生田信一(ファーインク)
ZINE『MIZUHIKI ART BOOK』を手作り製本しました
前回のコラム「SHIBUYA TSUTAYAと東京デザイン専門学校がコラボしたZINEフェア」の続きで、今回は筆者が制作でお手伝いしたZINE『MIZUHIKI ART BOOK』の制作プロセスを紹介します。8ページ中綴じの冊子ですが、ページものの冊子を作るときのヒントになると思います。
作業はデジタルとアナログの手法を駆使した工程になりました。ページレイアイウトと面付け出力はデジタルで行いましたが、InDseignの「ブックレットをプリント」を使うと面付けの工程を短縮できます。また製本はすべて手作業で行いましたが、「手作り感」を演出する方法を考えてみました。印刷・製本工程が凝縮した内容になっていますので、お役に立てていただけると思います。
水引を使ったアート作品
『MIZUHIKI ART BOOK』は、グラフィックデザイナー 神部彩香さんの作品集です。神部さんは筆者が勤務する東京デザイン専門学校のグラフィックデザイン科の卒業生で、現在は同校の非常勤講師を勤めています。8年前の卒業制作で水引のアート作品に取り組み、卒業後も作品を作り続けています。
水引は、紙をひも状にした紙縒り(こより)に糊を引き、乾かして固めた飾り紐です。贈り物や贈答品を包んだ紙の上から結んだり、封筒(=祝儀袋、不祝儀袋、金封)に付けられます。和紙で作られた固い紐ですが、これを結って加工すると、さまざまな形が出来上がります。
神部さんが作る水引の作品はどれも素敵で、機会があれば冊子にまとめたいと常々考えていました。今回、SHIBUYA TSUTAYAとの産学協同プロジェクトがきっかけになって、このアイデアを実現することができました。実を言うと、学生が楽しそうに作っているのを見て、私も参加したくなったというのが本音です。
神部さんの水引アートのテーマは、伝統的なものから現代的なものまでジャンルが幅広く、見ていて楽しいです。まずは作品を掲載した紙面をご覧ください(写真1〜5)。
アートブックのプランニングとページ設計
神部さんの作品はどれもかわいくて素敵です。作品集も手軽に手にとって眺めることができる冊子の形態を考えました。判型(仕上がりサイズ)は正方形のサイズ170mm×170mmに設定し、B4サイズの用紙で左右の2ページを面付して手持ちのプリンター(富士ゼロックス DocuCentrre)で印刷することに決めました。
まずは、簡単なダミーを作成し、ページ構成を考えました。使ったソフトウェアはInDesignです。1枚ものであればIlustratorで作成しますが、ページものの場合はInDesignが便利です。
ラフが出来上がると、InDesignデータを神部さんに渡して、写真を配置してもらい、細部のデザインを仕上げていただきました(写真6)。
印刷段階では、ページ面付けしたデータを作る必要があります。B4用紙の表裏にプリントして、折ったときにページ順に並ぶようにページを並べ替えます(「面付け」と言います)。図解すると(写真7)のようなプリントデータが必要です。
InDesignでは「ブックレットのプリント」を利用すると、中綴じ用に面付けした状態のプリントができます。この機能を使うと、自宅のプリンターで中綴じの冊子が作れます。設定が少しわかりにくいのですが、手順を解説します。
手順は、まずファイルメニューから「ブックレットをプリント」を選びます。「ブックレットの形式」のドロップダウンメニューから「見開き-中綴じ」を選びます(写真8、9)。
さらに、「プリント設定」をクリックし、用紙サイズを指定します。両面印刷を行うには「プリンター」をクリックし、「両面」のチェックボックスをオンにします。両面印刷できないプリンターの場合は、最初に奇数ページだけを印刷して、用紙を裏返して偶数ページを出力する工程になります(裏返して用紙をセットするときは、印字する面、方向に気をつけてください)。
必要に応じて、「トンボと裁ち落とし」を設定します。ここでは、プリント後に製本を行って最後に四方を断裁(化粧断ち)しますから、トンボを付けてプリントすることにしました。「トンボとページ情報」で「内トンボ」「外トンボ」「センタートンボ」にチェックを入れました(写真12)。
「プレビュー」で印刷された状態を確認します。1ページ目では前表紙(1ページ)と後表紙(8ページ)が対向に配置されているのがわかります。合計4面(8ページ分)が面付けして出力されることが確認できます(写真13〜16)。
最後に「プリント」を実行すると、中綴じ用に面付けされたものが表裏印刷されます。
用紙は竹尾のファインペーパー里紙(白)をB4サイズにカットしたものを購入し、用紙トレイにセットしました。里紙は和の風合いを持ち、この本のコンセプトにぴったりの用紙です。本来は表紙と本文で銘柄や厚みを変えたいところですが、この冊子では8ページしかありませんので表紙も本文も同じ紙で出力しました。
水引の紐で冊子を綴じる
中綴じ製本は、ノドの部分を針金で留める手法が一般的です。今回は制作する部数も少ないため、特殊な方法で綴じてみたいと考えました。ミシンがけで綴じる方法や製本用の針と糸で縫って綴じる方法を考えましたが、アートブックのテーマになっている水引の紐を使う方法にトライしました。
水引を使った綴じ方を神部さんに相談し、いろいろ試していただきました。最終的には、ノドの部分に8箇所穴を空け、水引の紐を通す仕様に落ち着きました。水引の紐は両端を結んで外れないようにしています。水引の紐は固く、強度もありますので外れることもないでしょう。試行錯誤しましたが、見た目にかわいく仕上がったのではないかと思います(写真17)。
今回の制作を通じて、水引について多くのことを知りました。水引の材料は、贈答品などを結ぶ紐として業務用のものが販売されており、種類も豊富です。(写真18)は筆者が包装用品専門店 シモジで購入したものです。お店ではさまざまな色や模様の水引が並び、迷うほどでした。
最後に、筆者が使っている手製本に便利なツールをいくつか紹介します。(写真19)は左から、千枚通し、筋入れに便利なMAXONトランサーNo.3(金属ボールが役立つ)、紙を折るときに便利な竹製のゆびわ、へら、製本用の針です。身近にあるものでも、アイデア次第で製本に役立つツールになりそうです。金属ボールは書けなくなったボールペンでも代用できます。へらは、好みもありますので、使いやすいものを選ぶとよいでしょう。
ZINEの課題では、デジタルとアナログの手法を組み合わせてプロダクトを作ることになるので、学生にとっても多くのことを学ぶ機会になります。データの作り方や印刷のこと、紙のこと、折加工や製本のことなどなど…。学生たちが、アイデアを凝らし、試行錯誤して出来上がったZINEはとても見応えがありました。
では、次回をお楽しみに!