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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]⑮
「直す」と「解体する」

「直す」という作業には、その破損した状態からさらに「解体する」ことが必要な場合も時にあります。一見「直す」のか「壊す」のかどっち?と言われそうです。
だけど、解体することで、その本の作りが見えてくる。
今回は、ちょっとそんなお話をさせてもらおうと思います。

修理材料としてお預かりしている漢籍です。

古書店で購入されたもので、既に虫損も非常に激しく綴じ糸の切れもあり、1丁1丁めくるのに相当な慎重さを必要とする状態。
虫損の範囲は全面的なもので、本当なら漉きばめをするくらいがいいと思われるのですが、私たちWSでは、今のところ裏打ちか大きい穴のみ中心的に和紙で補修する方法でしか取り組んだことがないので、今回もその方法で。

普通、漢籍など和綴じは、本文が袋綴じになって綴じられているため、1丁は小口が輪になった状態ですが、どうやらこの本は何度か簡易の補修をされたようで、本文の虫損の穴は、両面とも糊付けした1枚の和紙で、袋綴じの内側から裏表を一気に補修した状態で、輪がくっついている部分が数か所ありました。この簡易補修された和紙を外さなければ、輪の状態にはできず、中に手が入れられず、後々他の部分の穴の補修が難しい。だが、その補修された和紙は本文の和紙に比べ厚みも強度もあり、剥がそうとしても、本文が破れそうな様子。(かろうじて外せた箇所の補修和紙は、写真① 本文紙に比べ、とても丈夫でしっかりした様子。)

写真① | 「直す」と「解体する」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

写真①

補修の和紙をそのままでは剥がしにくい場合は、刷毛に軽く水をつけ和紙を湿らせると、接着部の糊が溶けて剥がしやすいのですが、その方法を行っても薄い本文が破れそうな状態でした。おまけに、輪になっていないので中に指が十分に入れられないことで、引っ張る力加減がうまくできない。さて、どうするか・・・

綴じ糸は既に切れているので(写真②)、どのみち最終は綴じ直しの作業を要することは確かなのですが、綴じを外し、全部ばらして再度綴じ直す場合も初めに綴じられていた穴を使って綴じ直します。本文すべての丁をその位置に合わせるのは、簡単なことではないと予想し、悩んだのですが、解体するしかない!とバラして修理することにしました。

写真② | 「直す」と「解体する」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

写真②

和綴じは、表に見えている糸で綴じる前の段階に、実は和紙で作った「こより」で本文を仮綴じしてあります。解体は、まず、表の糸をきれいに取り除き表紙を外し、その「こより」も引き抜かないとばらせません。
開けてみると、この本は、表紙も袋綴じの状態で折り返された形状をしていて、「こより」はその折り返しの本文側の部分もつないでいました。
非常に硬く丈夫なこよりで、こより自体はどこも朽ちていません。その強いこよりでしっかりと仮綴じされていて、引き抜くのが大変だった程。(写真③, ④)
こよりは売られてもいるようですが、自分で作ります。和紙を裂いて指でねじってひも状にするのですが、硬くまとめるのはとても難しいので、この立派さに感嘆のため息がもれましたよ。

写真③ | 「直す」と「解体する」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

写真③

写真④ | 「直す」と「解体する」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

写真④

さて、最終綴じ直しのプレッシャーは、ちょっとあっちに置いておいて。
本文紙1丁を開き、1枚の状態に開けることができました。(写真⑤)
和綴じの本のパーツの状態です。
これで、見通しよく、虫損による穴の補修はしやすい状態になりました。

写真⑤ | 「直す」と「解体する」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

写真① | 「直す」と「解体する」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

写真①

写真② | 「直す」と「解体する」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

写真②

写真③ | 「直す」と「解体する」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

写真③

写真④ | 「直す」と「解体する」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

写真④

写真⑤ | 「直す」と「解体する」 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

写真⑤

解体して分かること。

立派な「こより」にしてもそうだし、それを表紙の裏までつないでいたこと、それから、簡易ではあるにせよ補修をされたことがあること、それらは、間違いなくこの本が大切な思いを込められて今日まで残っているということ。
解体すること、修理することは、1冊の本のたどってきた道、大げさかもしれないが歴史を感じることができる。
そして、そこに関わった人たちの思いを少しばかりくみ取ることができると、私もきちんと直したい、という思いになります。いつかまた修理される時、私の修理の後を見られて恥ずかしくない程度に。下手くそかもしれないが、大事に直した思いが伝わるように。

資料保存WS
小梅