三星インキ株式会社
透かし印刷について2
今回は透かしインキとはどのようなものか確認していきます。
前回書かせて頂いた通り、透かし印刷は色々な版式で印刷できますが、基本的には低粘度成分を主材としており、かつ紙中にできるだけ残存する必要があるため、低揮発性であることが必要であります。
一般的な平版印刷用透かしインキの場合、成分的に低粘度成分として鉱物油と植物油が主材となり、主に鉱物油としては『流動性パラフィン』、植物油としては『ひまし油』が挙げられます。
これらは適度な低粘度と不乾性といった特性を有しています。
適度な低粘度とは?そう思われる方もいらっしゃると思います。
実はあまり低粘度すぎる成分もあまり良くはないのです。
確かに低粘度であればあるほど、成分の紙中への浸透性は向上します。
ですが低粘度すぎると、本来必要ではない部分にも成分が移行してしまって画像が滲み不鮮明となり、不乾性のため時間とともに移行は進み続け、経時で滲みが酷くなっていきます。
また不乾性成分が多すぎると印刷部に粘着感(濡れ感)の残存が発生し、保管時に裏移りやブロッキングなどの現象発生も懸念されます。
さらに平版印刷は水と油の反発で画像を形成するため、最低限の粘性も必要であります。
これら現象を改善すべき、低粘度成分だけでインキを構成せず、樹脂や顔料などを一般インキに比べてかなり少ない量を混ぜ合わせています。
平版印刷用 | 透かしインキ | 一般インキ |
顔料 | 0-10% | 0-30% |
樹脂 | 0-20% | 20-40% |
鉱物油 | 30-60% | 0-20% |
植物油 | 30-60% | 10-30% |
次は平版印刷以外の透かしインキについて
まずは活版印刷用インキについて
活版印刷は凸部にインキを乗せる必要があるため、平版印刷用インキよりも粘度が高くないと画像が形成できません。
したがって、透かし効果を得るために必要な粘性では印刷することはできません。
ですので活版印刷用の透かしインキ処方は現状存在していません。
次はグラビア印刷用インキについて
グラビア印刷は、トルエン・酢酸エチル・MEK(メチルエチルケトン)・IPA(イソプロパノール)など基本的に揮発性の高い有機溶剤を主材としたインキが広く使われています。
前述の通り、透かし効果を得るには不乾性成分が紙中に残存する必要があるため、上記有機溶剤では透かし効果を得ることはできません。そのためグリコール系やエステル系の溶剤などが使用されます。
ただし、グラビア印刷に使用するインキは低粘度であり、かつ凹部にインキを貯めて原反に転移させる工程なので画像形成も単純(水と油の反発などもない)であるために低粘度化も図りやすく、さらに盛り量も大きいことから透かし効果を得るには最も適した印刷方式であると思われますが、グリコール用透かしインキはあまり存在しません。
フレキソ印刷用インキについて
フレキソ印刷は水系インキを使用されることが多く、水系インキは字のごとく、主材となる溶剤は水であります。
水は経時で揮発するため透かし効果を得るには不適切であることから、水の代わりにグリコール系溶剤を主材としたグリコールインキなどが使用されますが、フレキソ印刷用透かしインキもあまり存在しません。
上記のように、現在インターネットなどで透かし印刷を検索しても、グラビア印刷やフレキソ印刷よりも平版印刷を用いた透かし印刷が多くヒットします。
印刷工程的には制限が多い平版印刷ですが、なぜ『透かし印刷=平版印刷』という現状になっているのでしょうか?
これについては次回検討してみたいと思います。