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図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]109
ご依頼の本の修理作業記録 v.2

10月の記事からスタートしました「ご依頼の本の修理作業記録」の続きです。前回の記事は、作業開始の2025年9月28日(日)に行ったドライクリーニングについての作業記録でした。
詳しい内容は、京都大学図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]107ご依頼の本の修理作業記録 v.1をご覧ください。
各部分の修理前の破損した状態も、こちらの記事の写真からご覧ください。

今回は、10月19日(日)、11月2日(日)、11月30日(日)の3回にわたる作業の記録です。
前回、ドライクリーニングを終えた本は、裏表紙に向かって背が斜めにずれていることに気が付きました。ゆるみがあったのどまでしっかり開いてクリーニング作業を行ったことで、背の裏表紙よりの部分に負担がかかったようです。表紙側に向かってやさしく押した状態にして、白い紙と板で挟んで、重しを乗せて保管していました。
これから作業を進めるにあたり、小口のゆがみを少しでも軽減させた方がいいだろうということになり、背の天~地、表紙~裏表紙にかけての部分をよく観察してみると、元々整った丸背になっておらず、部分的に丸背のようになっていて、蒲鉾状になるはずのカーブが均一ではない状態のまま糊で強固にかためられていることが分かりました。そのような状態で小口を均一にするのは難しいのですが、構造上、背のカーブをある程度整えれば、小口も整うはずという考えで、できる限りのことを試してみました。実験しながらの手当です。
おかげで、丸背の小口をきれいなカーブに近づける(=背の形を整える)ための様々な方法を知ることができました。

今回の作業の順序を簡単にまとめました。

■今回の作業の流れ

小口を手で押すアプローチ。あまり変化がないので、そのままの状態で手当を進める。

開いた背に直接アプローチ。
都度小口側から直角定規を当てて、表紙裏表紙両方のチリの幅の違いを見る。
ある程度チリの幅が揃ったので、次の処置へ進む。

表紙と見返しののどのやぶれを補修する。のどのゆるみが締まって引っ張る力が発生することを期待して。
様子を見て、裏表紙側も同様に処置。

のどのやぶれの補修ができた表紙と見返しののどを和紙でさらに補修する。

続いて、詳しい処置について下記に記します。
どのやり方がうまくゆくのか試行錯誤、実験と本番の入り交じりとなったので、方法だけでなく、トライ&エラーもそのまま記したいと思います。

作業日:10月19日(日)

■背の矯正

10月19日(日)に巻いた包帯をほどく。本文の小口側のずれは少し和らいだように見えた。

写真1 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)チリの幅の違いを見る

写真2 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)包帯を巻く

写真3 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)全体に包帯を巻いてミイラ状態に

写真4 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)包帯を外した状態

・背を外す(裏表紙側のみ)
背のクロスは、部分的に表紙と繋がっている状態。その繋がっている部分にコビトーを入れて、背と裏表紙との接続部分を切り離す。天地にある背のクロスの折り返し部分もコビトーを入れて、背の片側(裏表紙側)を完全に切り離す。
背を開くことで、寒冷紗が貼られた本文の背は、膠と思われるもので非常に硬く固められていること。また、背のカーブが均一でなく表紙側に向かって盛り上がっていることが確認できる。
これが、表紙にはチリがなく、裏表紙には大きなチリができていた理由であると分かる。

写真5 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)コビトーで背を外す

写真6 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)背クロスの折り返しも切り離す

・背の膠を温めて柔らかくする
クロスの背を開いた本文の背(膠の塗られている部分)全体にラップをかぶせ、ホットタオルを乗せて、数分待つ。
全体がほんのりあたたかくなったら、マルトーで優しく背をたたきながら、小口を手でならす。
小口のチリの幅を確認すると、少しだけ動いて、表紙、裏表紙共にチリの幅は近くなったように見えるが完全ではない。
表紙と見返しをつなぐのどがゆるんでいることで、少し油断するとまたずれることが分かったので、そのゆるみを軽減させる処置へ。
背の膠を温める際、初めに、背の一部分にのみ生麩糊を塗った上にラップをかぶせ、その上にホットタオルを置いてテストをしてみたが、数分待って、その部分をラップの上から指で少し押してみても、膠部分は硬いままであまり効果が見られなかった経緯があり、生麩糊は乗せず、直接背にラップをかぶせて膠に熱が伝わりやすくした。

