図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]111
ご依頼の本の修理作業記録 v.3
10月の記事からスタートしました「ご依頼の本の修理作業記録」の続きです。前回の記事は10月19日(日)、11月2日(日)、11月30日(日)の3回で行った見返しののどの補修の作業記録でした。
詳しい内容は、図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]109 ご依頼の本の修理作業記録 v. 2をご覧ください。
今回は、2025年12月14日(日)、12月20日(土)、2026年1月11日(日)の3回にわたる作業の記録です。
前回は、表紙裏~のどにかけての部分を短冊状に切った和紙を糊で貼り付けて補修し、エトーでプレスしたところまででした。
3回分の作業の流れに続いて、作業日ごとに詳しい処置について記しています。
■今回の作業の流れ
裏表紙裏~のどにかけて、前回の表紙裏~のどと同様に、短冊状に切った和紙で補修。
↓
背を切り離し、花布も外し、背を整えてから、新しい花布を貼り、クータを付ける。
↓
表紙、背、裏表紙をつなぐ色和紙を貼る。
作業日:2025年12月14日(日)
■裏表紙裏~のどの和紙での補修
11月30日(日)の「■表紙裏~のどの和紙での補修」と同様に行った。
切り出しておいた見返し用紙に近い色の和紙(厚み0.1mm前後、幅30mm、長さは、貼り付ける箇所の見返しより上下各5mmほど長め)を使用。
和紙の裏面(若干ざらつきのある面)に水で薄めた生麩糊を塗って貼る。
細かな作業方法は、11月30日(日)の「■表紙裏~のどの和紙での補修」を参照。
エトーに挟んで乾かす。

(写真1)裏表紙ののどに和紙を貼る
作業日:2025年12月20日(土)
■背を整える
・背を外す
裏表紙側との接続部分だけ先に切り離していた状態だった背。表紙側との接続部分にハサミを入れて完全に切り離す。

(写真2)背を外す
・花布を剥がして背を整える
ほつれてしまっていた花布を天地共に剥がす。
みぞの部分に折り込まれて背側に出てきている見返しと思われる紙を、のど側に影響がないことを確認してハサミで切り取る。
コビトーを使って、余計な膠の固まりをならして背の形を整える。この時、綴じ糸などを切らないように注意する。

(写真3)花布を外す

(写真4)余分に出てしまった折れた見返しを切る
■花布を作る
花布には和紙を使用することにした。
バトネ(花布の芯)と和紙を用意。
和紙の大きさは、幅は背幅、長さは25~30mmで天地分として2枚切り出す。
和紙の裏側に、糊ボンド(1:1の割合)を塗る。上から10mm、下から15mmくらいの位置にバトネを横向きに置き、バトネを芯にして和紙を折る。バトネの膨らみが上になるように和紙で包む。
バトネが包まれた部分を上辺として、和紙が折り重ねられ一部二重になった長さ15mmくらいの部分にさらに糊ボンドを塗り、背に貼り付ける。バトネのでっぱった部分を背の天地に引っ掛けるように配置する。
この時、和紙の表側は背の外側に見える状態になっている。
天地それぞれ同じ作業を行う。
貼り付けてみて、花布が背幅より長ければハサミで余分な部分を切ること。

(写真5)和紙で花布を作る

(写真6)花布を背に貼りつけた様子
【参考】花布について触れた過去記事
図書館資料保存ワークショップ[図書館に修復室をツクろう!]91
資料保存ワークショップ番外編「修理の日」画集の修理の記録 Vol. 11
■クータをつける
背の長さより少し長め、幅は本文背幅の3倍になるように薄い和紙を切る。
本の中の部分に使用するので、喰い裂きは不要。カッターで切り出す。
縦に三等分になるよう折る。両端の2辺を生麩糊で貼り合わせる。
筒状にするので、細いオーブンペーパーを挟んでおくと、和紙に糊が浸み込んで下の和紙とくっつかずに空洞にしやすい。
本文本体は、手締めプレスに挟んで背を上に向けた状態にしておく。その背に糊ボンド(1:1の割合)を塗る。先ほど作ったクータの和紙が1枚になっている面を背に乗せて貼り付ける。

(写真7)クータを作る

(写真8)背にクータを貼り付けた様子
【参考】クータについての過去記事
作業日:2026年1月11日(日)
■クータを整える
クータが機能しているかどうか、本を立てて頁をのどまで開いて、背に貼ったクータが筒状に開くか確認する。
天地に余分に出ているクータをハサミで背の長さのところで切っておく。
■表紙、背、裏表紙をつなぐ色和紙を貼る
・切り出す色和紙の寸法を測る
本が大きいので、和紙は予め裏打ちされた分厚いものを使用。厚さは、0.15~0.2mmほどのもの。表紙にも貼り付けるので、表紙に似た色のものを選ぶ。
A. 背幅(表紙側のみぞ~裏表紙側のみぞまで)は、紙定規を当てて長さを測る。
B. 表紙、裏表紙に出す幅は、各15mm程度が一般的なようだが、この本には表紙のその部分に白い線状の模様が入っているので、その模様にかからない手前のところまでと決め、そこまでの長さを測った。
C. 長さは、表紙ボードの天~地までにする。背は表紙ボードの天地のチリの幅分短い状態であるため。
→ 切り出す和紙の寸法: 幅:A+B , 長さ:C
切り出した色和紙の切り口は、裏側にペーパーを当てて少し削り落としておく。表紙、裏表紙に貼り付けた際に段差ができないようにするため。
切り出した色和紙の裏面に鉛筆で、幅の中央と背にあたる部分の印をつける。

