生田信一(ファーインク)
蔦重手引草─都内五館で巡る、江戸の名版元「蔦屋重三郎」の世界─
今回のコラムは「蔦重手引草」と題した都内の五館連携の美術展を案内します。
太田記念美術館、印刷博物館、大東急記念文庫、国文学研究資料館、たばこと塩の博物館による「五館連携 蔦重手引草」が開催されています。文学史、浮世絵史、近世史、印刷史の分野で、ニッチな専門性を持った5館がそれぞれの切り口で蔦屋重三郎をとりあげ、よりディープにその世界を知ることができます。
では、ご覧ください。
五館連携「蔦重手引草」の案内
まず、五館連携の「蔦重手引草」の案内をご覧ください(写真1、2)。
(写真1)五館連携の「蔦重手引草」の案内(表)。
(写真2)五館連携の「蔦重手引草」の案内(裏)。
この催しでは、漫画家・一ノ関圭描き下ろしの特製カードがプレゼントされます(数量限定、各2000名様・先着順)。カードは「蔦重、南畝、京伝、歌麿、写楽」の5種類で、館によってお渡しする人物が異なります。
以下に、筆者が9月中に訪れた2つの館のレポートをお伝えします。その他の館は、サイト情報を中心に整理してお伝えします。
太田記念美術館
■「 蔦屋重三郎と版元列伝」
前期:8月30日(土)~ 9月28日(日)
後期:10月3日(金)~ 11月3日(月・祝)
9月1日、8日、16日、22日、29日-10月2日、6日、14日、20日、27日は休館
場所:東京都渋谷区神宮前1丁目10-10
サイト情報:蔦屋重三郎と版元列伝
こちらの館は、筆者は9月終わりの土曜日に訪れました(写真3)。原宿駅表参道口より徒歩5分の距離でアクセスに便利、多くの方で賑わっていました。
(写真3)太田記念美術館「蔦屋重三郎と版元列伝」の会場。
館の中に入ると、3つのフロアーに分けて展示されているとのこと。作品数が多く、ボリュームに圧倒されました。蔦屋重三郎が活躍した浮世絵の全盛期の作品から、明治期の版画の代表的な作品が展示されており、浮世絵の歴史や全体像を俯瞰できたことが収穫でした。全体に保存状態がよい印象で、注意して保管されていることが伺えます。
作品リストが配られており、前期と後期の展示の内訳がわかるようになっています(写真4)。
(写真4)作品リストでは作品番号が連番で220まであり、前期・後期の入れ替え(あるいは通期)の詳細ががわかるようになっています。
印刷博物館
■ ミニ展示「あれもこれも蔦重! お江戸の名プロデューサー蔦屋重三郎」
開期:2025年9月2日(火)〜 11月3日(月祝)
休館日:週月曜日(ただし祝日・振替休日の場合は翌日) / 年末年始 / 展示替え期間
場所:東京都文京区水道1丁目3−3 TOPPAN小石川本社ビル
サイト情報:あれもこれも蔦重! お江戸の名プロデューサー蔦屋重三郎
筆者は、印刷博物館が仕事場から近くて便利です。真っ先に出かけ、常設展示とミニ展示を楽しみました。印刷博物館の常設展示は、御存知の通り、とても充実しています。とりわけ、江戸期の出版・印刷資料は需実しており、この通常展示の一角にミニ展示のコーナーが設けられ、蔦屋重三郎が手がけた出版物や摺物が並べられました。
(写真5、6)は、印刷博物館で配られた資料と大田南畝の特製カード。キャラクターのデザインを手がけたのは漫画家の一ノ関圭さん。大田南畝の立ち姿はシュッとしてかっこいいですね。他のカードも欲しくなります。
(写真5)印刷博物館のミニ展示「あれもこれも蔦重! お江戸の名プロデユーサー蔦屋重三郎」で配布された作品一覧・年表の資料と特製カード。
(写真6)特製カード裏面。