写真7 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)背にラップを乗せる

写真8 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真8)ラップの上からホットタオルを乗せる

■表紙裏~見返しののどのやぶれ補修

・のどのやぶれ補修
表紙~見返しののどのゆるみは、表紙裏から続く見返しののどの部分がやぶれていることで、のどの幅が広くなってしまっていることが原因。背と表紙をつなぐ寒冷紗が見えている部分もあった。この部分をつないで、のどの遊びを狭める処置を行う。
生麩糊:ボンド=1:1の割合で糊ボンドを作る。
糊ボンドでやぶれた紙を補修し、寒冷紗の見えている部分をふさぐように小筆で糊ボンドをぬり、ヘラで表紙側の見返し用紙と見返しをつなぎ合わせる。
初め、生麩糊だけで進めるが、見返し紙のやぶれた部分はのどの折り目に当たるため、立ち上がった状態の反りが治まってくれず、乾きが早く力のあるボンドを生麩糊に混ぜることにした。

写真9 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真9)小口を手で整形する

写真10 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真10)温めた背をマルトーでやさしくたたいて整形する

写真11 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真11)小口を揃えてチリの幅を合わせる

写真12 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真12)生麩糊とボンドを混ぜて作る糊ボンド

写真13 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真13)表紙裏のどの糊ボンドでの補修

・エトーに挟む
エトーに挟むために補修した部分に保護紙などを挟む。
折ったオーブンペーパーの折り山をのど側にし、間に薄いプラスチックボードを挟み、その上に、表紙裏を保護するために白い紙を挟む。反対側の裏表紙のどにも同じ厚さのプラスチックボードを挟んで本を閉じ、表紙側裏表紙側それぞれに白い紙を当ててから、全体を板で挟み、エトーでプレスする。
まずは10カウントして、一旦エトーから出し、補修した部分の様子を見る。
剥がれたりしていたら、再度同じように補修し、新しい保護紙に挟み替え、再びエトーで挟む。
20~30分後に様子を見る。やぶれがしっかり繋がっていることが確認できたら、新しい保護紙に挟み替え、重しをして保管。

写真14 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真14)表紙裏のどの破れを補修しエトーで10カウントした後

写真15 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真15)裏表紙側ものどの補修をして保護紙をセット

写真16 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真16)エトーでプレスする

写真1 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)チリの幅の違いを見る

写真2 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)包帯を巻く

写真3 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)全体に包帯を巻いてミイラ状態に

写真4 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)包帯を外した状態

写真5 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)コビトーで背を外す

写真6 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)背クロスの折り返しも切り離す

写真7 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)背にラップを乗せる

写真8 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真8)ラップの上からホットタオルを乗せる

写真9 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真9)小口を手で整形する

写真10 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真10)温めた背をマルトーでやさしくたたいて整形する

写真11 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真11)小口を揃えてチリの幅を合わせる

写真12 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真12)生麩糊とボンドを混ぜて作る糊ボンド

写真13 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真13)表紙裏のどの糊ボンドでの補修

写真14 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真14)表紙裏のどの破れを補修しエトーで10カウントした後

写真15 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真15)裏表紙側ものどの補修をして保護紙をセット

写真16 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真16)エトーでプレスする

11月30日(日)

■裏表紙裏~見返しののどのやぶれ補修

11月2日(日)の「表紙裏~見返しののどのやぶれ補修」と同様に行った。

■表紙裏~のどの和紙での補修

11月2日(日)に補修した表紙裏ののどを補強するために、短冊状の和紙を上から貼り付ける。
0.1mm前後の厚みで、見返し用紙に近い色の和紙を30mmの幅で切り出す。
和紙の長さは、貼り付ける箇所の見返しより上下各5mmほど長めにした。
切り出す寸法を測り、和紙にヘラを当てて印をつけておき、その上を水筆でなぞり、濡れた部分が乾かないうちに手で裂いて、喰い裂きを出しながら切ることが大事。
裏面(若干ざらつきのある面)に水で薄めた生麩糊を筆で中央から速やかに全体に塗り、和紙をのどに置く。
この時、表紙ボードの立ち上がりを考慮して、表紙裏側に半分より少し多めに幅を取って置く。
細かい部分は、グラシン紙を置いて上からヘラでこすり圧着させる。グラシン紙をはがし、和紙が細かい部分にしっかり着いたことが確認できたら、エトーに挟む。
先述の「表紙裏~見返しののどのやぶれ補修」の「・エトーに挟む」と同じように、プラスチックボードを折ったオーブンペーパーで挟んで、のどの奥にオーブンペーパーの折り山がしっかりと当たるようにして挟む。表紙裏の保護に挟んだ白い紙は、和紙にくっついてしまうので、ここでは挟まない。
裏表紙ののどにもプラスチックボードを挟んで、本全体の厚みを合わせ、白い紙と、さらに古新聞を表紙側裏表紙側に各1部ずつ、クッションになるように当てて、その上から全体を板で挟んだ状態で、エトーへ。
ここでも10カウントで、一旦エトーから取り出し、様子を見る。
和紙が均等についていたので、再度エトーに入れて10~20分待つ。
再び様子を見て、問題がないようだったので、もう一度エトーへ。これで一昼夜置く。

