図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]㉖
「直す」べきか?「直さざる」べきか?
新年おめでとうございます。今年は春から新しい元号に改まります。わたしたちも新たな気分で本の修理に取り組んで行きたいと思います。
昨年最後のWEB MAGAZINEに日本古典籍講習会の報告会を載せていただきました。日本の古典籍を所蔵している大学の図書館などの職員むけの講習会です。この報告を聞いて、「はて?!」とチョット考えてしまいました。
国立国会図書館の講習では和綴じ四ツ目綴じの実習もあるのですが、基本的に国会図書館では綴じ直さないで中性紙で作った保存箱に現状のまま入れて保管する方向にあるようです。(写真1)
私たちは今も和装本の修理に使う絹糸を探していますので、国会図書館ではどのような糸を実際に使っているのか、興味深々だったのですが、「直さない」?とは。。。。肩すかしされた思いです。
なぜ「直さない」かと言えば、その古典籍の現状は、その書籍の来歴(一冊一冊の本としての個人史)を物語っているから。という訳です。それは良く理解できます。
書物に関係する学問分野に「書誌学」というのがあります。書物を紙、書写、印刷、装丁etc.物体の面から研究するものです。その分野の雑誌に『書物學』という勉誠出版という出版社から出されていて、日本の古典籍だけでなく、外国のいわゆる洋書についての記事を載せいます。論文というよりは書物オタクが楽しそうにご自分の研究のエッセイを書いているという感じで私なども愛読しています。
その「書誌学」の研究のためなどには、「直して」しまってはダメでしょう。
以前のWEB MAGAZINE「図書館に修復室をツクろう!」⑮「直す」と「解体する」こよりにワークショップのメンバーが「こより」について書いています。
「こより」は下綴じに使われ、その上から表紙を懸け、四ツ目綴じなどで綴じてしまいますので、完成形からはどのような「こより」で、どのように下綴じされているかは見ることができません。
そこで、書誌学者はどうするか?「触診」するのだそうです。ただし、「触診」は実際に本に触れることができなければ不可能です。
なぜ下綴じのされ方を知らなければならないかというと、下綴じの方法「紙釘装」という、こよりを結ばず、釘のように打ち込んである綴じ方の本を発見したいから。この綴じ方は室町時代にされていたらしく、時代が下るに従ってこよりを結ぶようになったので、この綴じ方をしていれば、室町時代から伝わる本である証拠の一つとなるからだそうです。
(書物の声を聞く:書誌学入門[第一四回] 佐々木孝浩 『書物學14』より)
しかし、私たちのワークショップでは日常、大学図書館で学生が読んだり、借り出したりする本をまず、修理したいとの思いで始めました。一見、「書誌学」の対象である古典籍の修理、修復とは関係なさそうなのです。が、そうは行かなかったのです。大学の図書館の書庫には普通に貸出される和装本も沢山あり、その保管の仕方もさまざまな工夫がされていることは前回のWEB MAGAZINEでも報告されています。
ということで、「直す」べきか?「直さざる」べきか?は図書館員として、その本に向き合って判断しなければならないのです。判断するのには、その本と、それを読むであろう人の両方を知り、理解しなければならないと思います。
なんと、道遠いことでしょう。
(写真2)はこの夏訪問したハーバード大学所蔵の修復なった『源氏画帖』と復時に元の裏打ち紙を剥がし、保管しているものです。このようにオリジナルの本に附属するものはできる限り保存して継承します。(写真3)
そして日本の図書館のリーダーである国会図書館などが「直さない」方向に向かうとすると、「普通の本」の修理・修復の技や材料も将来に伝わって行くのか心配になります。
ワークショップでは、修理するとき、その本を今の姿に戻せるように直すことを原則にしています。このWEB MAGAZINEのタイトルは「図書館に修復室をツクろう!」としていただいていますが、まだまだ、私たちは「修理」の段階です。「修理」と「修復」の関係は?とても大きな問題で頭をかかえます。
しかし、「直す」べきか?「直さざる」べきか?迷ったときに相談できるのが「修復室」ではないでしょうか?
果てしない夢に今年は一歩でも近づけるでしょうか。
図書館資料保存ワークショップ
M.T.