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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]87
資料保存ワークショップ番外編「修理の日」
画集の修理の記録 Vol. 9

図書館員による実験的本の修理の連続記録です。
2023年11月、12月は修理の日はお休みし、しばらくぶりの資料保存ワークショップ番外編「修理の日」は年明けからの再開でした。
2024年1月13日(土)と2月10日(土)の2日に渡る記録です。

前回2023年9月9日(土)と10月7日(土)の2日に渡り、かがり台を使って綴じ直しの作業を続けました。
2024年1月13日(土)は、かがり台で綴じる作業は初体験という新しいメンバーと共に、かがり台で綴じる、糸を継ぎ足す、を1セットとして、交代しながら作業を進め、残り10丁ほどを私の宿題としました。
2月10日(土)の「修理の日」の前日夜に慌てて宿題に取り掛かる私。小中学生の時は、夏休みの宿題ははじめの1週間くらいでさっさと終わらせるタイプだったはずなのに、いつからこうなったのでしょう。
お蔭で糸の継ぎ方も慣れました。
慣れましたが、継ぐ回数を減らしたい思いで、はじめに長めに糸を取ると、長い糸をもつれないように気を付けながら扱うこと、ねじれをほどく作業、穴に通す時に紙との摩擦で糸が弱ることが増え、継ぐ際に切れてしまうことも何度もあり、そしていよいよ最後の丁、表紙の最後の綴じ穴目前というところで、また糸が足らなくなって糸継ぎをするなど、結局遠回り。細い糸の扱いに苦労しました。
人生もこういうことあるな、楽はできないものだ。とこんなところでも感じることになりました。

ここからは、2024年2月10日(土)の作業を記します。
この日の「修理の日」は。最後のケトルステッチを行うところからスタートしました。
ケトルステッチの後は、綴じ糸がほどけないように始末をし、かがり台から外し、背固めをするところまでです。
作業の詳細をご紹介します。

■綴じ糸の始末

1. 最後の丁の最後の綴じ穴「シェネット」から糸を出しケトルステッチをしたら、下へ2,3丁分、それぞれのケトルステッチにさらに糸をひっかけるようにし、今度はまた一番上の丁に向かって、ひっかけながら戻る。(写真1)

(写真1) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)綴じ糸の始末_ケトルステッチをひかっけて最後のシェネットに針を通す

2. 最後の丁の最後の綴じ穴「シェネット」(ここでは表紙の天に近い穴。前回グレッケして作った穴。)に外側からもう一度針を通し、内側(丁ののど側)に引き抜く。
充分に糸を引いて、本文紙の端(ここでは天に当たる。)に合わせて糸を切る。(写真2)

(写真2) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)綴じ糸の始末_表紙の端の位置で糸を切る

3. 切った糸は、竹ひごで糊(ここでは光沢のある本文紙だったので、生麩糊ではなくビニール糊を使用)を付けて、本文紙ののどの折り目の部分に添わせるようにして貼り付ける。表紙を綴じて上からぐっと抑える。(写真3)

(写真3) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)綴じ糸の始末_糸をのどに貼り付ける

■背固め

1. かがり台から支持体をほどいて、綴じ終えた本文を外す。(写真4、5)

(写真4) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)かがり台から外す1

(写真5) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)かがり台から外す2

2. 長い支持体は、片側ずつ片手でまとめて握れるくらいの長さに切っておくとよい。

3. 表紙側、裏表紙側、両方の支持体をまとめて片手でそれぞれ握り持ち、平らな台(ここでは金属製の頑丈な作業台)の上で背を叩いて、平らにならす。ここで、表紙の背幅に収まるかどうか、寸法を測ったり、実際に表紙に当てて確認をしておく。

4. 台の上に、汚れてもよい捨て紙を敷き、3.で整えた背が台に対して90度の角度になるようにして置く。

5. 膠を用意し、刷毛で4.の背の中央から上、下へと速やかにまんべんなく膠を塗り込む。(写真6)

(写真6) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)背固め_膠を塗る

6. 刷毛で背の全体に膠が塗れたら、乾ききらないうちに、マルトーでこすりつけるようにして馴染ませる。(写真7)

(写真7) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)背固め_マルト―で整える

※ 5.~6.の作業は、上下ひっくり返しては行わない。4で行った90度の角度が乱れてしまうので。

(写真8) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真8)背固め_乾燥中

メンバー複数人で交代して綴じた本文。ところどころ糸のテンションも微妙に違うようにも見えます。綴じ直した後に元の背表紙の幅に収まるか、事前に寸法を十分図り、計算上は可能であったとしても、人の手による仕事です。かがり台から外し、綴じ終えた本文の幅を測る時は、ドキドキしました。
何とか収まりそうで一安心です。

次回以降は、背固めした背に寒冷紗を貼り、表紙、裏表紙に貼り付いた色見返しの下に、本文の支持体と寒冷紗を入れ込む作業へと進みます。
これができれば、ほぼ完成。
ゴールが少しずつ見えてきました!