(写真9)色和紙の切り口をペーパーで削る
・補強のため背にチリ幅の大きさの芯をつける
上記の色和紙の上から、切り離したクロスの背を貼り付けるのだが、背のチリの部分を補える強度にするにはそれだけでは厚さが足らないと判断した。
背のチリに当たる部分の大きさに同じ色和紙を切り出し、上記の和紙の裏側に貼り付け、芯にした。

(写真10)チリの大きさの芯を色和紙の背の天地に当たる部分に貼り付ける
・色和紙を貼り付ける
芯を貼り付けた色和紙の裏面、鉛筆で印をつけた背の部分に生麩糊をたっぷり塗る。
表紙側に貼り付ける部分などに糊がはみ出さないように、養生用に当て紙をしておく。
手締めプレスに挟んで背を上にした状態の本文本体の背に色和紙を乗せ、始めは手でなでる。続いて、グラシン紙を乗せて上からヘラで圧着させる。
乾いたら、手締めプレスから本文本体を外し、天地に出ている色和紙を背幅のところに、天地から2~3mmを残して、ハサミで切り込みを入れる。
表紙側の色和紙の裏側にも生麩糊を塗って、表紙に貼り付ける。表紙に糊が付かないように当て紙を添えて行う。裏表紙も同様に行う。貼り付け方は、背の時と同様に。
みぞの部分にも色和紙がしっかり入り込むように念入りに行う。
背を下にして、先ほど切り込みを入れた天地の部分の色和紙にも生麩糊を塗り、背の内側に折り込み入れる。非常に狭い部分に和紙を入れ込む作業なので、大小のスパチュラを使い分けて慎重に行った。同時に色和紙の表紙裏、裏表紙裏に貼りつける部分も曲がってくるので、背、表紙裏、裏表紙裏と同時進行で進める。
切り込みが浅いと、突っ張って色和紙がつれて皺(しわ)になってくるので、様子を見ながら、切り込みを少しずつ深めてもよい。
背に折り込んだ色和紙の高さと、表紙、裏表紙の高さとが揃う位置にする。
のどを補修した際の和紙が余分に出ているところを切り取って、天地の色和紙の皺(しわ)を伸ばした。

(写真11)色和紙を背に貼り付ける

(写真12)背に貼り付けられた色和紙

(写真13)背に折り込む部分に切り込みを入れる

(写真14)表紙側に貼る色和紙に糊を塗る前, 表紙に糊が付かないように当て紙を準備

(写真15)みぞの部分もしっかり貼り付くように念入りに

(写真16)背の穴に色和紙を折り込む

(写真17)表紙裏側にも色和紙を貼り付ける

(写真18)写真17で貼り付けた後の様子

(写真19)写真16~18の作業完了の様子
最後の、天地の色和紙を狭い背の穴に折り込み入れながら、表紙裏、裏表紙裏にも色和紙を同時に引っ張り、貼り付けるという作業は、糊が乾いてしまうと修正ができなくなることも重なって、とても難しかったです。写真には、いつもながら複数人の手が写っています。角度をつけて、引っ張ってもらっている間に、別の手で糊を入れて、スパチュラで押し込んで、その間、また別の人の手で全体を支えてもらって・・・と言った具合で、少々大げさですが、さながら外科手術のオペの現場のよう。1冊の本を治すのに同時に複数人が取り掛かれる環境は、あとりえ二頁ならではではないでしょうか。お一人で活動されている工房や作家さんなどは、どのように作業をされているのだろう、と思ってしまいました。
道具の話で言えば、スパチュラもハサミも、先が細い小さなものがとても役立つと実感した工程でした。
花布づくりの参考に上げた過去の記事でも触れましたが、ちらりと見える花布の色や模様に私はとても惹かれます。今回の花布も、本体の深い紺色に対して、橙色に近い明るい茶色の和紙がのぞく姿がいい雰囲気になったのではと感じています。しぼのついた厚めの明るい光沢のある和紙は、糊を付けて何度ヘラでこすっても毛羽立たず、光沢が増して革のようにも見えました。和紙の不思議をまた感じました。元の花布は、表紙に合わせた青と白の縞模様。依頼者さんから本をお預かりした際、ほつれが多いので花布を付け替えることになると思うけれど、元のものと近い雰囲気にした方がよいでしょうか?とお尋ねしたら、変えてもらってもいいとのことでした。気に入ってもらえるといいなと思います。
■ここまでの過去の作業記録
・図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]107ご依頼の本の修理作業記録 v.1
・図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]109ご依頼の本の修理作業記録 v.2
あとりえ二頁
永田 千晃

