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池ヶ谷紙工所
第7回「トレーニングについて 前編」

今回・次回の2回に渡って、エンボス機の「トレーニング」という作業についてご紹介したいと思います。我々エンボス加工業者にとってトレーニングは、生命線とも言える大切な作業。印刷業界に関わる方でもご存知ない場合がほとんどだと思いますので、少々マニアックな内容になるかもしれませんが、ぜひ知っておいていただきたいポイントです。

ロール機でエンボスを入れる原理

まずトレーニングの説明の前に、ロール機でエンボスを入れる原理について見てみましょう。
機械の構造は、いたってシンプル。左記の図のようにロールを上下にふたつ重ねて回転させ、その間にシートを通してエンボスを入れていきます。

エンボス加工は、片面エンボスと両面エンボスのふたつに大別されます。上ロールに柄が刻印されたロールをセットし、下ロールはゴムなどの弾性のあるロールで受け止め、上ロールの柄を片面のみに入れるのが片面エンボス。それに対して両面エンボスは、上ロールの柄を下ロールに転写し、上下両方のロールでシート両面に柄を入れます。両面エンボスの派生として、上下ともに柄が刻印されたロールを使う、エンボス&エンボスという手法もあります。

圧が強くかかればエンボスは深く出ますし、圧が弱くなればエンボスは浅くなります。シートの硬さや素材、入れたいエンボスの柄に応じて適切な方法を選びます。

(写真1)ロール機でエンボスを入れる原理・片面エンボスの例。 | 第7回「トレーニングについて 前編」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)ロール機でエンボスを入れる原理・片面エンボスの例。

(写真2)両面エンボスの例。 | 第7回「トレーニングについて 前編」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)両面エンボスの例。

(写真3)両面エンボスには、エンボスとエンボスで挟み込む手法もある。 | 第7回「トレーニングについて 前編」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)両面エンボスには、エンボスとエンボスで挟み込む手法もある。

(写真1)ロール機でエンボスを入れる原理・片面エンボスの例。 | 第7回「トレーニングについて 前編」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)ロール機でエンボスを入れる原理・片面エンボスの例。
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(写真2)両面エンボスの例。 | 第7回「トレーニングについて 前編」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)両面エンボスの例。
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(写真3)両面エンボスには、エンボスとエンボスで挟み込む手法もある。 | 第7回「トレーニングについて 前編」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)両面エンボスには、エンボルとエンボスで挟み込む手法もある。
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上ロールとペアになる下ロールを作る

では、本題のトレーニングについて。トレーニングを一言で言えば、「上下のロールがうまくかみ合うようにメンテナンスする」ことです。特に下ロールを柄の入った上ロールに合わせる必要があります。

両面エンボスのトレーニングの実例をひとつご紹介します。
まず、これから入れる新しい柄を、上ロールにセットします。次に、下ロールに相棒となるペーパーロールをセット。このペーパーロールは日々いろいろな柄を転写しており、以前使ったときの柄の跡が残っています。これを消すために、熱を加えたり水をかけたりしてペーパーロールを柔らかくし、新しい柄を刻みやすい状態にします。
下ロールの準備ができたらシートを通さずに空回しを行い、上ロールの柄を下ロールにしっかりと刻んで上下の柄を一致させます。商品となるシートの硬さ、上ロールの柄、下ロールに使うペーパーロールの硬さなどにもよりますが、30分から1時間程度空回ししたら準備完了です。

上下の柄がうまくかみ合わないと、望む深さで柄が入らなかったり、シートの左右で深さに差が出たり、柄のズレが目立ったりと、均一でない不完全なエンボスになってしまいます。上下のロールはふたつでひとつ。新しい案件に取り掛かる前は、上ロールとペアになる下ロールを作る必要があるため、このトレーニング作業は必ず行います。

(写真4)下ロールにペーパーロールを設置し、トレーニングを行う。 | 第7回「トレーニングについて 前編」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真4)下ロールにペーパーロールを設置し、トレーニングを行う。

(写真5)トレーニング後。 | 第7回「トレーニングについて 前編」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真5)トレーニング後。

(写真6)トレーニング中の写真。下のセットしたペーパーロールに水をかけて柔らかくし、空回しをして上ロールの柄を転写している。 | 第7回「トレーニングについて 前編」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真6)トレーニング中の写真。下のセットしたペーパーロールに水をかけて柔らかくし、空回しをして上ロールの柄を転写している。

(写真4)下ロールにペーパーロールを設置し、トレーニングを行う。 | 第7回「トレーニングについて 前編」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真4)下ロールにペーパーロールを設置し、トレーニングを行う。
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(写真5)トレーニング後。 | 第7回「トレーニングについて 前編」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真5)トレーニング後。
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(写真6)トレーニング中の写真。下のセットしたペーパーロールに水をかけて柔らかくし、空回しをして上ロールの柄を転写している。 | 第7回「トレーニングについて 前編」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真6)トレーニング中の写真。下のセットしたペーパーロールに水をかけて柔らかくし、空回しをして上ロールの柄を転写している。

変化する状況を見極める

トレーニングはエンボスを入れる前に行うだけではなく、エンボスを入れる作業を途中で止めて行うこともあります。2〜3,000シートくらいならトレーニングなしで最後まで回し切れることが多いですが、それ以上のロット数になってくると様子を見て途中で機械を止め、トレーニングを行うようにします。

機械を長く稼働させているとロール自体がすり減ってくるため、同じ柄をずっと入れ続けていても、エンボスの入り具合に変化が出てきます。すり減ってエンボスの入りが薄くなることが多いですが、面白いもので逆に上手く馴染んで濃く柄が出ることもあります。
また、柄の深浅だけでなく、前後左右のズレも気にしなくてはなりません。機械的な構造上、柄のズレを完全にゼロにすることはできませんが、柄の深浅と同じようにズレ具合もその都度変化していきます。わずかにズレが出てきて広がっていくかと思えば、また元に戻ってぴたっと目が合うこともあります。

これらのエンボスの深さのばらつきやズレは、温度や湿度、シートのクセ、機械のクセなど様々な要因が重なって起こるものです。同じシート・同じロール・同じ速度で回してもいつも同じにはならず、生き物のように刻一刻とその入り具合は変化を見せます。その見極めは非常に難しく、経験を積む以外に対処方法はないかなというのが正直なところです。目でしっかり見て数ミクロンの違いを見逃さず、正しい方向に軌道修正していかなければなりません。

変化が出てきたらすぐに止めてトレーニングしたい気持ちもありますが、それではトレーニングばかりに時間を費やして、いつまで経っても作業が完了しません。おおむね、20〜30ミクロン程度のズレや薄さなら製品として全く問題ない範囲ですので、その範囲内で続けるか途中で中断してトレーニングを行うか判断します。

ロールを通せば均一なエンボスがすぐ出来ると思われがちですが、実際の作業現場は不確定な要素であふれています。望ましい深さでズレのないエンボスのために、このトレーニング作業は欠かせません。次回も、トレーニングについてより具体的に見ていきたいと思います。