生田信一(ファーインク)
「ようこそデザニャーレ-東京どうぶつえん すいぞくえんデザイン室-」に行ってきました(前編)
動物園や水族園を訪れると、園内の生き物たちを解説するパネルや印刷されたパンフレットなどを見ることができます。これらのパネルや印刷物は、施設を訪れる来場者に情報を伝える役割があります。
「ようこそデザニャーレ-東京どうぶつえん すいぞくえんデザイン室-」は東京都立動物園・水族園ではたらくインハウスデザイナーに焦点を当てた特設展示イベントです。会場になった井の頭自然文化園の資料館は、デザイン担当のスタッフが働く未来のデザイン室(通称デザニャーレ)という設定。デザイナーの作業デスクが再現され、過去に作られた制作物が一同に展示されました。普段見ることができない展示内容で、とても興味深く拝見しました。
今回のコラムでは展示会場の一部を紹介します。では、一緒にのぞいてみましょう。
都立動物園・水族園のデザイン室を紹介
東京都立動物園や水族園では、デザインを担当する専門スタッフがこれらの制作物を手がけています。「ようこそデザニャーレ-東京どうぶつえん すいぞくえんデザイン室-」は、上野動物園・多摩動物公園・井の頭自然文化園・葛西臨海水族園の4園のデザインを紹介するイベントです(写真1)。
(写真1)デザニャーレのスタッフは都立動物園水族園4園で活動しています。
イベントの詳細は以下の通りです。
「ようこそデザニャーレ-東京どうぶつえん すいぞくえんデザイン室-」
期間 2024年3月31日(日)〜9月1日(日)各日9時30分~16時30分
場所 井の頭自然文化園 動物園(本園)資料館1階
特設サイトURL https://www.tokyo-zoo.net/event/designyare/
動物園の入口から少し歩くと、資料館の建物が見えます(写真2)。さっそく中に入ってみましょう。
(写真2)井の頭自然文化園 動物園(本園)資料館。
入り口のパネルには以下のあいさつ文が読めます(写真3)。
「4園連携特設展示
ようこそデザニャーレ
動物園水族園のとあるデザイン室
通称デザニャーレ
生きものの魅力をデザインの力で伝えるために
日々、仕事にはげむデザニャーレのスタッフたち
彼らのミッションは、生きもののすばらしさを
よりわかりやすく、より楽しく発信すること
彼らの熱気とデザインされた生きものたちであふれる
デザニャーレへようこそ」
※デザニャーレは、デザインの語源であるラテン語のdesignare(計画を記号に表す)からきた造語とのこと。
デザイン室の現場は、普段は見ることはできません。動物園や水族園園内に掲示されるパネルやパンフレットなどの印刷物は、どのようにして作られているのか、その全貌を見ることができる展示になっています。
(写真3)入口のパネル。
入口で会場マップを入手し、会場の構成を確認しましょう(写真4、5)。
(写真4)
(写真5)
(写真4、5)「デザニャーレ」の会場マップ
会場の構成は以下の通りです。
エントランス
楽しい雰囲気のエントランスには、初代室長のお言葉やデザイン室が担当する4園の紹介などがあります。
デザイナーデスク
イベントに向けてデザイナーたちが準備をしているデスクを再現します。生きものをデザインするって楽しそうでうね。
作業デスク
大型パネルやピクトサイン、楽しい学びのための教材など、道具を使って、いろいろなモノを作るデスクです。
試作コーナー
デザインしたモノがちゃんと機能するかを試します。解説パネルであれば、フォントサイズや掲示する位置など、細かく確認します。
ショールーム
今までにデザインしてきたモノを展示します。デザインされた生きものでいっぱいの「生きものランド」は必見です。
資料室
デザイナー制作の印刷物や参考にしている図書を手にとって見ることができます。デザインする楽しさを紹介した動画もあります。
デザイナーのデスクをのぞいてみよう
では、最初の展示スペースをのぞいてみましょう(写真6)。
(写真6)入口の「飛び出し坊や」ならぬ「飛び出しニャーヤ」に導かれて、中に入っていきます。
入ってすぐの左側は、3人のデザイナーのデスクと作業の様子が再現されています。ここでは、パソコンでさまざまなモノをデザインしたり、いろいろな材料、道具を使って、大きなパネル、ピクトサイン、楽しく学んでもらうためのオリジナル教材などを制作します(写真7)。
