図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]61
日本の和紙を守りたい!『ねり』を生み出すトロロアオイ観察日記 続編
今回は、8月に書かせてもらった[図書館に修復室をツクろう!]57 日本の和紙を守りたい!『ねり』を生み出すトロロアオイ観察日記の完結編になる。
今年の7月から、和紙を漉く際に必要なトロロアオイという植物を育てる「企画屋かざあな」さんによるクラウドファンディング「生産不足の手漉き和紙の原料『ねり』をみんなで育てて和紙を世界へ」というプロジェクトに参加し、トロロアオイを育てていた。
和紙の製作には欠かせないトロロアオイの根っこ。
生産者の激減したトロロアオイを少しでも多くの人に育ててもらい、埼玉県小川町のトロロアオイ農家さんを通じ、小川町の和紙制作の原料に使ってもらうというものだ。
詳しいことは、図書館に修復室をツクろう!]57 日本の和紙を守りたい!『ねり』を生み出すトロロアオイ観察日記をご覧頂きたい。
参加者は、プロジェクトを主催する企画屋かざあなさんから送られてきたトロロアオイの種を撒き、育て、花を楽しむか、または花は咲かさず、育てた根っこを11月初旬に送付する。そのどちらか選べるのだが、植物を育てることは決して得意ではない私なのだが、日本の和紙の危機を救うため、「ぜひとも根っこを送付したい!」と見過ごすことはできない思いにかられたのだった。
理由は、日ごろ本の修理に和紙を重宝しているからというのはもちろん、向日市文化資料館で開催された壽岳文章氏の展示「人と仕事展」で観た氏の全国の和紙の圧巻の展示を目にしていたからだった。
前回は、7月4日〜8月8日までの成長の記録を記事にしたので、今回はその後から根っこの送付までの記録になる。
さて、無事に根っこは送付できたのだろうか・・・
・8月18日
夏の盛りになり、茎はぐんぐん伸びて土の表面から30㎝ほどにはなるか。
緑も濃くなり、茎の下の方から、葉がどんどん出るようになってきた。
企画屋かざあなさんから送られてきた育て方には、8月上旬に本葉を6枚ほど残し、わき芽ごと下の方の葉はこそげ落とす、とあるので、よく光合成してくれそうな葉を6枚ほど残して摘葉した。
茎には透明の細かい粒があちこちについている。
調べてみると、粘性の高い糖タンパク質なのだそう。
食用のオクラやトロロアオイにはよく出るそうだから、安心してそのままにしておく。
キラキラしてきれいなビーズのようだ。
・9月9日
茎の又になっているところから、蕾が出て来た。
鮮やかな緑色。
根に栄養を行き届かせるため、蕾は摘蕾(てきらい)しないといけないのだが・・・
もうしばらく様子を見たくなったのでそのままにした。
・9月29日
日に日に膨らむ蕾に、花が見たい欲が出て来てしまい、とうとう1輪目の花を咲かせてしまった。
植物育てが苦手な私は大層うれしかった。
根は大丈夫だろうか、と思いながらも淡い黄色が美しい花を愛でた。
食べた参加者に聞くと、無味。後から少し粘りが口の中に出て来たらしい。
私は結局食さなかったが冷凍保存してみた。いつ食べよう?
この後、芽が出た8本の茎全てに続々と花が咲いた。
・10月6日
花が咲き終わってしおれて来たが、そのままにしていたら実がなった。
蕾によく似た形の実で、食用のオクラをぷっくりと膨らませたような形をしている。
中でうまく種が出来たら、これで来年も育てられる。という考えに開き直る。
花を頑張って咲かせたから、栄養が取られただろうからと思い、
この頃に土の表面を少し耕し、土に挿し込むアンプル状の液肥で追肥した。
・10月11日
続々と実がなり始めたが、季節が秋にかかり始めたのも相まってか、上の方の葉から色がうすく黄色みを帯びてきた。大きな葉は黄色と黄緑のまだら模様になってきている。
ここから11月にかけて、葉は自然と落ちていった。
・11月5日
根っこは11月7日必着で小川町に送付する必要があったので、期限ぎりぎりのこの日に、茎を引き抜く。
根を傷つけないように慎重に土の表面を少しスコップで耕す。
意外と上の方まで根が張っているようで、スコップで掘り返すのが非常に難しかった。
茎を優しく前後左右に動かしながら、少しずつ引き抜いたが、予想以上に・・・短い根っこだった。
細かなひげ根と呼ばれる糸みたいな根っこが横に広がっていた。
細い根っこは、根っこから2㎝くらい上部で切り落とした。
茎の部分が緑色、根っこは白っぽい色をしているので、その色の変わり目が目安。
こんな貧弱な根っこで果たして使ってもらえるのかどうかといった心配と花を咲かせてしまった罪悪感をほんの少し感じながら発送。
・11月6日
残された実の部分を乾かして、来年に向けて種を取ろうとしてみている。
・11月11日
8日にトロロアオイ農家の方に品評して頂いた結果が通知される。
とても詳しく丁寧な品評を送ってくださり感激する。
太さと長さが足りずB以上には到達できませんでしたが、茎下が太いので、もうひと踏ん張りで下に根が伸びたかもしれません。ひげ根も出ていたこともあり根に栄養が届けられていない状態でした。全体的に少々小さい感じでしたので、栄養も足りなかったのかもしれません。
ひげ根が多いのは、水分や土の中のリン酸が少ないなどの理由があるようです。
観察日記はここまで。
後日、企画屋かざあなさん主催でオンラインの寄合「品評会の結果と次節に向けて」が開かれたので、出席してみた。
はじめはプロジェクト参加者から送られたトロロアオイの根っこについての報告がされたのだが、今回出荷されたトロロアオイの根っこの本数に驚く。
なんと、268本、総勢24名分の出荷だったそう。
Aランクとされた良品の写真にさらに驚く。
それはまるで、太いゴボウか、高麗人参かのように力強く伸びた根っこがたくさん!
