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池ヶ谷紙工所
第2回「エンボス加工で視覚的な変化を」

事業を引き継いだ理由

前回に引き続き、もう少しだけ弊所・池ヶ谷紙工所と、私自身のことについてお話ししたいと思います。

作業場・池ヶ谷紙工所は、私にとって子供の頃からの遊び場でした。夏休みになったら毎日作業場に行き、両親が仕事している側でギアが回る規則正しくきれいな機械音を聞きながら遊んだものです。それこそ、生まれる前から胎教のように聞いてきた音です。機械の音、金属の匂い、窓からこぼれる光、そういった作業場の環境が小さい頃から大好きでした。

事業を継ぐ前は印刷会社でオペレーターの仕事をしていました。安定したサラリーマン生活で、入社したときは親の事業を継ぐということはあまり考えていませんでしたが、私以外に事業を引き継ぐ者もいません。とはいえ、なにせニッチな事業で今後どうなるかわかりませんし、親としても継いでほしいと強く言える状況ではありませんでしたが、やめてしまうことで得意先の方にも迷惑をかけてしまうことを気に病んでいたのも事実です。
前回書いたように、エンボス加工を専門に扱う事業者は大変少ないのが現状です。なくなってしまうと取引先も困るでしょうし、エンボスの価値や魅力を理解して長年発注してくださっているわけですから、そこはやはり私が継ぐべきだと思いました。私自身、愛着のある自分の思い出の場所がなくなるのも寂しいという気持ちもありましたし、一念発起して事業を引き継ぐことにしました。

エンボス加工専業者は皆それぞれ自己流といいますか、独自のノウハウを持って作業にあたっており、途切れてしまうとなかなかすぐに同じことができないという面もあります。ボタンを押してあとは機械任せというわけにはいかず、今でもご依頼いただく案件のひとつひとつが挑戦です。エンボスの入り方は生き物のように刻一刻と変化していきますので、その変化に注意を払い、紙やフィルムにとって最適の入り具合となるように試行錯誤しなければなりません。
そういうエンボス加工の技術をなくすことなく残していきたいですし、エンボスがもつ魅力をもっと多くの人に伝えたいという気持ちもあります。やるからには新しいことに挑戦したいという気持ちもありますし、具体的な動きもあるので、そのあたりもまた後々この連載でお伝えしていければと思っています。

(写真1)ロールの交換作業。

(写真1)ロールの交換作業。

(写真1)ロールの交換作業。

(写真1)ロールの交換作業。

エンボスは「インキを使わない印刷」

印刷会社に勤めているときから思っていたことですが、私は、エンボス加工は「インキを使わない印刷」と捉えています。表面に凹凸が加わるので触感が変わるのはもちろんですが、光の反射具合が変わることで紙自体の質感が変わりますし、視覚的な色の見え方もずいぶん違ったものになります。「加工の一種」であると同時に、印刷物の印象や見た目を大きく変える「印刷の一種」でもあります。

身近なところとして、名刺にエンボス加工を施した例をひとつご紹介します。

(写真2)上がエンボス加工前、下がエンボス加工後。加工前は、角度や光源によっては強い照りが見らせる。

(写真2)上がエンボス加工前、下がエンボス加工後。加工前は、角度や光源によっては強い照りが見らせる。

(写真2)の上部の名刺は、コート紙に黒ベタの印刷をした名刺です。コート紙の表面はピカピカと光を弾いて、ともすればチープな印象を与えますし、ただの黒ベタでは少し面白みにかける部分もあります。司法書士という職業イメージにふさわしい、もう少し落ち着いた印象にできないものか、というがクライアントの要望でした。

名刺印刷でのエンボス加工といえば、例えばロゴマークの部分を浮き上がらせる型押し加工を思い浮かべる方が多いかと思いますが、弊所が手掛けるのはロールで紙全体に柄のようにかけるエンボス。今回は黒ベタの照りを抑えて、落ち着いた上質な質感にするために、名刺全体に細かい格子状のエンボスを施しました。このように名刺全体に触感のあるエンボス加工を施した名刺は、あまり見たことがないのではないでしょうか。

(写真3)エンボス機に一枚ずつ手差しで入れていく。

(写真3)

(写真4)エンボス機に一枚ずつ手差しで入れていく。

(写真4)
(写真3、4)エンボス機に一枚ずつ手差しで入れていく。

エンボス加工を施すことによって光の反射具合が変わりますので、今回のように色味を抑えて落ち着いた印象を出すこともできますし、逆に目立たせるためにエンボス加工を入れるケースもあります。ベースとなる色や素材によって、どのような柄をどれくらいの圧でかけるかを調整し、理想の質感に近づけていきます。

(写真5)エンボス加工前後の比較。

(写真5)エンボス加工前後の比較。

(写真6)細かい絹目柄を、強めの圧で入れている。

(写真6)細かい絹目柄を、強めの圧で入れている。

エンボス加工の特徴として、印刷済みの紙にかけられるという点がありますので、「印刷物にもう一度印刷をして命や輝きを吹き込む」ことが可能です。刷り上がったものでも「もうひと工夫ほしい」「仕上がりがイメージと少し違う」という場合や、「他では見ない珍しい質感にしたい」という場合は、一度エンボス加工をご検討ください。インキを使わない印刷の視覚的効果の変化、意外とあなどれないものですよ。

(写真7)別の名刺の例。こちらは上の例とは逆に、少し照りが出るように。

(写真7)別の名刺の例。こちらは上の例とは逆に、少し照りが出るように。

(写真2)上がエンボス加工前、下がエンボス加工後。加工前は、角度や光源によっては強い照りが見らせる。

(写真2)上がエンボス加工前、下がエンボス加工後。加工前は、角度や光源によっては強い照りが見らせる。

(写真3)エンボス機に一枚ずつ手差しで入れていく。

(写真3)

(写真4)エンボス機に一枚ずつ手差しで入れていく。

(写真4)
(写真3、4)エンボス機に一枚ずつ手差しで入れていく。

(写真5)エンボス加工前後の比較。

(写真5)エンボス加工前後の比較。

(写真6)細かい絹目柄を、強めの圧で入れている。

(写真6)細かい絹目柄を、強めの圧で入れている。

(写真7)別の名刺の例。こちらは上の例とは逆に、少し照りが出るように。

(写真7)別の名刺の例。こちらは上の例とは逆に、少し照りが出るように。