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池ヶ谷紙工所
第5回「エンボス加工で問題解決」

前回・前々回でご紹介した、ただ見た目や触感を変えるだけでなく、明確な目的を持ったエンボス加工。今回はその具体例をふたつご紹介します。

丈夫で長期保存に向く包装紙にしたい

まずは、某チョコレートメーカーのお話。阪神地区に自社工場をもっていたのですが、1995年の関西・淡路大震災で被害に遭い、移転を余儀なくされました。この移転を機に、一部商品の箱の包装を変更することに。時間と人手がかかっていた従来の手動包装から、機械での自動包装に切り替えることになりました。
取扱量の多い大手メーカーですから、バレンタイン時期の大量需要に備えて、夏頃から日持ちがする商品の生産に入らないと十分な商品量にならないそうです。自動化された機械で大量生産を行い、半年ほど自社の大きな冷蔵保管所での中で保管します。しかし、この過程でみっつの問題が起こりました。

実はそのうちふたつは、前回の記事でご紹介したもの。包装紙の間に空気が入らないために包装紙同士がくっついてしまい、何枚か重なってラインに流れてしまうという問題が起こっていました。高速でラインを稼働させると熱を帯びてくるので、夏場はいっそうこの問題が顕著だったと聞いています。

もうひとつ起こっていた問題は、包装紙がラインの過程で破れてしまうという問題。箱を紙で包装するわけですから、角の部分などには折りも必要です。機械がビシビシと力をかけて紙を引っ張ったり折ったりするときの力に紙が耐え切れず、高速で稼働するとしばしば紙が破れていたそうです。機械の引っ張りの速度を遅くしたり、紙をもっと柔軟性がある丈夫なものに変えるという選択肢もあったそうですが、機械を遅くすれば生産性は下がりますし、紙を変えればコストも変わってきます。

さらにもうひとつ、印刷がうまくいった商品にも保管の点で問題がありました。工場ラインでのひっつきと同じ理由だと思いますが、冷蔵庫で箱を積み重ねて保管していると箱同士がくっつき、剥がすときに表面の包装紙をが破れたり傷んだりするという問題が起こりました。インキの具合などもあったでしょうが、最長で半年間重ねて置いておくわけですから、密着性が高いとこのような問題が発生してしまいます。

このみっつの問題の原因となっているのは「包装紙を重ねた時に、包装紙同士の間に空気が入らずに密着してしまうこと」と、「包装紙に柔軟性がなく強度が足りないこと」の二点。表面に細かいエンボス加工を施すことで解決でき、最高効率で工場ラインを回転させ、冷蔵保管所で長期間保管することができるようになりました。印刷紙やインクの見直しなど他の選択肢も検討されたようですが、コストの面などもあって、エンボス加工が一番合理的に問題を解決できたということです。最初の受注から20年ほど経ちますが、ずっと継続して発注いただいています。

(写真1)包装紙や紙袋などのエンボス加工は、装飾性向上だけでなく、機能性向上の役割をもたせている場合も多い。 | 第5回「エンボス加工で問題解決」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)包装紙や紙袋などのエンボス加工は、装飾性向上だけでなく、機能性向上の役割をもたせている場合も多い。

(写真1)包装紙や紙袋などのエンボス加工は、装飾性向上だけでなく、機能性向上の役割をもたせている場合も多い。 | 第5回「エンボス加工で問題解決」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)包装紙や紙袋などのエンボス加工は、装飾性向上だけでなく、機能性向上の役割をもたせている場合も多い。

エンボス加工後が理想の色になるようにしたい

エンボス加工は、毎回細かな調整が伴います。先に紹介したチョコレート包装紙の事例で言いますと、包装紙を糊付けするときにエンボスが深すぎると、紙にうまく糊が乗らずに接着力が弱くなってしまいますので、エンボスの深さに特に注意を払っています。インキの質や湿度によっても、エンボスの入り具合や紙の滑りは変化しますので、パッケージのデザインが変われば当然また一から調整しなければなりません。
また、エンボスの深さにムラがあってもいけません。エンボスの入り具合は、エンボス機を通している間にも刻々と変わっていきます。シート全体に均一に入れるのは、実はなかなか難しい作業なのです。包装紙が新しくなったときはまず一度テストをして、クライアントと一緒に厳密なチェックを行うようにしています。

化粧品パッケージの案件で、発注元の化粧品会社にサンプルを見せるために、毎日のようにテストを繰り返したことがあります。
それというのも、エンボスを入れるとシートの光の反射具合が変化するので、それに伴ってシートの色も変わって見えてくるのです。同じ絹目エンボス柄でも、60型と80型という少し密度が違うエンボスで、全然照りが違います。60型の方がのっぺりと色が沈み、80型は逆に少し照りが出てくるくらいの違いがありました。
エンボスを入れた色が最終のパッケージビジュアルになりますので、そこから逆算して、デザインデータの色の決定、印刷インキの選定や発色具合の調整など、エンボスより前の工程に関わる方々に考慮していただかなければなりません。印刷オペレーターの方や、デザイナーの方とも情報を共有し、最終の着地点を目指して厳密なレベルで追い込んでいく共同作業を行いました。

印刷会社から発注いただいた案件だったのですが、担当の営業マンの方は、この難しい案件を無事契約にもっていけたことで社長賞をもらったそうです。正直、私も社長賞もらえないものかと思いましたが(笑)、エンボスの魅力や特性を理解いただいて、いいものができたので良しとしましょうか。

(写真2)エンボスも発色に影響を及ぼす印刷の一種。化粧品などはブランドイメージを特に大切に扱うため、正確な発色が求められる。 | 第5回「エンボス加工で問題解決」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)エンボスも発色に影響を及ぼす印刷の一種。化粧品などはブランドイメージを特に大切に扱うため、正確な発色が求められる。 | 第5回「エンボス加工で問題解決」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)(写真3)エンボスも発色に影響を及ぼす印刷の一種。化粧品などはブランドイメージを特に大切に扱うため、正確な発色が求められる。

(写真2)エンボスも発色に影響を及ぼす印刷の一種。化粧品などはブランドイメージを特に大切に扱うため、正確な発色が求められる。 | 第5回「エンボス加工で問題解決」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

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(写真3)エンボスも発色に影響を及ぼす印刷の一種。化粧品などはブランドイメージを特に大切に扱うため、正確な発色が求められる。 | 第5回「エンボス加工で問題解決」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)エンボスも発色に影響を及ぼす印刷の一種。化粧品などはブランドイメージを特に大切に扱うため、正確な発色が求められる。

一口にエンボス加工といっても、ただ凹凸が入っていればいい、というものではないのです。クライアントの要望にふさわしいエンボスはどのようなものか、いつもそれを考え、様々な調整を行っています。それだけに、エンボスの価値を分かっていただいたり、活用していただくのはとても嬉しいですね。