※ここでご紹介することは、図書館の現場で行うのに適した修理方法では無いかもしれません。
使用した洗剤や薬品を含んだ材料が経年で本自体にどのような影響を及ぼすかは正直予測できません。
そんな方法もあるのか~といった感覚でご覧ください!とお伝えしておきます。
修理の依頼者には承諾を得た上で実験させてもらっています。

これまでの記録はこちら。

・Vol. 1
2022年6月4日(土)
本文と表紙を外し、本文の綴じ糸を切り、全ページをばらしてクリーニング。
https://letterpresslabo.com/2022/06/15/kulpcws-column67/

・Vol. 2
2022年7月2日(土)
弱アルカリ性のお掃除シートと弱アルカリ性洗剤(希釈)を使った表紙クロスの汚れ落とし比較。
https://letterpresslabo.com/2022/08/15/kulpcws-column69/

・Vol. 3
2022年11月5日(土)
塩素系漂白剤を使った画集の表紙についたカビやフォクシングと思われるシミの部分的漂白実験。
https://letterpresslabo.com/2022/12/15/kulpcws-column73/

・Vol. 4
2023年1月7日(土), 2月4日(土)
Vol. 3の実験を活かして本番!塩素系漂白剤を使った画集表紙裏表紙のクロス漂白とリンス
https://letterpresslabo.com/2023/02/15/kulpcws-column75/

・Vol. 5
2023年4月1日(土)
印字のある背表紙クロスの漂白
https://letterpresslabo.com/2023/04/15/kulpcws-column77/

・Vol.6
2023年5月6日(土)
元の表紙に収まるか?綴じ直しの綴じ方と使用する糸の寸法確認
https://letterpresslabo.com/2023/06/15/kulpcws-column79/

・Vol.7
2023年7月15日(土)
背表紙内側に着いた寒冷紗?とそこについた硬化したボンドの掃除とその道具について
https://letterpresslabo.com/2023/08/15/kulpcws-column81/

・Vol. 8
2023年9月9日(土)と10月7日(土)
かがり台を使って綴じる!
https://letterpresslabo.com/2023/10/15/kulpcws-column83/

(写真1) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)綴じ糸の始末_ケトルステッチをひかっけて最後のシェネットに針を通す

(写真2) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)綴じ糸の始末_表紙の端の位置で糸を切る

(写真3) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)綴じ糸の始末_糸をのどに貼り付ける

(写真4) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)かがり台から外す1

(写真5) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)かがり台から外す2

(写真6) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真6)背固め_膠を塗る

(写真7) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真7)背固め_マルト―で整える

(写真8) | 資料保存ワークショップ番外編「修理の日」 画集の修理の記録 Vol. 9 - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真8)背固め_乾燥中

ここで一つお伝えさせてください。
2024年元日の能登半島地震で被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。
また、現場で日々復旧作業に当たられている職員、ボランティアの皆様方には敬意を表します。
一刻も早く元の生活に戻れるよう祈るばかりです。
人の命と生活が最優先ではありますが、そんな中、もし歴史的資料に相当するのではないかと思われるような被災した資料、文書、写真、襖、過去帳、地域の記録集などにお気づきになられましたら、歴史資料ネットワークさんはじめとする機関にご相談されてみてください。
塩水や泥に浸かっていても、焼損していても、ある程度修復が可能なものもあります。
地域歴史遺産として、後世に受け継がれるべき価値のあるものかもしれません。
歴史資料ネットワークさんのページをご参考になさってください。

・緊急事務局体制に移行します(令和6年能登半島地震 1月8日より)
https://siryo-net.jp/info/202401-info2/

歴史資料ネット―ワークさんについては、このWEB MAGAZINEの過去の記事もご覧頂けると幸いです。

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[図書館に修復室をツクろう!]85
歴史資料ネットワーク「被災資料の取り扱いを学ぶー災害時の初動から保全までー」全4回ワークショップに参加してきました!
https://letterpresslabo.com/2023/12/15/kulpcws-column85/