綴じ機 2台  ■熱圧着式ペーパーリング綴じ機 3台
■カレンダーホットメルト製本機 2台  ■自動穴あけ機 2台  ほか

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(写真17)

(写真18) |

(写真18)

(写真19) |

(写真19)
(写真17〜19)中2階のオフィスから工場を撮影。製本機器は製造のラインに沿って機能的に配置されています。作業するスタッフも動きやすそうです。

この広大なスペースを利用して、昨年、卓球大会が催されたそうです。写真を見ると、広さが実感していただけると思います(写真20)。

(写真20) |

(写真20)中正紙工のFacebookで公開された卓球大会のショットより。

最後に、中正紙工さんのFacebookに投稿された試作品を紹介します。解説は以下の通りです。

ペーパーホチキス製本で使っている和紙のこよりを三つ編みに。
それをスパイラルリングの代わりに使って製本してみました。
紙縒りスパイラルリング?ブレイドバインディングとでも言ったらよいのかな。
(中正紙工Facebookより引用)

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(写真21)

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(写真22)
(写真21、22)和紙のこよりをスパイラルリングにした試作品。

いろんな可能性を秘めた「紙のホチキス」。楽しみが広がる取材でした。

 

印刷・製本・加工の世界は、伝統的な手法が数多くあり、紙を縒った水引の紐もそのひとつです。伝統工芸を現代に生かした好例だと強く感じました。興味をもっていただいたクリエイターのみなさん、想像力を発揮して、素敵なプロダクトを作ってみませんか。

では、次回をお楽しみに!

(写真17) |

(写真17)

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(写真18)

(写真19) |

(写真19)

(写真17〜19)中2階のオフィスから工場を撮影。製本機器は製造のラインに沿って機能的に配置されています。作業するスタッフも動きやすそうです。

(写真20) |

(写真20)中正紙工のFacebookで公開された卓球大会のショットより。

(写真21) |

(写真21)
(写真21、22)和紙のこよりをスパイラルリングにした試作品。

(写真22) |

(写真22)

[プロフィール]
有限会社 中正紙工

中正紙工 |

所在地:〒136-0074 東京都江東区東砂2-1-14
TEL:03-6666-4832
FAX:03-6666-4879
URL:http://nakashoshiko.co.jp

営業品目:
【紙製品加工】
 ■環境対応型カレンダー
  ホットメルト(タンザック、のり綴じ)・ペーパーリング・ツインリング・スパイラルリング
  生分解性プラスチック・スパイラルリング(エコスパイラル)・スポットリング
  生分解性スポットリング(エコスポット)・金具綴じ
 ■リング加工・製本
  ペーパーリング・ツインリング・(エコ)スパイラルリング・(エコ)スポットリング・セルリング
 ■各種ノート
  糸綴じ・中綴じ・クロス巻き・各種リング綴じ
 ■メモ加工
  天のり、銀行くるみ、便せんくるみ、クロス巻き、ブッシュ抜き(ダイカット)
 ■糸ミシン製本
 ■丁合 ■穴あけ ■平綴じ ■中綴じ
 ■各種折加工 ■ブッシュ抜き ■型抜き ■くるみ表紙加工
【プラスチック製品加工】
 ■バインダー、ウェルダーファイル、PPファイル加工
 ■PP加工
 ■各種アッセンブリー加工、セットアップ加工全般
【その他】
 ■デザイン企画・制作
 ■印刷
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