平和紙業株式会社
進化する紙(耐油紙)
水蒸気は通すけど、油はブロックする紙。いわゆる耐油紙というものがあります。例えば、フライドポテトや、ハンバーガーなどを入れる袋などにも使われています。水蒸気は通すので袋の中で蒸れることは無く、油分は紙の表面に出てこないので、べたつかないのが特徴です。
多くは、紙の表面に、耐油性のあるフッ素化合物をコーティングして、この機能を持たせています(写真1)。
さて、「フッ素」と言うと、〝芸能人は歯が命“と言われるように、現在では歯磨き剤に多く含まれているものです。
「フッ素」は、元素記号で<F>で表される、原子番号9の元素です。
自然界では、「フッ素」単体で存在することは無く、他の原子と結びついて化合物として存在しています。
他の原子と結合すると言うことは、有機化合物として存在するか、無機化合物として存在するかということになります。
有機化合物とは、炭素(C)を含む化合物のことで、それ以外は例外を除いて、無機化合物となります。例外とは、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO2)、炭酸カルシウム(CaCO3)などは無機物として取り扱います。
歯磨きに含まれるフッ素化合物は、ナトリウム(Na)と結合しているフッ化ナトリウムが主原料で、無機フッ素化合物となり、有機フッ素化合物とは区別されます。
前述の食品包材などに使われるフッ素化合物は、有機フッ素化合物にあたります。
有機フッ素化合物は化学構造上、炭素とフッ素が非常に強い力で結びついています。こうした炭素とフッ素の原子を持つ化合物のことを、PFAS(ピーファス)(Per and Poly fluoroalkyl substances)と言い、自然界では分解されず、海や土壌に堆積することで、循環系に長期間残存し続けることが分かっています。
フッ素化合物は、世の中に数千種類もあると言われています。それぞれが様々な機能を持っていて、熱に強い、水や油を弾く、燃えにくい、汚れを防止する等、私たちの暮らしの中で、便利に使われている物質でもあります。身近なところでは、フライパンの表面処理剤や、自動車のコーティング剤、消火器に含まれている消火剤などに使用されています。また、衣類等の織物製品、医療機器、半導体製造用製品、建築用製品、潤滑剤など、生活に関わる様々なところで使われています。
こうした機能の中で、食品包装にも、前述の通り、紙表面に塗工することで、油分を弾き、水蒸気は透過させる機能を持たせることが出来るわけです。
このように便利に使える化学物質ですが、PFASの中でも、代表的な化学化合物である、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)、PFOA(ペルフルオロオクタン酸)は幅広い用途で使用されてきました。また、PFOSよりもアルキル鎖が短いPFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)についてもPFOSと類似した性質を持つことから多く使用されてきました。
しかし、これら、PFOS、PFOA、PFHxSの3種類は、自然や人体の中で分解されにくい、体外に排出されにくい、健康に悪影響を与えやすいといった性質が指摘されています。
実際にどのような毒性があるかは未だはっきりした結果は出ていないようですが、欧米の調査研究結果では、(急性毒性、遺伝毒性(変異原)、発がん性、生殖発生毒性、その他の毒性)が示されていますので、国連の法令(PoP条約)では、2009年よりPFOSを規制、2019年よりPFOAを規制、2021年よりPFHxSを規制しています。
また、日本の法令(「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法))で、2010年にPFOSを規制、2021年よりPFOAを規制、2024年よりPFHxSを規制し、製造や製品への使用は禁止されています。
これら3種のPFASは、日本フルオロケミカルプロダクト協議会(FCJ)において「特定PFAS」と定義されています(図1)。
さて、数あるPFASの中で、上記3種については、健康上の問題も懸念され、製造・使用は禁止されていますが、それ以外の大部分のPFASは、私たちの暮らしや産業の様々な場面で、現在でも活用されています。炭素原子とフッ素原子の結びつきを持つPFASは、熱・薬品・紫外線に強い、水や油などの液体をはじく、粘着力が小さい、電気を通しにくい、光の屈折が少ないなどといった様々な性質をあわせ持ちます。
つまり、「フッ素系=悪」ではなく、日常生活の中で、フッ素化合物は無くてはならない化学物質だということは、理解しておかなければなりません。
但し、PFASは、化学的に極めて安定であることから自然界ではほとんど分解されず、分解されないため、廃棄されると長期間環境中に滞留することとなります。現在、明確な人体への影響などは報告されていないものの、生物への蓄積も確認されており、「君子危うきに近寄らず」ではありませんが、食品用途への使用は敬遠されることとなってきました(図2)。
2021年には、米国マクドナルドもいち早く、このPFAS使用を全世界的に禁止することとして、2025年末までに全世界の包装資材で、PFASを廃止すると宣言しました。
日本においても外食産業が、耐油性のある有機フッ素化合物の代替品を模索するようになってきました。
そこで登場したのが、非フッ素系で、同等程度の耐油性を持たせた食品用包装紙「O-hajiki CoC」(オハジキCoC)です。オイルを弾くことから、O-hajiki(オハジキ)と名付けられました(写真2)。
非フッ素系の耐油剤を用いた商品で、これまでの耐油紙同様の性能を保持し、リサイクル可能なFSC森林認証紙でもあります。
従来のPFASを使用した耐油紙と比べ、若干割高ではあるものの、世界的な脱フッ素化が加速する中、健康とコストとどちらを重視するかが問われます(写真3)。
紙離れが進む中ですが、紙で出来ることを追い求めていくことこそが、今後の紙の行く末を決める事かもしれません。
「O-hajiki CoC」についての詳細はこちら
https://www.heiwapaper.co.jp/products/details/0701370.html