web-magazine
web-magazine

池ヶ谷紙工所
第4回「エンボス加工による機能性の向上」

前回ご紹介したのは、見た目の違いを生み出すエンボス加工。今回は、エンボス加工による機能性の向上のお話です。エンボス加工でシート表面を凸凹にすることで、加工前にはなかった特性を持つことがあり、エンボス加工前に起こっていた問題を解決できることがあります。どのような効果があるのか見ていきましょう。

シート同士のひっつき防止

機能性に関するエンボス加工の中でも、比較的多い目的です。

ある工場で、機械によるライン作業でシートを1枚だけ取りたいのに、シート同士が頻繁にくっついて数枚ついてくるという問題が起こっていました。ライン作業にこの問題は致命的です。規格から外れた不良品を製造してしまうことになりますし、くっついてしまった製品がないかをチェックしようにも膨大な時間がかかり、生産性を大きく落としてしまいます。
このケースでは、シートが平坦すぎることが原因で、シート同士のくっつきが発生していました。シートとシートの間に空気が少なく、また静電気による結合もあるため、シート同士がくっつきやすい状態です。浅めのエンボス加工で表面にわずかな凸凹を作ることでシート間に空気が入るようにして、シート同士の吸着を防ぎ、滑りをよくします。

カップ麺のフタや、商品包装紙などによく用いる加工です。もちろんシートの素材や、工場の機械によってひっつき具合が違うので、テストを繰り返して適切なエンボス具合を見極めていきます。

(写真1)エンボス加工後はシート間に空気が入ってひっつきにくく、一枚ずつ剥離しやすい | 第4回「エンボス加工による機能性の向上」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)エンボス加工後はシート間に空気が入ってひっつきにくく、一枚ずつ剥離しやすい

(写真1)エンボス加工後はシート間に空気が入ってひっつきにくく、一枚ずつ剥離しやすい | 第4回「エンボス加工による機能性の向上」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)エンボス加工後はシート間に空気が入ってひっつきにくく、一枚ずつ剥離しやすい

シートの弾力性や強度の変化

凸凹の屈曲面がつくことにより、クッション性・弾力性を得る事ができます。弊所で過去に行った例で、これも工場の製造ラインの話になるのですが、機械で引っ張られる事で頻繁に破れていた紙の弾力性を上げて解決した例があります。

また、元々の密度が低いシートは、圧をかけて密度を上げることでシート自体の強度を上げられる場合もあります。
例として、印刷紙の卸売会社から強度強化の目的で、注文を受けるケースがあります。エンボス入りの紙は製紙メーカーから販売されていますが、そのラインナップにないエンボス紙がほしい場合や、必要ロット数が合致しない場合などに弊所に原紙が持ち込まれます。卸売会社の顧客ニーズに沿ったエンボス紙を作ったり、他社と差別化を図れるオリジナル商品に昇華させたり、いわばエンボス紙のオーダーメイドですね。柄による装飾性向上が目的の場合が多数ですが、中には密度が低い品質の紙をぎゅっと圧縮させ、密度が高い硬く丈夫な紙に生まれ変わらせることもあります。

(写真2)加工後は凸凹がバネのように衝撃を吸収する | 第4回「エンボス加工による機能性の向上」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)加工後は凸凹がバネのように衝撃を吸収する

(写真3)密度が粗いシートなら、圧縮して目が詰まった丈夫なシートにすることも可能 | 第4回「エンボス加工による機能性の向上」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)密度が粗いシートなら、圧縮して目が詰まった丈夫なシートにすることも可能

(写真2)加工後は凸凹がバネのように衝撃を吸収する | 第4回「エンボス加工による機能性の向上」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)加工後は凸凹がバネのように衝撃を吸収する

(写真3)密度が粗いシートなら、圧縮して目が詰まった丈夫なシートにすることも可能 | 第4回「エンボス加工による機能性の向上」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)密度が粗いシートなら、圧縮して目が詰まった丈夫なシートにすることも可能

一見地味に見える機能性向上目的のエンボス加工ですが、実際に使用されている現場では「エンボスをかけると劇的に効果がある」と実感していただけていると思います。上記の工場ラインでの例などがそうですが、場合によってはエンボス加工なしでは商品として成り立たないものもあると思います。

印刷や商品開発に関わる方でもあまり広く周知されていないことですが、この機能性を高めるエンボス加工は、大きな可能性を秘めていると思います。商品開発中に出てきた問題や、工場ラインでの生産性の向上など、エンボス加工で解決できるかもしれません。うまくはまれば劇的に使い勝手がよくなると思います。

紙やフィルムのひっつき、摩擦、弾力性、剛性などでお困りの際は、一度エンボス加工を検討されてみてはいかがでしょうか。