紙ノ余白
三椏の話
梅が華やかなこの時期、同じく満開なのは三椏の花です。
生花の花材としても用いられるので、ご覧になったことがある方もおられると思います。
名前の由来でもあって、とてもユニークなのが、枝分かれが必ず「三つ」という特徴です。
三又または三股とも書かれることがあります。
葉より先に沈丁花とよく似た黄色い花が咲き、良い香りがします。
この時期、庭先や街路樹の中で通りすがりに見かけますが、私はどうしても花より皮に目が向いてしまいます。
良い皮が取れそうだな・・・と。
紙幣の原料として有名な三椏ですが、和紙原料として明記されて文献に登場するのは江戸時代16世紀のことで、楮や雁皮の歴史から遅れること、おおよそ1000年ということになります。
万葉集の柿本人麻呂の歌に「三枝(さきくさ)」と呼ばれて、植物としては歌われているのですが、樹皮が紙に用いられたという記録がないというのが、三椏の不思議の一つです。
四国、中国地方が主な生産地ですが、寒さにも強いので、昨年訪れた長野でも畑に植えられていました。
同じ株から毎年刈り取る楮と違って、三椏は2~5年成長してから刈り取ります。
花に華やかな存在感があるだけに、根元から刈り取る時、「ごめんね」となんとなく呟いてしまいます。
蒸す時にイチジクのような爽やかな香りがするので、あ、釜に三椏が入ったなとすぐ分かります。
三椏の皮を剥ぐ時は大人でも少しばかりテンションが上がるものです。
枝分かれが三つ、その先もまた三つとなると、スルスル剥けず皮が引っかかってしまうので、一人が芯を持ち、もう一人別の人が皮を持って綱引きをするように引っ張り合います。
大木の時は、数人がかりになります。
一見まるで、木から洋服を脱がせているような様子です。
木がらもまた独特なので、よくご存知の方は皮剥ぎのシーズンに、花材やお飾り用にとお気に入りの枝を選びに来られます。
樹木としても、花としても、和紙の原料としても余すところなく全て人の暮らしに寄り添う木です。
街中で見かけると、古い知り合いに出会ったような気持ちになり、嬉しくなります。