三星インキ株式会社
UVインキの『割れ』に関して
前回、プラスチックの代替用途としてUVインキを用いた透かし印刷について説明させてもらいましたが、UVインキを厚盛りで印刷する際に起こることがある現象として『割れ』という現象があります。
『割れ』とは読んで字の如く、UVインキを用いて印刷した部分(皮膜)が『割れる』という現象で、特に厚膜で印刷された場合に発生します。
UVインキは基本的に100%固形分であり、紫外線が照射されることで開始剤が開裂し、電子の移動が起こる重合反応によって瞬間的に皮膜が形成される(樹脂同士が架橋する)のですが、この重合反応は酸化重合などと比べると重合度合いが高く、皮膜の柔軟性が失われやすい(硬くなる)のです。
また、紫外線照射条件が強い、あるいは皮膜の膜厚が大きい場合、重合度合いがさらに上がることから、より強固な(硬い)皮膜になり、このような状態の皮膜を折り曲げるなどの外力を加えた場合に皮膜が割れることがあります。
これは顔料など硬化性に関与しない成分を含まないOPニスなどのインキの場合に顕著に表れます。
これはパッケージなど製函(箱状に)する際に印刷物を折り曲げる時に発生しやすく(罫割れ)、原反が紙の場合は紙ごと割れて原反内部が表に出てくることがあります(折り曲げた部分が白く見える)。
では、UVインキを厚盛り印刷しなければならない『透かし印刷』を行った印刷物はどうなるのでしょうか?
前回透かし印刷を行う目的として、脱プラスチックの関連からクリアファイル等への展開が広がっていると書かせて頂きましたが、クリアファイルといえば内に挟み込む書類等が落ちないように折り曲げ部(縦横1辺づつ)が存在しています。
では、この部分のUVインキ皮膜は割れてしまわないのかなと思いますよね。
答えは基本的には割れることは少ないです。
これは透かし印刷特有の透明性を再現させるために使用している未硬化成分の影響であり、未硬化成分が重合度合いを低くしているため、ある程度の柔軟性を保っているのです。
また、UVインキが黄変すると透明性が低下するため、あまり硬化条件を強くせずに印刷されることが多いためでもあります。
このように、UVインキを印刷する際に紫外線の照射条件によって皮膜強度(重合度合い)に影響を与えることができるのです。
簡単に言うと、照射条件を強くすればするほど重合度合いが高くなることでインキ皮膜が硬く、体積が大きく収縮します(ギュッと詰まる感じ)。
これは高反応型UVインキ(LEDタイプなど)を通常のUVインキ用照射条件にて印刷した場合も同様の傾向が発生します。
確かにUVインキを印刷する際に未硬化部分が残っている状態で棒積みした場合、裏移りやブロッキングという現象が発生することから完全に硬化させたくて照射条件を強くしがちだと思います。
しかし照射条件が強すぎる(過剰照射)と、インキ皮膜が硬くなることから折り曲げ時に『割れ』の発生や、体積収縮により皮膜表面の平滑(レベリング)性低下による光沢不良や原反の波打ち(うねり)、フィルム等への印刷の場合に密着不良などが発生する懸念がでてきます。
逆に弱すぎると硬化不良の発生により皮膜強度不足(耐摩不良)や、裏移り・ブロッキングなどが発生します。
なお、この方法を逆手に取ることもでき、フィルム等にUVインキを印刷する場合、通常の照射条件よりもやや弱くすることでインキの体積収縮を抑え、原反への密着力を落とさないようにすることができます。ただし根本的改善ではありませんので事前確認はして下さい。
また、UVインキを古紙としてリサイクルする際、各インキメーカーが対応しているリサイクル対応型UVインキを用いた用紙は、社団法人日本印刷産業連合会が策定した『古紙リサイクル適性ランクリスト』では『Aランク:紙・板紙へのリサイクルにおいて阻害にならない』に該当しますが、同インキを用いても過剰照射を行った場合は『Bランク:紙へのリサイクルには阻害になるが、板紙へのリサイクルには阻害にならない』となります。
これは過剰照射することで架橋(皮膜強度)が強くなりすぎて、紙をリサイクルする際に残ってしまう(除去しきれない)ため、白度の高い紙へのリサイクルは難しくなるということになります。
何事も適度が最善です。
古紙リサイクル適性ランクリスト(日印産連)
https://www.jfpi.or.jp/recycle/print_recycle/file/201409recycle_list.pdf
UVインキ使用印刷物リサイクルについて(日印産連)
https://www.jfpi.or.jp/files/user/pdf/UV_ink_%20recycle.pdf