写真17 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真17)エトーから出して補修ができていることを確認

写真18 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真18)のどを補強するための和紙を切り出す

写真19 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真19)和紙に糊を塗る

写真20 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真20)表紙のどに和紙を貼る

写真21 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真21)和紙を圧着させて余分な糊を不織布で取り除く

写真22 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真22)オーブンペーパーとプラスチックボードを挟んでエトーへ

写真23 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真23)エトーから出して表紙のどの和紙での補強を確認

写真24 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真24)ストレッチ素材でない包帯

前半の背と小口のカーブを整える作業では、私たちが四苦八苦しながら、知恵を出し合い、取り組んだ様子が、みなさんに伝わるのではないか思います。一朝一夕にはできないと分かった背と小口の矯正の後ののどの補修の工程では、まるで何も貼っていないかのように美しく馴染んだ和紙を目にし、あー、よかった!と思わずメンバー一同声が漏れ出るほど安堵しました。
ぼちぼちのペースですが、とにかく丁寧に進めたいと思います。
次回は、裏表紙ののどを和紙で補修し、背を戻してゆく作業に進む予定です。

写真17 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真17)エトーから出して補修ができていることを確認

写真18 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真18)のどを補強するための和紙を切り出す

写真19 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真19)和紙に糊を塗る

写真20 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真20)表紙のどに和紙を貼る

写真21 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真21)和紙を圧着させて余分な糊を不織布で取り除く

写真22 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真22)オーブンペーパーとプラスチックボードを挟んでエトーへ

写真23 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真23)エトーから出して表紙のどの和紙での補強を確認

写真24 | ご依頼の本の修理作業記録 v.2 - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真24)ストレッチ素材でない包帯

~ 道具のお話 ~

・エトー

これまでの記事でも度々登場した”エトー”という言葉。
もちろん製本、特にヨーロッパの工芸製本ルリュールのための機材の名称なのですが、きちんと説明をしたことがありませんでした。

今回は、糊を使ったり、整形をした後に、その形を固定するためのプレスの役目を果たしています。通常はプレスを使用するような作業でしたが、修理する本が大きく、アトリエにあるプレスではサイズが合わなかったことで、エトーを使いました。

木枠の台の上にプレスが乗せられた形状で、その上部のハンドルが付いたプレス部分を倒してセットすれば、プレス部分に取り付けられている金属製のレールを使って、丸み出し、耳出しの作業が行え、立ててセットすれば、今回のようにプレスとしても使用できるとても便利な機材です。

しかし、日本ではあまり見かけません。当アトリエのものも、製本家山野上禮子アトリエから譲り受けたもので、山野上禮子氏がベルギー留学時かその後に訪れたフランスかで入手したものだと言われています。

・包帯

処置した本を固定しておくため、包帯を本全体ミイラ状に巻きます。特に小口~背の横の固定の際に効果的です。

結び目を作ってしまうと、結び目のこぶが本に影響するので、結び目は作らずにしっかりと巻くのですが、これがなかなか難しいのです。

そして、適した包帯を探すのもまた難しいと感じています。ドラッグストアで最近販売されているようなものは、ゴムが織り込まれてストレッチ素材になっているものが多いようです。本を固定するのに使用する包帯は、伸び縮みしない綿、麻、ウールなどの天然素材が適しています。そのため幅広や重みのある大きな本には晒を使うことも。
包帯ではない幅の広い綿テープのようなものも使いやすい印象ですが、なかなか売っていません。今回使用したものもまた、山野上禮子アトリエから譲り受けたものです。

あとりえ二頁
永田 千晃