白須美紀
紙を染め、カリグラフィーを楽しむワークショップ
WACCA JAPAN × Risa KADONO Calligraphy
上質で魅力的な和紙アイテムを揃えるWACCA JAPANでは、ネットショップやイベント出展で製品を販売する以外に、和紙に親しんでもらうための各種ワークショップも開催している。名刺サイズの耳付き和紙をマーブリング染めする体験は、素敵なオリジナルカードを簡単につくることができるとあり、紙好きの間で人気の企画だ。
2024年8月のGOOD NATURE STATIONでは、カリグラフィー作家の角野梨沙さんとのコラボワークショップを開催。マーブリング和紙を染めたあと、角野さんの指導を受けて自分で染めた和紙にカリグラフィーで言葉を書き、オリジナルカードを制作する内容だった。
マーブリングと墨流し
水に浮かべた色材を紙に写しとり模様を染める技法は、西洋にも日本にも存在している。西洋はカラフルな色が特徴の「マーブリング」で、樹脂などで粘度をもたせた液体に顔料絵の具を落とし、櫛で細やかな紋様をつくりだすものだ。写し取った模様が大理石(マーブル)に似ていることが名前の由来で、15〜17世紀にヨーロッパで盛んになったという。
一方、日本に伝わる技法は「墨流し」で、水に墨汁を落とし流れる模様を写しとるものだ。9世紀ごろにはすでに作られており、和歌をしたためる料紙の装飾に使われていた。日本の場合は自然な墨の流れを大事にしており、墨を動かすため水面に扇で風を送ったり息を吹きかけたりするという。なんとも風雅な技法である。
WACCA JAPAN主宰の森崎真弓さんによると、ワークショップで体験できるのは、マーブリングと墨流しをミックスさせた「WACCA流マーブリング」だそうだ。
「マーブリングの材料を使って、墨流しのように染めていきます。墨流しならではの余白や涼しげな模様ができるのがポイントです。余白があるほうが、上から文字も書きやすいですよ」
瞬間の美しさを写しとる
会場には、インクを浮かすためと水洗いするための2つの桶が用意されていた。インクを浮かす桶には、糊成分を混ぜたマーブリング専用の液が満たされている。その上に好きな色のインクを一滴垂らすと、みるみるうちに丸く大きな色の円ができた。さらにその円の中心にインクを弾く液体を一滴落とすと、円のなかに空間が生まれる。これを繰り返して水の上にインクの年輪をつくり、竹串でそっと動かすとカラフルな墨流しの液面ができあがるのだ。インクの色を変えれば、多色のマーブル模様にすることもできる。
「あまりたくさんの色を入れるより、2〜3色にしておくほうがまとまりが良いですよ」
と、森崎さんがポイントを教えてくれた。
そうしてできあがった水面の模様の気に入った箇所に耳付き和紙をそっと浮かべると、和紙に模様が染まった。水の流れを感じるもの、白場が活きたものと、さまざまな表情を写し取ることができる。後は染めた和紙をていねいに水ですすいで余分なインクを落とし、乾かせば完成だ。水面をどんな風に動かしても絵になるし、およそ大きな失敗もない。簡単に自分だけの美しいオリジナル和紙をつくることができるのは、なんとも楽しい。
ワークショップ参加者の皆さんもみんな夢中でマーブリング染めに取り組んでおり、中にはその場で紙を買い足す人もいたほどだった。全員の作品がすべて並んだ様は圧巻で、どれひとつ同じものはなく、どれもが魅力的だった。
紙を入口に、文化と出会うきっかけを
今回のワークショップでは、もう一つのお楽しみがあった。紙を染めた後のカリグラフィーのレッスンだ。カリグラフィー作家の角野さんが事前に参加者のイニシャルやひらがなの名前の見本を用意してくれるので、ますますやる気が高まる。全くの初心者には、専用ペンの持ち方や書き方、書く時の正しい姿勢などのレクチャーもあった。紙を染めていたときとはまた別の集中力が必要となるが、それもまた楽しい。そして、先ほど自分で染めた紙を使って、カリグラフィーの清書を行った。
今回は筆記にカリグラフィー用の顔料インクを使用したが、墨や水性インクでもマーブリングの上から文字を書くことができるそうだ。染めに使った耳付き和紙は、「ペンや筆書きに向いている」と森崎さんが選んだWACCA JAPANの定番カードで、活版印刷にも使えるという。自分で染めた用紙に活版印刷で名刺を刷ってもらうのも良さそうだ。
WACCA JAPANでは今回のマーブリング以外にも、さまざまな和紙のサンプルブックをつくり墨書きやペン字で試し書きをするワークショップなども行っている。
「書道で使う墨は、上質なものは摺り方によって青く見えたり赤く見えたりするんですよ。墨流しもそうですが、和文化は深くて面白い。今後も和紙を使うことを入口にしたワークショップを企画して、和文化の魅力を伝えていきたいと思っています」
森崎さんが今気になっているのは、日本画なのだそう。それもまた和紙に関連する和の文化だ。きっといつか今回のように楽しいワークショップの形にして、日本画の面白さを伝えてくれるに違いない。
WACCA JAPAN × Risa KADONO Calligraphy
ワークショップの開催時期、内容は不定期です
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