図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]107
ご依頼の本の修理作業記録 v.1
あとりえ二頁としての再始動は、4月を最後に休止していたブラデル製本の勉強会(移転以前は、資料保存ワークショップ番外編と称して開催)の再開とご依頼を受けた本の修理から始まりました。修理のご相談を頂いたのは7月初めのことです。
前回の私の記事図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]105 資料保存ワークショップ番外編 只今アトリエ移転準備中!で、依頼者さんのこと、お預かりした地図帳のことに少し触れています。
次回の日本へのご帰国の際にお返しするという条件は、アトリエ移転時期に重なってしまい、すぐに作業に取り掛かることができず、またメンバーが集って稼働できる日が限られている私たちにとっては、大変ありがたいものでした。
依頼者さんから、移転後のアトリエで「最初のプロジェクトになるんですね!」と言っていただいて、はっとしました。あとりえ一頁の頃に取り組んだ画集の修理は、私の父の蔵書だったので、一般の方からの依頼は今回が初めて。記念すべきその作業を移転後のアトリエでスタートすることになりました。
何か大きなスタートを意味するように感じています。
作業開始は、2025年9月28日(日)でした。この日は、まず前回の画集の修理の際にも使用したカルテの改訂を検討するところから。痛みの様子や手当の方法をより詳細に、わかりやすく記録できるよう、ボリュームも増えそうです。
旧版のカルテについては、図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]101資料保存ワークショップ番外編「修理の日」画集の修理の記録 Vol. 16 ~完成~でご覧いただけます。
カルテの改訂の確認後は、お預かりしていた地図帳を久しぶりに確認します。傷や汚れが付かないように、白のネルの生地を敷いた状態で行いました。
破損状況は、
・背が外れかけていること
・見返しののどのゆるみ、破れ
・クロスの角のほつれ
・本文ページにところどころあるシミ
大まかにはこのような様子。
※個人の蔵書なので、ここでは書誌事項について記載はしません。
※見返し部分のメッセージの書き込みは、画像加工でぼかしています。
当たり前ですが、直す前の記録写真は、撮り忘れたら撮り直すことができません。
作業に集中してしまって記録写真の撮影を忘れないように注意が必要です。私の場合は特に、です。
この日は、乾いた布などで本についた埃や汚れを掃除するドライクリーニングを行いました。
(写真1)
(写真1、2)修理依頼の本
(写真2)
(写真3)表紙と見返しののど
(写真4)背
(写真5)裏表紙と見返しののど
■ドライクリーニング
使った道具: 不織布製使い捨てお掃除手袋、パイル地お掃除手袋、刷毛、化粧パウダー用ブラシ
薬剤不使用の不織布製使い捨てお掃除手袋は、初めて使用。
ミトンのような形だが、指は3本に分かれていて、天地や小口もふき取りやすい。ただし、続けて拭いていると、不織布の毛羽が絡まって毛玉のようになったものが、逆に埃を生み出し、それが本につくことが判明。クリーニングの始めに、目立った埃やチリをふき取るのには向いているように感じた。
破れによる紙の立ち上がりなどがある見返しののどは注意深く、化粧パウダー用のブラシでなでるように埃を払う。
本文ページは、パイル地のお掃除手袋をはめた手の平でなでるように拭く。
この時に、一頁ずつ印刷の様子やシミなども確認。
気になるページがあれば紙の栞を目印に挟む。
のどの部分はクリーニング専用にしている刷毛で挟まった埃などをかき出す。
最終頁まで同様に進める。
表紙側から背表紙側へと進む際に開いた本のそれぞれ側に段差ができ、ゆるんだ背、のどに負担をかけないよう、ネル生地の下には板を置いて、見開いたページができるだけ平坦になるようにした。
(写真6)不織布製使い捨てお掃除手袋。薬剤不使用
(写真7)表紙をドライクリーニング
(写真8)小口もドライクリーニング
(写真9)のどは化粧パウダー用ブラシで
(写真10)お掃除手袋でなでてドライクリーニング
古い本ののどには、なぜか黒っぽい粉や粒が挟まっていることがよくあるという話になりました。クロスが劣化して剥がれた破片ではないか、という私たちの見解です。今回の地図帳は該当しませんが、ステープルで綴じられた本の場合であれば、錆びて腐食した金属製のステープルの破片であることもあるので、シミにならないようしっかりと除去しないとなりません。
クリーニングを終えて本を閉じると、裏表紙に向かって背が若干斜めにずれていることに気が付きました。のどにゆるみがあるので、のどまでしっかり開いてクリーニング作業を行ったことで、背の裏表紙よりの部分に負担がかかったようです。気を付けて下に板を挟んで高さの調整をしていたにも関わらず、です。年月を経た本は繊細ですね。人間の身体と同じかもしれません。この先の作業を進める過程で戻すことができるので、この段階では手で押さえて、表紙側に向かってやさしく押した状態にして、白い紙と板で挟んで重しを乗せて保管します。
(写真11)気になるページにブックマークを
(写真12)白い紙と板で挟んで重しを乗せて保管
次回から、いよいよ修理手当に入ります。
さて、ここでまた久々の「修理系司書の集い」の活動のお知らせをさせて頂きます。
今年も図書館総合展2025に出展しています。
10月22日(水)〜24日(金)は、パシフィコ横浜で開催される現地会場のポスターセッションにも出展します!
そこでは、みなさんに資料保存に関するアンケートを大募集する予定です。
会場に行けない方にも広くご意見をお聞きしたいので、webの「修理系司書の集い」noteでもアンケート回答を同時募集しています。
図書館司書の方も、そうでない方も、資料保存にご興味のある方も、そうでない方も、ご回答可能です。設問は全部で6問。noteのリンクからGoogle formに飛びます。
修理系司書の集いnote
https://note.com/shurikei/n/n1d67c7e215d5
いただいた回答は、図書館総合展の横浜会場でも公開。会期終了後は後日まとめてnoteでも公開予定です。
会場に来られた方、アンケートにご回答いただいた方には、ささやかですが、かわいいお礼のノベルティをご用意予定です。
みなさんのご回答お待ちしています。
あとりえ二頁
永田 千晃