畑で育てられた方のものが多いようだったが、プランターでも大きく育てた方もおられて、同じくプランターで、極小のひげ根もじゃもじゃな根っこを送った私は肩身が狭かったが、この24名の内の1名なのだと思うと、うれしいもの。
量もだが、良品の質の良さに農家の方も大変驚いておられたのだとか。
Aランクの人の育て方や、寄合出席の一人の方の育て方についての紹介があった。
私は、土が硬いと根が伸びにくいのでは?風通しの良い土がいいのでは?と時折土の表面を耕していたのだけど、実は土は硬い方が、根っこは下へ伸びるようだとか、種を撒く際は割と近くに撒いて、ある程度芽が出てきてから間引く方が、根が横に広がらず下へ伸びるのかもしれないとか、水やりは夜の方がよく水分を吸うらしいとか、次期に向けて、メモを取りたくなる傾向と対策を聞くことが出来たし、和紙の需要を生み出すことの必要性についての発言もあり、それについては寄合出席のみなさんからたくさんの情報やアイディアが次から次へと湧き出て来て、出席した私もワクワクしちょっと興奮状態に。
最後はなんと「和紙の家を創る!?」といった方向へと話は大きく発展した。
花を咲かせてしまい、チビな根っこしか育成できなかった私は、今回は全くお役には立てなかったのだけど、実際にトロロアオイを育てられたことは、日ごろ使う和紙のその背景の一部について、体験を通じ知ることができたわけで、至らない文章ではあるがこんな風に取り上げさせてもらうことで、この日本の和紙の危機についてまだ知らない方へ一人でも多く届くものがあればと願うばかりだ。
トロロアオイの栽培について調べていると、他にこんな記事を見つけた。
両丹日日新聞
「和紙に欠かせぬトロロアオイ 農家減少で障害者施設が栽培」
日本の各地の人がこの危機を知り、専門ではない人でも気軽に栽培をして、小川町をはじめ全国の和紙の生産地や紙漉き職人さんの元へ提供できるように広がるといいと思った。
私たち資料保存ワークショップのメンバーから、高知の山間部で和紙の原料となる楮を育てる農家の方を追ったドキュメンタリー映画「明日をへぐる」の上映を、ちょうどこの時期に教えてもらって観に行くこともできた。
楮は、山の急斜面で育つ植物。
高度経済成長で、楮を育てるよりはるかに楽に収入を得られる世の中に移り変わっていった。
自ずと後継者は不足してしまったのだ。
和紙を取り巻く全てが「不足」しているのだと感じる。
トロロアオイの育て方について、実は確立されたものはないのだそう。
農家さんたちの間でも、個々の経験や口伝えでの方法で工夫しながら育てられてきたのだ。
ノウハウがないことも、育てる人が広がらない原因の一つになっているかもしれない。
寄合での報告を聞き、トロロアオイの農家さんもこのプロジェクト参加者からの納品の量をご覧になり一層励みになられたような印象を受けた。
それを知り、また参加者の一人である私も今後の和紙との関わりを深める励みになっている。
サスティナブルな循環が自然と起こる。
今回の記録を今後トロロアオイ栽培のノウハウ確立につなげたいと企画屋かざあなさんは話されていた。
トロロアオイを育てる人も、和紙を制作する人も、また和紙を求める人も増えるといいと願っている。
資料保存WS
小梅