三星インキ株式会社
平版印刷用油性インキ以外での黄変発生について
前回は平版印刷用油性インキが紫外線以外の影響によって発生する黄変について書かせて頂きましたが、今回は平版印刷用油性インキ以外での黄変発生について書かせて頂きます。
まずは活版印刷について
活版印刷用インキの組成構成は平版印刷用油性インキに類似した植物油を使用した構成となっておりますが、乾燥機構が大きく異なります。
活版印刷用インキは基本的に浸透乾燥型の乾燥機構であり、インキ中の低粘度成分(植物油・鉱物油)が原反(紙)に浸透し、紙の表面上に残った高粘度成分(顔料・樹脂)が皮膜となるというメカニズムであります。
従って、活版印刷用インキは平版印刷用油性インキに使用している乾燥剤(金属石けん)を使用しておらず、酸化重合による皮膜形成は起こりにくい傾向にあります(ただし、植物油自体は酸化するため、非常にゆっくりではありますが酸化重合による皮膜形成は起こります)。
また、活版印刷に使用される原反(紙)は、表面にコート層を塗工していない非塗工紙(ノンコート紙)を使用されることが多く、印刷後にわざわざ意匠性(光沢)を付与するためにOPニスを塗布することはほとんどなく、平版印刷用油性インキに比べると色のないインキの使用頻度が低いため、黄変に関してもさほど留意する必要はないかと思います(活版印刷用インキは平版印刷用油性インキよりも高濃度設計としており、黄変の影響で色が変わることも分かりにくくなります)。
ただし、色上質紙などを原反とされる際、白インキを単色あるいは混色で使用されることがあるかと思いますので、この場合は乾燥剤を使用していないからと言っても黄変には留意して下さい。
次は凸版印刷、凹版印刷、孔版印刷について
凸版印刷(フレキソ印刷)、凹版印刷(グラビア印刷)、孔版印刷(スクリーン印刷)の乾燥機構は浸透乾燥型、あるいは蒸発乾燥型と呼ばれる乾燥機構であり、インキ中の有機溶剤が原反に浸透する、あるいは大気中に蒸発することで顔料及び樹脂成分といった高粘度成分が残り、皮膜が形成されます。
そして、樹脂成分は平版印刷用油性インキや活版印刷用インキに使用している植物油を使用しておらず、植物油の酸化による着色(黄変)は発生しません。
この事から、これら印刷方式にて印刷した印刷物は、平版印刷用油性インキや活版印刷用インキに比べると紫外線以外では黄変しにくい事となります。
従って、平版印刷用油性インキを使用する際に、意匠性を付与するために水性コートニスなどの酸化重合を行わない塗工を行うと、黄変性の発生はかなり抑えられます。
ただし、どのような印刷方式用途に設計されたインキに使用している原料の多くは合成により製造されたものであり、構造上、酸素の影響を受けることは周知されています(二重・三重結合部を有する構造)。また、黄変の少ない原料であっても、経時による構造変化や添加剤などの過剰反応により黄変などの化学反応が発生することが分かっています。
これまでのことから、どのような印刷物も使用したインキや原反の種類、保管されている環境などによって多少の差はありますが、必ず黄変(化学変化)という現象は発生します。
まぁ、光と酸素の両方を遮断することができれば、後年ずっと色の変わらない印刷物を得ることができる確率が非常に高くなりますが、その環境を得るのはなかなか難しいですね。