生田信一(ファーインク)
「吉井宏個展 立体キャラEXPO」に行ってきました
2022年10月19日〜30日、東京都台東区のTOKYO PiXEL. shop & galleryにて「吉井宏個展 立体キャラEXPO」が催されました。会場のギャラリーは大江戸線「蔵前駅」から徒歩3分。このあたりは、おもちゃや工具材料の卸問屋街が並ぶスポットもあります。キャラクター好きの私は、出かける前から期待が高まりました。
では覗いてみましょう。ごゆっくりお楽しみください。
かわいいキャラクターがお出迎えするギャラリーの外観
会場のTOKYO PiXEL. shop & galleryは、初めて訪れるギャラリー。ギャラリーの奥にはショップも併設され、個性あふれる作家さんが作られたオリジナル作品やグッズが並び、購入も可能とのこと。ギャラリーの外観は(写真1〜3)の通り。吉井さんが作られたキャラクター達が入口で迎えてくれます。
私は、吉井さんとはすいぶん以前にお仕事をさせていただいたことがあるのですが、実際にお会いするのは20年以上ぶりです。SNSを通じて、吉井さんの最近の作品を見つけたことをきっかけに交流が復活しました。
吉井さんが手がける作品群に「TDWキャラクター」というシリーズがあります。このシリーズはSNSで公開されています(写真4)。「TDWキャラクター」について吉井さんは以下のように語っています。以下、展示パネルからの引用です(写真5)。
「●「TDWキャラクター」とは
1999年2月以来、ブログやSNSに掲載し続けているオリジナルキャラのシリーズ。
TDW(The Daily Work)とは日課の意。
当時、仕事が忙しくてオリジナルの絵が描けなかった焦りから、アイデアのメモのような絵でもいいから一日一枚描いてホームページのトップにアップしようと始めました。
初期は2Dイラストの実験のような絵ばかりでしたが、2002年頃から3DCGによるキャラクター作品が混じりはじめ、2007年には完全に3Dキャラに移行。現在も2〜3日に1個のペースで作り続けています。
TDW制作は創作活動のエンジンのような存在です。仕事はTDWキャラをサンプルとして始まることが多いですし、立体作品やアニメーションなど、多方面に応用しています。」
「TDWキャラクター」では、吉井さんが日々手掛けられているキャラクター達の構想やアイデアスケッチが公開されています。3Dキャラクターの原型となる2Dのアイデアスケッチも公開されるので、吉井さんの思考のプロセスを垣間見ることができます。
また、現在手がけている立体の造形作品の制作過程を写真で紹介いただくこともあります。日々、立体オブジェが仕上がっていく過程を見ることができる楽しい投稿になっています。吉井さんの投稿を見るうちに、出来上がった立体作品を見てみたいと思うようになりました。そうしたタイミングで今回の個展の開催を知りました。これは是非駆けつけなければと思い期待が膨らんでいきました。
吉井さんの個展は何度か開催されていますが、今回は23年ぶりとのこと。立体の展覧会は今回が初めてのことです。今回の個展を開催した経緯について伺ったところ、次のようなご返事。
「立体作品をまとめて展示するチャンスは何度かあったのですがどれも事情で実現せず、勢いづいた制作ペースのまま8年くらい作り続けてました。どんどん増えて部屋やトランクルームを占領する立体作品をどうにかしなきゃと思ってたところに、TOKYO PiXEL.の大図さんから個展のお誘いがあり、お受けすることにしました。」
では、ギャラリーの作品達を見ていくことにしましょう。
かわいいキャラクターで埋め尽くされたギャラリー空間
すらりと並んだ立体オブジェ。会場は写真撮影はOKとのことで、思う存分撮らせていただきました(写真6〜9)。
壁際に展示された個々のキャラクターをいくつか紹介します。「タイトル(TDWの作品番号)」「制作年」「素材(PLA、レジンなど)」がわかるようになっています(写真10〜20)。
会場には、吉井さんがこれまで手掛けられたお仕事で創作されたキャラクターも展示されました。(写真21・上)では、ショップジャパン「WOWくん」、NTTドコモ iコンシェル「ひつじのしつじくん」、森永乳業「ピノトーク」キャタクター&パッケージ。 →ピノゲーサイトはこちら
