白須美紀
心はずむ紙の文化祭「KYOTO PAPER BAR」
バックス画材KAMIKOBO(紙工房)
[What A Wonderful Paper World vol.8]
画材店がプロデュースする充実の紙イベントへ
山々が紅く染まりはじめた11月の下旬に、京都洛北の「バックス画材」2階にある「KAMIKOBO紙工房」を訪ねた。お目当ては、紙雑貨や画材道具、文具など総勢12ブランドが出展する「KYOTO PAPER BAR(キョートペーパーバル)」というイベントだ。
会場に足を踏み入れてまず驚いたのが、出展者の多彩さだった。友禅染の紙を使ったおしゃれな紙箱が揃う「BOX&NEEDLE」や味わいある手刷り和紙の「竹笹堂」、とぼけたキャラがゆる可愛い「AIUEO」に和モダンな紙モノ文具の「裏具」もある。さらに愛らしい和紙グッズの「京都烏丸六七堂」や、鹿革を使った万年筆や天然染料のインクなどを揃える「TAG STATIONERY 」も出展していた。どれも紙や文具が好きな京都人なら知らない人はいない地元の名店ぞろいだ。
さらにいえば、文具だけではなく体験も充実している。水彩画専門の画用紙を扱う「ミューズ」のブースでは、実際に水彩で色を塗って紙のにじみを試すことができた。紙によって表現が変わるのが興味深く、描いてすぐ塩をふると結晶ができて面白い表現になるのも不思議だった。
その隣では筆の「中里」が出展しており、さまざまな筆を試し描きできるようになっていた。筆先が細くてものすごく長いもの、何連にもなった筆など、初めてみるものも少なくない。こうした未知の筆を試せるのは、絵を描く人にはずいぶんありがたいに違いない。近くには原田伸治さんとWORLD1ふたつの似顔絵ブースがあり、親子連れが似顔絵を描いてもらっていた。道具のプロがいて、隣に絵のプロがいるというのは、なんとも画材店らしいラインナップだ。
また、段ボールケースや什器の「ケイジパック」は段ボールの椅子やディスプレー製品を展示しており、実際に座って強度を試すことができた。紙にもいろいろな機能があるのだと実感する。
さらに会場の奥にあったのが、ろうびき紙のノートをはじめ個性あふれる紙製品を扱う山本紙業だ。メモ紙をパックにしてミニパレットに積んだ「パレットメモ」コーナーは紙屋の倉庫のミニチュアのよう。しかもまわりを模型列車が走っているのがなんとも楽しい。「パレットメモ」は好みの5種類を選んで購入するのだが品種が豊富にあるためとても迷う。奈良からやってきたという紙好きの女の子たちが「どうしよう、選べないです……!」と嬉しい悲鳴をあげていた。
紙製品あり、画材あり、文房具あり。なんとも楽しすぎるこのイベントを企画したのが、バックス画材の企画部長片山景太さんだ。
「今回の『KYOTO PAPER BAR』のように多くのブランドをお招きするのは、KAMIKOBO初の試みです。1階のショップで取り扱っている企業はもちろんですが、わたしが前からファンだったところにも声をかけたんですよ」
最近は紙や文具の大掛かりなイベントも多く、情報収集に余念がないという。充実した出展者の顔ぶれからも、片山さんの熱意が伝わってくるようだった。
地元で愛される画材店
バックス画材は、昭和53年創業の画材店だ。わたし自身は今回が初めての訪問となったが、実はかねてから「京都・北白川に素敵な画材屋さんがある」という噂は聞いていたのだ。近隣にある造形大や工芸繊維大の学生たち、仕事仲間のグラフィックデザイナー、文具や画材を愛する友人たちが「あそこ、大好き!」と口を揃える。1階のショップには、多種多様なサイズと種類の紙、日本画と洋画の絵の具や筆、キャンパスや額縁が充実しており、出展者である山本紙業の山本社長も「うちのスタッフが大学生のときにお世話になったそうで、バックス画材さんの大ファンなんです。それで、今回のイベントに参加させていただいたんですよ」と教えてくれた。
バックス画材は2017年に現在の店舗に移転して店が広くなり、さらに一般の人たちに知られるようになった。アート関係者だけではなくご近所の絵画好きや文具好きにも間口が広がったのだ。事実この日のお客さんも、デザイナーや芸大生はもちろん、小さな子供連れのファミリーからお年寄り夫婦までバラエティ豊かな顔ぶれだった。片山さんによれば、平日でも100人を越す人がバックス画材で買い物するという。
今回の会場となったKAMIKOBOは、2017年の引っ越しを機に設立したスペースだ。立ち上げ時にはクラウドファンディングに挑戦し、85名の支持を得て目標を達成した。普段はA3まで出力できるレーザープリンター2台と1m以上のサイズが刷れる大型インクジェットプリンター1台を備えた印刷工房として活用されている。1枚から印刷が可能で、1冊から製本も依頼できる。ありがたいのは、セルフサービスではなく、プロが印刷してくれるところ。近くの芸術系の大学生は、ここでポートフォリオづくりを手伝ってもらう。
「お一人おひとりの相談にのりながら、印刷するんです。毎日いろんな相談が持ち込まれますよ」と、片山さんは楽し気に笑う。「学生さんだけではなく、一般の方も大歓迎です。リトルプレスの出版などもご相談ください」
芸大生たちの依頼は、片山さんたちの想像を越えるものも多い。だが決して「できない」とはいわず、一緒に頭をひねるのだそうだ。1階のスタッフもみな画材に詳しく、客の質問に快く答えていた。何とも頼もしいプロの集まり。たくさんの人たちがここを訪れるのは、決して豊富な品揃えだけが理由ではないのだろう。KAMIKOBOはそんなバックス画材がお客様とつながり、お客様に喜んでいただくための大切な基地でもある。「KYOTO PAPER BAR」第二弾はもちろんのこと、今後片山さんたちによって企画される楽しいイベントを心待ちにしたい。
バックス画材
住 京都市左京区一乗寺樋ノ口町11
電 075-781-9105
営 11時〜19時
休 なし
交 叡山電車「茶山」または「一乗寺」駅 徒歩10分
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