大東急記念文庫
他の館は、筆者は足を運べていないのですが、現時点ででわかる範囲でサイト情報をまとめました。
■ 五島美術館 展示室2 特集展示
蔦屋重三郎 ―江戸には江戸の風が吹く
2025年9月2日(火)ー10月19日(日)
場所:東京都世田谷区上野毛3-9-25
休館日:毎月曜日(祝日の場合は翌平日)、展示替期間、夏期整備期間、年末年始など
サイト情報:五島美術館 Facebookの投稿
以下、五島美術館のFacebookより抜粋します。
「蔦屋重三郎(1750 ~ 97)が活躍した当時の出版物は、売り出しの際に筒状にした紙にくるまれていました。これを「袋」といいます。読むときには外されるものなので、残り辛いものですが、大東急記念文庫が所蔵する蔦屋重三郎版の本の中には、この「袋」が残っているものがあります。
吉原の秋の行事「玉菊燈籠」の案内書『青楼夜のにしき』(天明3年〈1783〉刊)は、表紙の代わりにする形で「袋」が残っています。
唐来三和の洒落本『和唐珍解』(天明5年〈1785〉刊)の「袋」は、更紗(さらさ)を模しています。更紗は当時のお洒落アイテムでした。
山東京伝の滑稽本『小紋雅話』(寛政2年〈1790〉刊)の「袋」には、宝尽くしの文様があしらわれています。
同じく山東京伝の洒落本『傾城買四十八手』(寛政2年〈1790〉刊)の「袋」は、煙草入れを模しています。なお、京伝は後に煙草入れ屋を開いたことでも知られています。
ちなみに、これらはいずれも江戸時代後期の戯作者・式亭三馬(しきていさんば)の旧蔵本で、蔵書印「式亭」が捺されているものもあります。三馬も江戸戯作のコレクターで、きっと本を大事にする人だったのでしょう。
そんな三馬から受け継いだ本が、今も大東急記念文庫で大切に保管されています。」
国文学研究資料館
■ 展示室特設コーナー
蔦重、圧巻。大・中・小~書型に見る蔦重版(五館連携展示「蔦重手引草」)
会期:2025年10月1日(水)~ 11月28日(金)
開館時間:10時~ 16時30分
閉室日:土曜、日曜、祝日、第4水曜
場所:国文学研究資料館1階展示室(東京都立川市緑町10-3)
サイト情報:蔦重、圧巻。大・中・小~書型に見る蔦重版(五館連携展示「蔦重手引草」)
たばこと塩の博物館
■ 3階コレクションギャラリー ミニ企画
「18世紀のおもちゃ絵と蔦屋重三郎版のおもちゃ絵」
開期:2025年10月4日(土)〜 11月5日(水)
場所:東京都墨田区横川1丁目16−3
サイト情報:たばこと塩の博物館
「18世紀のおもちゃ絵と蔦屋重三郎版のおもちゃ絵」と題し、浮世絵の1ジャンルである「おもちゃ絵」に注目した展示を行います。主に子どもを対象に作られたおもちゃ絵は、18世紀前半のものはなかなか残っていませんが、後半のものでは、物尽くしなどが確認できるようになります。18世紀末、蔦屋重三郎も勝川派の絵師とつながりを持ち始め、そのおもちゃ絵も出版しています。本展では、18世紀のおもちゃ絵と蔦屋重三郎版の着せ替え、役者尽くし絵、双六などを紹介します。
こちらは、YouTubeでニュースを見ることができます。
→リンク:見て楽し遊んで楽し「江戸のおもちゃ絵」
今回は「蔦重手引草」と題した都内の五館連携のイベントをまとめてみました。今年はNHKの大河ドラマ「べらぼう」の放映を契機に、江戸期の浮世絵や出版事情を伝えるさまざまな美術展や展覧会が開かれています。
年末までに、さらにいくつかのイベントが催されているので、今後の情報を注意深く見守ってください。
では、次回をお楽しみに!