生田信一(ファーインク)
restaurant Goût のショップカードを活版印刷で作る
今回のコラムは、BULLET Inc.の小玉さんが手がけられた、restaurant Goût(レストラン グゥ)さんのショップカードや名刺、コースターを制作したプロジェクトを紹介します。
ショップカードのグラフィックデザインを手がけられたBULLET Inc.の小玉文さん、さらにドイツの製紙メーカーGMUND社のラボルド友紀さんの二人をお招きし、竹尾 青山見本帖でお話を伺いました。
今回と次回の2回にわたっての連載になりますが、今回はrestaurant Goûtのショップカードについて紹介し、さらに次回はGMUND社のファインペーパーについて詳しくお伝えする予定です。
restaurant Goût のショップカード
restaurant Goûtは今年の6月に、渋谷富ヶ谷にオープンした創作フレンチ料理店。お店の看板は「◎(二重丸)」のシンボルマークです(写真1、2)。
店名の「Goût」も「◎」も覚えやすく、強く印象に残ります。このデザインを開発したのがBULLET Inc.の小玉文さん。さらに「◎」のマークは金属活字を印刷した清刷りを元にしているというのですから驚きです。もちろんショップカードや名刺、コースターの印刷には活版印刷を使っています。
小玉さんは、活字の「◎」の字形をそのままレストランのシンボルマークにすることを考案しました。このアイデアについて小玉さんは次のように語ります。
「お店の名前の「Goût」は、元々フランス語で「味」という意味があります。またグゥという音は、おなかが空いたときの「グ~」という音にも聞こえますし、「good」と捉えることもできます。 goodを表す記号であり、白いお皿の形にも見える「◎」をシンボルにしてはどうかと考え、東京都大田区のAllright Printingさんに、活字の中でちょうど良い形の「◎」を探してくださいとお願いしました」
活字を探し、清刷りを制作する様子が、ウェブサイトnoteの記事「restaurant Goûtのショップカードを作りました。」に公開されています。こちらの記事では、作られた清刷りを見ることもできます。以下に、記事から一部を引用します。
「小玉さんから「◎」の活字をお店のマークにしたいとのお話を伺い、まずは「◎」の活字探しから始まりました。この「◎」が、活字だと2種類あり、真ん中の円が小さいものと大きいもの。
「お皿」を連想するような真ん中の円が大きい「◎」を理想としていたので、それの初号(一番大きいサイズ)を探していたのですがなかなか見つからず、佐々木活字さんでなんとか2号のものを見つけてほっとした覚えがあります。
これをインクの量や印圧を変え何パターンか清刷りしたものをご用意し、お店のマークやショップカードに入れていただきました」
入手した「◎」の金属活字が(写真3)です。
restaurant Goûtのシェフ宮田さんから「来るたびに楽しんでもらえるレストランにしたい」「旬の食材をベストな状態で味わってほしい」との言葉を受け、小玉さんが提案されたのが季節や食材の色を想起させる12色のショップカードです。
ショップカードは表裏印刷で単色のスミで刷っています。紙色を変えてカラーバリエーションを作成しました。
用紙には、美しい色合いが特徴のGMUND社の「グムンドカラーマット-FS」が使われ、豊富なカラーバリエーションから12色が選ばれています(写真4〜6)。
グムンドカラーマット-FSについて、小玉さんは次のように語ります。「restaurant Goûtは創作料理のお店です。ふきのとうの色やワインの色など、食材の美味しそうな色を表現するためには、この紙しかないと考えました」
色を選ぶ際には、12ヵ月の季節のイメージを意識したと小玉さんは話します。「1月は雪のような白、2月はバレンタインのチョコレートも連想できるような色、3月はミモザなどの明るい花がイメージできる色、4月は草木の芽吹くような色……といった具合です。月ごとに使い分けるもよし、その日の食材のイメージで選ぶもよし、自由に楽しみながら使っていただけるように提案しました」
印刷は活版印刷で、Allright Printingさんに依頼しました。「紫の紙に黒のインキの組み合わせは、文字がきちんと読めるかどうか不安だったのですが、印刷を担当された東郷清丸さん(Allright Printingの職人さん)に強めに圧をかけて印刷していただき、凹凸で文字の存在を感じられる、乙(おつ)な仕上がりになっています」と小玉さんは語ります。