(写真7)作業デスク全景。 写真:(公財)東京動物園協会提供
最初に、デザイン室の目標が掲げられています。
「主役は生きものであることを忘れずに
誰もが楽しく過ごせる場づくりを第一に
人と生きものをつなぐためのデザインにつねに熱意をもって、真摯に向き合います」
スタッフの名前を記したネームプレートには、各スタッフの役職や名前が設定されています(写真8)。
(写真8)デザイン室のモットーとネームプレート。
壁面には、スケジュール表や進行中の案件のメモや写真が貼られています(写真9)。どうやら、デザイナーたちは現在、4園連携企画「日本のいきもの」をフューチャーするイベントの準備に大忙しのようです。
(写真9)予定表やメモ・写真を貼り付けたボード。デザイン室の臨場感を高めています。
デザイナーのデスクに近づいてみましょう。デザイナー「沼音るこ(ぬまねるこ)」さんのデスクでは、制作中のフライヤーや案内パンフレットなどの印刷物をのぞくことができます(写真10)。
(写真10)それぞれのデザイナーのデスクには、制作中の案内やパンフレット、資料、デザイナーのお気に入りグッズなどが置かれています。写真:(公財)東京動物園協会提供
デザインはどのようにして進められるのでしょうか。パンフレットが出来上がっていく工程が解説されています。(写真11)
(写真11)デザインのプロセス。パンフレットを1つ作るにも、打ち合わせをしてラフを描き、素材を集め、作り込み、様々な人のチェックを受け、修正を重ねて、ようやく完成します。
生きものを正確に描くためには、直接観察したり、さまざな資料を参照します(写真12)。
(写真12)親しみやすさを生むにはデフォルメも有効ですが、生きものを描く場合に、生物学的な正しさはとても大事にしています。
文字は、見やすく、読みやすく、親しみやすくするために、さまざまな書体(フォント)を試して検討します(写真13)。
(写真13)制作中のフライヤー。フォントを変更して、効果を確認しているところです。
園内で行われるスタンプラリー用に、スタンプや台紙をデザインします(写真14)
(写真14)スタンプを押すのに適した紙を選んでいるところです。
デザイナー「鯰江あみ(なまずえあみ)」さんのデスクでは、クロマグロの配信企画の準備中。参加者へのプレゼントとしてシールのデザインを検討しています。こうしたノベルティグッズもデザイン室で手がけています。(写真15)
(写真15)ノベルティグッズもデザイナーが手掛けています。
デザイナー「安室音猫(あむろねねこ)」さんのデスクでは、特設展「かえる学にゅうもん」の準備中。フライヤーや、会場内で流すアニメーションを制作しています(写真16)。
(写真16)特設展「かえる学にゅうもん」の準備中。
作業デスクでは、木製の模型やぬいぐるみなどのハンズオン教材を作ったり、補修したりしています(写真17)。
(写真17)模型などの立体物が作られます。写真:(公財)東京動物園協会提供
園内で掲示するピクトサインもデザインされています(写真18)。他では見かけない動物園・水族園ならではの注意がたくさんありますね。
(写真18)動物園・水族園ならではのピクトサインの数々。
試作ができあがると、デザインしたモノがちゃんと機能するか、来園者の方に利用してもらえるか事前に試すことも大事です。例えば種名パネルはフォントサイズや掲示する位置などを細かく確認します(写真19、20)。
(写真19)種名パネルを動物舎に掲示し、サイズや位置をチェックします。
(写真20)掲示の際の注意書。車椅子や子供の目線に注意すること。
特設展示「デザニャーレ」は、2024年9月1日まで開催されています。ぜひ訪れてみてください。
コラムは(後編)に続きます。次回をお楽しみに!
ようこそデザニャーレ-東京どうぶつえん すいぞくえんデザイン室-
期間 2024年3月31日(日)〜9月1日(日)各日9時30分~16時30分
場所 井の頭自然文化園 動物園(本園)資料館1階
特設サイトURL https://www.tokyo-zoo.net/event/designyare/
特設InstagramアカウントURL https://www.instagram.com/designyare/