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生田信一(ファーインク)
市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました

市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

市谷の杜 本と活字館の企画展で、「明朝体」が取り上げられます。「明朝体」とは、日本語表記で「本文」などに使われる書体名です。もう一方には「見出し」や「キャプション」などに使われる「ゴシック体」という書体があります。

ほとんどの印刷物やWebの紙面は、この2つの書体の組み合わせが基本になっています。身近だけど、とても奥深いテーマです。今回のコラムでは、「明朝体」展を眺めながら、この書体の魅力に迫ってみたいと思います。

では、一緒に覗いてみましょう。

市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

ギミックに満ちた本展のパンフレット

大きなテーマなので、何から説明すればよいのか迷います。まずは「明朝体」展のパンフレットをご覧ください(写真1、2)。

写真1 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真1)

写真2 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真2)
(写真1、2)「明朝体」展パンフレット表面と裏面。写真では確認できませんが、背景は光の角度でマットとグロスで塗り分けられ、文字が敷き詰められていることがわかります。

グラフィクを手がけたのはユニークな作品作りでいつも驚かされる大日本タイポ組合さん。このパンフレットには、どんなギミックが隠れているのでしょうか。

ぱっと見た感じでは、モノクロの1色しか使われていないように思われますが、光の角度で背景にも明朝体の文字が敷き詰められていることに気付きます(印刷物の表面にマットとグロスの質感を混在させる技法が使われています)。裏面にも同様の加工が施されています。

このニス加工については、ライターの雪朱里さんがnoteの記事で言及されていました。不思議なギミックをわかりやすく解説しています。
リンク→note記事「本と活字館「明朝体展」で見た、不思議なパターン」

パンフレットの表面のデザインでは、デジタルによる自由な文字組みの利点を生かして、面白さをとことん追求しています。文字がまるで踊ってるようで、楽しい演出です。ソフトウェアはおそらくAdobe Illustratorが使われていると思われますが、昨今ではこんな自由な文字組みが手軽に作れるようになっています。

裏面のテキストは、「明朝体」展の開催の意義を高らかに謳った宣言文のようです。しかし、目を凝らして眺めていると、いろいろな書体が混在していることがわかります。1枚の紙面の中に、明朝体の様々な表情を見て取ることができる仕掛けです。

(写真3)は28頁に及ぶパンフレット、読み応えがあります。監修は岡田一祐さん(慶應義塾大学)が務め、「「明朝体」展への思い」の文章を寄せています。また、香港の印刷・活字を研究している翁秀梅(ユン・サウムイ)さんが「香港字・二百年」の文章を寄稿されています。「香港字」は、19世紀半ば、香港の「英華書院(Anglo-Chinese College)」で製作された活字書体とのことです(筆者は本展示で初めて知りました)。

写真3 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真3)「明朝体」展の冊子(無料)。

写真1 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真1)

写真2 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真2)
(写真1、2)「明朝体」展パンフレット表面と裏面。写真では確認できませんが、背景は光の角度でマットとグロスで塗り分けられ、文字が敷き詰められていることがわかります。

写真3 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真3)「明朝体」展の冊子(無料)。

圧巻─壁面すべてを使用した巨大年表

本展で圧巻だったのは壁面いっぱいに展開された巨大年表です。明治期以降に作られた明朝体の歴史を、一枚にまとめた作りです。それぞれの時代に、エポックとなる書体が生まれていった歴史を辿ることができます(写真4、5)。

写真4 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真4)

写真5 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真5)
(写真4、5)巨大年表を写真に収めるのは不可能でした。会場で迫力を体感してください。

会場の入口では「明朝体とは?」という問いに答えるパネルが展示されました。明朝体の特徴をおおまかに掴むことができます。文字の独特の形状やパーツに注目するのが理解の早道のようです。

特徴としては「手書きよりも線が水平・垂直で、横画の右端に三角(ウロコ)がついていて、ハネやハライの先端が、筆で書いたように細くなっています」と解説されています。

写真6 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真6)明朝体の文字を形状、パーツから分解してみると、特徴がよくわかります。

写真4 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真4)

写真5 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真5)
(写真4、5)巨大年表を写真に収めるのは不可能でした。会場で迫力を体感してください。