restaurant Goût の名刺とコースター
名刺はチップボールのグレーの紙を使って印刷しています。ロゴの二重丸は表裏で大きさを変えて、2種類の名刺にランダムに配置されています(写真7)。
コースターは円形の型で抜かれ、◎(二重丸)との相性が良いです。こちらもチップボールが使われています(写真8〜10)。
「グムンドカラーマット-FSもチップボールも、活版との相性が良かったです」と小玉さんは語ります。それを受けてグムンド社のラボルド友紀さんが用紙の特性を解説してくれました。
「グムンドカラーマット-FSは活版印刷や空押しに使っていただけることが多いです。素直な紙であるので、活版印刷や空押しに適しているといえます。素直というのは、紙の原料となる自然由来のものだけで作られ、表層にいろいろな塗工が施されていないということです」
カラーバリエーションが豊富なグムンドカラーマット-FSの魅力は尽きません。次回のコラムでは、グムンド社独自のカラーシステムについて、さらにヨーロッパのファインペーパー事情についてお話を伺いましたので、ご紹介できればと考えています。
青山見本帖 ショウケース展示「GMUND GOLD」の案内
インタビューを行った竹尾 青山見本帖では、ちょうど青山見本帖 ショウケース展示「GMUND GOLD」が催されていました。(写真11)は同展のポスターです。
「グムンドゴールド-FS」は、色味と輝きの強弱のバリエーションで多彩なゴールドを揃えたファインペーパーです。このグムンドゴールド-FSにもグムンドカラーマット-FSの色のノウハウが生かされているとの説明を伺い、興味深く拝見しました。
金のバリエーションが一気に増えたことは、チョコレートなどのお菓子のパッケージを手がける企業やデザイナーには朗報でしょう。展示を通じて、金の表現力が大きく広がったことに驚かされました。
東京での開催は8月21日(金)までですが、その後、大阪 淀屋橋見本帖において巡回されるとのことです。ご来店の際はぜひご覧ください。
青山見本帖 ショウケース展示「GMUND GOLD」
グムンド社(GMUND)は、南ドイツ、ミュンヘンのさらに南の、アルプスのテーガンゼー湖のほとりにある製紙会社です。このたび、グムンド社の製品のなかから、「グムンドゴールド-FS」をご紹介いたします。
「グムンドゴールド-FS」は、色味と輝きの強弱のバリエーションで多彩なゴールドを揃えたファインペーパーです。きめ細やかな片面マイクロエンボスによる触感と、繊細で優美な光沢が特徴です。
この「グムンドゴールド-FS」の魅力を、パッケージ、DM、パンフレットなど、国内外で実際に採用された製品事例をまじえて展示いたします。
会期:2020年7月20日(月)―8月21日(金) 土日祝および8月13日(木)・14日(金)/休
会場・お問い合せ先:株式会社竹尾 青山見本帖 東京都渋谷区渋谷4-2-5 プレイス青山1F
TEL:03-3409-8931
URL:https://www.takeo.co.jp/news/detail/003049.html
小玉さんが、グムンド社独自のカラーシステムを高く評価されていたのが印象的でした。「紙を選ぶときに、改めて、グムンドカラーマット-FSの色のラインナップは絶妙だなと感じました。鮮やかな色や微妙な淡い色が同居しているのに、全体のバランスが良いところが素敵です」と語っておられました。これは、店頭で実物の色見本を確認していただくのが一番だと思います。活版印刷でカラー展開を考えるときには、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
では、次回をお楽しみに!
株式会社BULLET
所在地:164-0003 東京都中野区東中野1丁目30番15号 SPACE-M 302
連絡先:Tel. 03 5937 3555 / Fax. 03 5937 3555
代表者:小玉 文
事業内容:グラフィックデザイン
URL:https://bullet-inc.jp/
小玉 文(コダマ アヤ)
アートディレクター / グラフィックデザイナー。1983年大阪生まれ。
東京造形大学デザイン学科グラフィックデザイン専攻領域卒業。
株式会社粟辻デザインへの7年間の在籍を経て2013年、株式会社BULLETを設立。
東京造形大学 講師。