また、(写真21・下)では、バンダイ ガシャポン 45周年 GASHAPON ODYSSEY「MASTER of the EARTH」全5種のキャタラクター。このキャラクターはガシャポンのデパート(池袋総本店・キャナルシティ博多店)にて2023年2月28日まで発売中。 →GASHAPON ODYSSEYのサイトはこちら
中央のテーブルには、かわいいグッズ類も並んでいました。アクリルキーホルダーやマグカップ、レジンで作られたキャラクターなどを見ると、思わず顔がゆるんでしまいます。
立体キャラの作り方
吉井さんと初めてお会いしたのは今から30年以上前です。当時はカラーイラストを作成するのにアクリル絵具などの画材を使うことが多かったのですが、吉井さんは早くからペインティングソフトを使ってコンピュータで作品を仕上げるスタイルを取り入れていました。
吉井さんが描く愛らしいキャラクターは人気で、お仕事の幅が広がっていきました。お仕事の中にはキャラクターを動かすアニメーションの仕事もありました。そうした幅広い活動の中からキャラクターを3Dで造形するスタイルに変化していったことも自然のことのように思えます。
(写真24)は筆者が購入したマグカップと「吉井宏 立体キャラ作品集」です。作品集では2010年〜2022年の吉井さんの手がけた作品を時代を追って眺めることができます。作品集のデザイン・レイアウトもすべて吉井さんが行ったとのこと。フルカラー52ページの中綴じの冊子で印刷を株式会社グラフィックに依頼されました。インクの発色が良くて、とても綺麗に仕上がっています。
作品集の冒頭のページで、立体キャラを製作するに至った経緯が述べられています。以下、一部を引用します。
「2005年頃、それまでの2Dイラストから3DCGによるキャラクターに仕事の軸を移しました。オリジナルの3Dを「立体作品=フィギュア」にしてみたくなり、2006年から石粉粘土やインダストリアルクレイを使って立体作品をスタート、3Dプリンタや3D切削機も、当時から出力サービス等で利用していました。……(中略)……自前の3Dプリンタを使い始めたのは比較的遅くて2017年秋。初心者向け家庭用3DプリンタFLASHFORGE Finderを購入しました。」
作品集の巻末には、現在の立体キャラの作り方の手順を解説したページがあります(写真25)。このページは、展示会場でも掲示されていました(写真26)。この制作工程は、私が一番関心を抱いた部分でもあり、ものづくりや造形に関わる方であれば、参考になるのではないかと思います。
工程の手順の解説を読み進めていくと、制作の作業全体は10日ほどかかったと語られています。最初に、3Dプリンタでパーツごとに出力を行い、これらを組み立て、接合部にパテを塗り、下地塗料を塗ってサンドペーパーで磨きます。本体の塗りはアクリル絵具リキテックスを使っています。
デジタルとアナログの技術を駆使して、今回展示されたような立体キャラが作られていることがわかり、改めて驚きました。今回の展示で作られた立体キャラはどれも1点ものとのこと。細部に至るまできれいな仕上がりで、アナログで仕上げたと思えないくらいに美しく、見事です。
今回は蔵前にあるかわいいギャラリーでの吉井宏さんの展示をご案内しました。愛らしいキャラクターに囲まれて、とても楽しい時間を過ごすことができました。吉井さんの創作のスピリットの源泉は、自分が作りたいものを作ること、またその活動を長年にわたって継続されていることだとつくづく感じました。
では、次回をお楽しみに!
吉井 宏/Hiroshi Yoshii
イラストレーター。マスコット/キャラクターデザイナー、アーティスト。広告や出版向けのイラスト、企業向けのマスコットやアニメーションのキャラクターデザインの他、多数のオリジナルキャラクター(TDWシリーズ)を制作。それらを元に、アートトイやFRP彫刻など立体作品にも取り組む。
代表作にNTTドコモ「ひつじのしつじくん」、ショップジャパン「WOWくん」、スワロフスキー「TOOT, THE OWL」など。2022年にはバンダイ「ガシャポン15周年マシンガシャポンオデッセイ」のキャラクター「MATERIALS of the Earth」をデザイン。
Homepage:https://www.yoshii.com
Twitter:https://twitter.com/hiroshiyoshii
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