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池ヶ谷紙工所
第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」

今回は、私個人的に「センスがあるなぁ」と思ったエンボス加工の例をご紹介します。印刷においてエンボス加工は、なかなか馴染みがない「特殊追加加工」のように思ってらっしゃる方もいるかもしれませんが、大げさに考えることはありません。さり気ない気軽なデザインエッセンスとしてエンボスを使っている例をご紹介しましょう。

印刷のデザインを生かすエンボス

(写真1)チョコレート菓子のパッケージ。木目調の印刷に、線柄のエンボスが浅く施されている。 | 第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)チョコレート菓子のパッケージ。木目調の印刷に、線柄のエンボスが浅く施されている。

(写真2)様々なエンボスの柄。左から順に、皮紋、絹目、石目、キャンバス目。 | 第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)様々なエンボスの柄。左から順に、皮紋、絹目、石目、キャンバス目。

(写真1)は、チョコレート菓子のパッケージです。木目調の印刷がされていますが、よく見ると印刷に沿うように線柄のエンボスが入れられています。印刷にとても馴染んでいて違和感がなく、さわると凹凸が感じられてより木目に近いといいますか、しっとりと落ち着いた高い質感という印象があります。
ただ木目調のテクスチャを印刷しているだけだと、いかにも紙らしいつるっとした質感でしょうし、エンボスを入れることでより木目感が出ていて面白いと思いませんか?

デザインに馴染む柄の選び方もさることながら、印刷された木目に沿うように、かつ浅めの圧でエンボスを入れているのがポイントです。
「せっかくエンボスを入れるのだから、くっきりと深めに分かるように入れてほしい」とリクエストされるクライアント様も時々いらっしゃいますが、場合よってはこのように印刷された元のデザインを生かして、浅く主張しすぎずにそっと効果を付与するエンボスもいいなぁ、と思います。

皮紋、絹目、石目、キャンバス目、竹目、格子目、など、エンボスには様々な柄がありますので、調和を図った使い方を考えてみると面白いかもしれませんね。

(写真1)チョコレート菓子のパッケージ。木目調の印刷に、線柄のエンボスが浅く施されている。 | 第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)チョコレート菓子のパッケージ。木目調の印刷に、線柄のエンボスが浅く施されている。

(写真2)様々なエンボスの柄。左から順に、皮紋、絹目、石目、キャンバス目。 | 第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)様々なエンボスの柄。左から順に、皮紋、絹目、石目、キャンバス目。

シチュエーションを想定したエンボス

(写真3)やや光沢のある紙に、細かい水紋のエンボスが施されたショップカード。薄く印刷されたショットグラスのイラストも面白い。 | 第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)やや光沢のある紙に、細かい水紋のエンボスが施されたショップカード。薄く印刷されたショットグラスのイラストも面白い。

(写真3)は、バーのショップカード。シンプルな黒ベタ印刷なんですが、細かい水紋のエンボスが入っています。のっぺりした黒一色よりも光の反射に変化が生まれますし、暗い照明の店内でもその手ざわりを楽しむことができます。

オーセンティック・バーでお酒を嗜む方ならわかっていただけるかもしれませんが、バーは流れる時間や細やかな変化を楽しむ場所です。お酒を飲む以外にも、お店の内装やお酒の陳列の仕方、バーテンダーのカクテルを作る所作なども来店者の楽しみになります。
お酒のボトルやグラスにも様々な趣向が凝らされており、形そのものやラベルのデザインはもちろん、光の反射・透過具合や手にしたときの重み、飲むときの口当たり、グラスを合わせたときの音など、それぞれの作り手のこだわりが細部まであります。お酒の味わいももちろんですが、そういったこだわり抜かれたモノや空間を楽しむのも、バーに行く目的のひとつになります。

ショップカードはお店の顔ですし、カウンターに置かれていることが多いので、多くのお客さんが手に取るものです。普段ならあまり気に留めないようなカード細部のデザイン、例えば文字フォントの形やインクの色合いを眺めながら、ゆっくりとグラスを傾けるという光景は決して珍しいものではありません。そのカードにもしエンボスが入っていたら、柄に目をやりつつ、何気なく指で触感を確かめながらまた一口グラスを傾ける、ということも往々にしてあるでしょう。そういう時間がまた楽しいものだったりもします。

カードデザインや紙質にこだわるのはもちろんですが、せっかく手にとってもらうなら触感にもこだわりたいところですよね。私見ではありますが、エンボスを入れたこのバーのショップカードにはセンスを感じました。来店者の心理をよく分かった仕掛け(退屈させない心遣いと言い換えてもいいかもしれません)だと思います。

(写真3)やや光沢のある紙に、細かい水紋のエンボスが施されたショップカード。薄く印刷されたショットグラスのイラストも面白い。 | 第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)やや光沢のある紙に、細かい水紋のエンボスが施されたショップカード。薄く印刷されたショットグラスのイラストも面白い。

ありそうであまりないエンボス和紙

(写真4)ある会社のエンボス和紙のラインナップ。 | 第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真4)ある会社のエンボス和紙のラインナップ。

(写真5)通常の和紙よりもさらに上品な印象。 | 第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真5)通常の和紙よりもさらに上品な印象。

(写真6)ブライダルのペーパーアイテムにエンボス加工は定番。 | 第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真6)ブライダルのペーパーアイテムにエンボス加工は定番。

ブライダルのペーパーアイテムは、昔からエンボス加工を施したものが多いです。高級感が出るというのに加えて、やはりエンボスは「手間やコストをかけている、凝った準備をしている」というイメージがあるようで、招待する方としても使いやすいという心理があるのでないでしょうか。ブライダルペーパーアイテムはシンプルなデザインのものが多いので、エンボス柄がより生きてくるというのもあると思います。

私が感心したのは、エンボス和紙を使った招待状です。和紙に印刷するだけでも高級感が出ますが、エンボス和紙はさらに落ち着いた印象ですし、なによりも”和装式の招待状などにうってつけ”だと思いました。チャペルであげる洋装式の招待状ではエンボス格好をよく見ますが、和紙ではあまり見たことがありません。和紙自体、光の当たり方で見え方が変わるものが多いですが、エンボスが入ったものはさらに複雑で繊細な見た目で、とても新鮮味がありました。ブライダル以外でも、料亭のお品書きなんかにも使いやすそうですね。

最近はこだわりを持ってブライダルのペーパーアイテムを自作する方も多いので、そういう方のために自分でエンボスをかけられるキットも開発中です。また後々この連載でご紹介できればと思います。

(写真4)ある会社のエンボス和紙のラインナップ。 | 第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真4)ある会社のエンボス和紙のラインナップ。

(写真5)通常の和紙よりもさらに上品な印象。 | 第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真5)通常の和紙よりもさらに上品な印象。

(写真6)ブライダルのペーパーアイテムにエンボス加工は定番。 | 第6回「デザインエッセンスとしてのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真6)ブライダルのペーパーアイテムにエンボス加工は定番。

いかがだったでしょうか。エンボス加工はデザインのエッセンスとしても使えるものだと、分かっていただけたかと思います。特にデザイナーさんなどのものづくりに関わる方に、エンボス加工をもっと身近に感じて、活用していただたら嬉しいと思いますね。