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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]㊺
夏の読書感想文
「菜の花工房の書籍修復家 : 大切な本と思い出、修復します」

夏の読書感想文「菜の花工房の書籍修復家 : 大切な本と思い出、修復します」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

今年の梅雨は大変長かったですね。
各地で猛威を振るった梅雨前線。
被害に合われた方、被災された方には心よりお見舞い申し上げます。

こういう時、思い出されるのは災害にあった水損資料のレスキュー。
まだまだ未熟で勉強中の私には、経験がなく、話に聞くばかり。
冷凍保存したり、1ページごとに間に水分を吸い取るための紙を挟み込んだり、本を開いて大型扇風機で送風し乾燥させるなどの方法はあるそうです。
先日、岡山での2年前の豪雨被害によって水損した写真の修復をされている、あらいぐま岡山さんという団体の活動をどこだったかのWebの記事で拝見し、災害の多い近年、もちろん、人を助けること、生活基盤をいち早く回復させることが最優先ですが、資料の修理、修復の拠り所となる場の必要性を再認識していました。

コロナウイルスに関しても、終息の気配をなかなか感じさせてくれません。
大学と学外の番外編と、その両方の私たちの活動は、その活動方法を模索しながらも相変わらず2月から休会のままです。
前回も書きましたが、既に技術を習得していたならば、個人で手を動かし作業を進めることができる期間なはず、と思うと学びのスタートの遅さに悔しい思いも湧いてきますが、仕方なし。

若さあふれる10代後半。本の修復の技術を学び、書籍修復家を目指し、まぶしいくらいのひた向きさで夢に向かって邁進する女の子について書かれた小説の存在を知りました。
「小梅さんみたいと思って!この本知ってます?」と教えて頂いた本は、

「菜の花工房の書籍修復家 : 大切な本と思い出、修復します」
 日野祐希著
 発行:宝島社 2019年3月
 ISBN:9784800293473

本の修理、修復家を目指す物語なんて、そんなマニアックな小説あるんや!とおどろき、まずはWebで試し読みすると、図書館や本の修理についての描写がなんともリアル!
きっと手元に置いておきたい本だ!と冊子で購入しました。

最初にお断りしておきますが、私はこの主人公・菜月のように若くはなく、ここまで懸命に毎日本の修理に取り組みもできていませんし、この本の存在を教えてくれた知人の「小梅さん(私)みたい」という表現には、埋めようのないギャップがあるのですが、ただ、ただ、嬉しかったので、わざわざ「私みたい」とここで書かせてもらいました。
「全然違うねんで、」と言いながら、にやけて頭をポリポリしている感じです。

ストーリーについてはネタバレになるといけないので、あまり深くは触れないようにしたいところだけど、少しご紹介します。
主人公・菜月は、高校卒業後の進路に悩みながらも、憧れていたある書籍修復家への弟子入りを目指す。
師匠との関係に葛藤しながら、本の修理の技術を学んでゆく日々。
そして、本を通して深まってゆく周囲との人間関係。ある文系女子の青春の日々が書かれています。
読んでいる時は、私もこれぐらいの歳から志していれば今頃・・・とかいう思いが何度も湧きあがりました。
いやいや、この歳頃にそのような職業の存在すら知りませんでしたね。

この本にのめり込んだシーンがいくつかあるのですが、度々出てくる修理のシーンが印象的です。
本の部位の名称から、外側の装丁からは見えない部分についての説明や、作業のコツ。
時々図解もある。
修理の工程の細かな描写と取り組む際の緊張感の表現なんて、実際に経験した人でないと分からないリアルさがあるのです。
それから、大学図書館の業務に関すること、職員の構成など。
読んでいて自分の勤務先の話かと錯覚すら起こしそうになり、これはきっと!とカバー折り返しにある著者紹介に、その段になってようやく目を向けると予想的中。
著者は大学図書館員だった。
勝手に妙な親近感が湧いた。

菜月が学ぶのは主に和書の修復だが、工房での師弟関のやり取りなどから、なぜか湧いたのは、私たちワークショップの主宰者から長く借りたままになっている

「古書修復の愉しみ」
 アニー・トレメル・ウィルコックス著
 市川恵里訳
 発行:白水社 2004年9月
 ISBN:9784560047873

アメリカのある書籍修家へ弟子入りを目指す女性の日記のようなエッセイである。
そして、和古書の修理の様子には、

「古文書修補六十年 :和装本の修補と造本」
 遠藤諦之輔著
 発行:汲古書院 1987年
 ISBN:9784762910456

が浮かんだ。
参考文献のページにはどちらの図書も記載があり、ここでも「やはり!」と、この道志す者の必読書であることを再確認した。
参考文献は他にもあり、同業者として参考になる。

本の修理に興味のある方、図書館員の方、この夏のお家時間に読んでみられてはどうでしょう。

 

謝辞

高感度なアンテナの持ち主で、お茶のお稽古仲間であるA.Nさんへ。
この本に出会われたこと、そして私にこの本を教えて下さったこと、とても嬉しかったです。改めてお礼申し上げます。ありがとうございます。

 

資料保存WS
小梅

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