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京都大学図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]⑳
クータって知ってますか?

図書館の修理本でよくある破損パターンの中に背表紙の外れがあります。
こんな感じです。(写真1)

(写真1) | クータ って知ってますか? - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)

頻繁に閲覧された図書は、背と表紙をつなぐ部分の度重なる開閉から、その部分が弱り、切れてくるのです。
本文自体はしっかりしていても、これでは背表紙の情報が分かりません。
図書館の本は特に書架に配架された状態だと背表紙の情報は探している図書を見つけてもらうために特に重要です。
原物の背表紙記載のシリーズ名とか、タイトルだとか、著者だとかの情報ももちろん大事ですが、図書館を利用された人はご存知だと思いますが、図書館所蔵の本たちには請求記号の印字されたシールを背に貼ることが多いのです。
これは図書の内容をある規則に基づいて分類した番号などを表しています。
そして、その順番に図書館の本は並べられているのです。
その請求記号が貼られた背表紙が外れたら・・・
大変ですよね。

というわけで、直しましょう!

(写真1) | クータ って知ってますか? - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)

背の形も様々ですが、背表紙の外れた図書は本文の綴じられた部分や、無線綴じであれば糊で固められた部分、またはそれらを保護する紙が貼られた状態になっています。
糊ならできる限りこそぎ取ります。紙なら状態が良ければそのまま使いますがその紙も破損していれば外します。その下から糊の部分が出てきたら、カッターの刃の折り面などを使って、やはりできる限りこそぎ取ります。
こうすることで修理の際に新たに付ける糊の定着が良く、もちもよくなります。

そして、クータを作ります。
へ?
クータです。
なんでしょうか、男の子のお名前みたいですね。
そうですね。

クータは、本の背表紙の破損を修理し、強化する修理材料の一つです。(写真2,3,4)
厚めの和紙など中性紙を、縦:修理本の背の高さ × 横:修理本の背の幅の3倍 で切ったものを背の幅に合わせ3つ折りにし、重なる両端の2面を糊付けして作る、紙の管状のもので、名前の由来は諸説あり、管状だから、管(くだ)から来ている? 空帯(くうたい)中が空洞で帯状だから?
など意見は様々。

(写真2) | クータ って知ってますか? - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)

(写真3) | クータ って知ってますか? - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真3)

(写真4) | クータ って知ってますか? - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真4)

一番腑に落ちたのは、「いつも、いろいろ参考にさせていただいている 書物の歴史と保存修復に関する研究会さんのレポートのなかに、こんな風に書かれていました。
『[渋谷分泉閣]の渋谷氏に伺ったところ、関東の職人たちが使っていた「空袋(くうたい)」という言葉がなまって「クータ」になったのではないか』ということであった。」
とは、私たち資料保存WSのブログ【図書館資料保存ワークショップ】の2010年4月21日の記事に書かれていた説。
手前味噌ですが、先輩方はきちんと文字で残してくださっていたことに頭が下がります。
その響きやカタカナ綴りから、一見、由来は日本語ではないだろうと思いきや、べたべたな日本語だったようです。

私たちはとにかく「クータ」とか「クータ―」とか呼んでます。

そのクータをきれいに掃除した背に糊で貼り付けます。(写真5)
この時の糊は、修理本の大きさや紙の種類にもよりますが、強くついてくれるビニール糊(糊については、⑰「本の修理に使う道具のお話:糊について」や ⑲「早期発見! 早期治療!」を参考にご覧ください。)を使うことがオススメです。

(写真5) | クータ って知ってますか? - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真5)

その糊が乾いたらクータがちゃんと空洞のままになっているか、糊がはみ出て中までくっついていないか、本を開けて確認しましょう!
OKですかね。
そしたら、クータの外側にもビニール糊を付け、外れた背を張り付けます。(写真5)
背はオーブンペーパーのつるっとした面を修理箇所側にして上からヘラなどでしっかりこすって圧着。
背と表紙をつなぐ細かな角の部分もきちんとヘラでこすって密着させてくださいね。

そんなお仕事をしてくれる、クータ。
実は、本の本体側に貼るのはクータの一重の側か、二重の側か、一体全体どっちなんだ!?
と私たちの間でいつも迷いが生じ、話題になるんです。

以前にもこのWEBMAGAZINEで取り上げさせてもらった国会図書館さんの資料保存研修テキストでは一重側、図書館の資料保存の現場でよく使われている日本図書館協会から出版の「防ぐ技術・治す技術 : 紙資料保存マニュアル」のp69でも一重側、とされているのですが、二重側派のマニュアルも見かけることしばしば。
何となく、丈夫そうな二重側を本体に張り付けるんだよね~、って感覚で覚えてしまいがちなので、いつも議論になるのですが、結局最近の私たちは、前述の参考文献を優先し、一重側を本体背に貼りつけています。

なぜ一重側が本体なのか、紙が2枚重なっているということは、重なっていれば丈夫だけど、剥がれる可能性もある、と思うと、本文側にその面がつけられた場合、本文の破損につながるのかも、というのが、私の感覚による理解です。
では、そうではないとされているところは?
どう思われるかは、修理をたくさん経験すると分かるのかも。
迷いがあるということは・・・まだまだですね、引き続き、精進致します。

資料保存WS
小梅

(写真2) | クータ って知ってますか? - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)

(写真3) | クータ って知ってますか? - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

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(写真4) | クータ って知ってますか? - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

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(写真5) | クータ って知ってますか? - 京都大学図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

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