写真6 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真6)明朝体の文字を形状、パーツから分解してみると、特徴がよくわかります。

代表的な書体を眺めてみよう

展示用の大きなテーブルには代表的なフォントが並んでいます。これらの島を眺めながら進んでいきます。それぞれのテーブルには代表的な書体の開発時の資料が展示されていました。

歴史的に見ると、金属活字の歴史において大きな2大潮流になったのは、「築地体」と「秀英体」です(写真7)。これらはデジタル化され、現代でも使うことができます。

近代に近くなると、金属活字からデジタルフォントに変わり「ヒラギノ明朝体」や「筑紫明朝」などがポピュラーになっていきました(写真8)。

写真7 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真7)金属活字の2大潮流となった書体、築地体と秀英体。

写真8 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真8)デジタルフォントの代表的な書体、筑紫明朝とヒラギノ明朝体。

(写真9)のパネルでは、活字の作り方の歴史を学ぶことができます。明治期以降から、さまざまな方法が生まれました。大まかに、以下の4つの方法があります。

・活字①(種字・電胎母型)
・活字②(ベントン母型彫刻機)
・写真植字(写植)
・デジタルフォント

写真9 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真9)活字の作り方の4つの方法。

金属活字を作るためのさまざまな道具も紹介されていました。また、手にとって触れることができる大きな模型も展示されていました(写真10、11)。

写真10 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真10)活字を作るためのさまざまな道具。右上より原図、パターン、電算写植の文字盤、彫刻母型、電胎母型。

写真11 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真11)種字(たねじ)や母型の模型。

写真7 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真7)金属活字の2大潮流となった書体、築地体と秀英体。

写真8 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真8)デジタルフォントの代表的な書体、筑紫明朝とヒラギノ明朝体。

写真9 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真9)活字の作り方の4つの方法。

写真10 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真10)活字を作るためのさまざまな道具。右上より原図、パターン、電算写植の文字盤、彫刻母型、電胎母型。

写真11 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真11)種字(たねじ)や母型の模型。

参加して楽しむコーナー、いろいろ

最後に、来場者が参加して楽しむコーナーを覗いてみましょう。

毎回の企画展の恒例ですが、手押し式の印刷機(手キン)で栞(しおり)をプリントできました。仕上がりは2色刷りです。事前にシルバーで刷られた用紙をセットし、2色目の黒インキで手押しして印刷します(写真12)。

写真12 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真12)手押し式の印刷機で活版印刷を体験できます。無料です。

また、おみくじを引けるコーナーが設けられ、書体で運勢を占います。引いたおみくじは受付で交換できます。筆者が引いたおみくじは「リュウミン」でした。(写真13、14)。遊び心満点の展示でした。

写真13 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真13)

写真14 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真14)
(写真13、14)無料でおみくじが引けます。出来上がったしおりです。

楽しい時間を過ごし、帰路につきました。薄暮の時間帯で、夕刻の本と活字館はとても綺麗でした(写真15)。

写真15 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真15)夕刻の本と活字館。

訪れたのは土曜日で、大勢の若い方が展示を真剣に覗いていました。「明朝体」というテーマは、シンプルでとても奥深いテーマです。お時間のあるときに是非訪ねてみてください。

では、次回をお楽しみに!

写真12 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真12)手押し式の印刷機で活版印刷を体験できます。無料です。

写真13 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真13)

写真14 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真14)
(写真13、14)無料でおみくじが引けます。出来上がったしおりです。

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写真15 | 市谷の杜 本と活字館「明朝体」展に行ってきました - 生田信一(ファーインク) | 活版印刷研究所

(写真15)夕刻の本と活字館。

(企画展情報)
市谷の杜 本と活字館 企画展「明朝体」

URL:https://ichigaya-letterpress.jp/gallery/000488.html
会期:2026年02月21日(土)~2026年05月31日(日)
会場:市谷の杜 本と活字館 Ichigaya Letterpress Factory
住所:162-8001 東京都新宿区市谷加賀町1-1-1
電話:03-6386-0555
開館時間:10:00~18:00
休館:月曜・火曜(祝日の場合は開館)、年末年始
入場無料