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白須美紀
【活版クリエイター紹介 vol.7】
つくる楽しさと、人の輪が生まれる場所をつくる
echos(エコース)

【活版クリエイター紹介 vol.7】つくる楽しさと、人の輪が生まれる場所をつくる|echos(エコース) | 白須美紀 | 活版印刷研究所

「刷ってみたい」がかなうワークスペース

意匠を凝らし、ていねいに刷られたプロダクトは見ているだけで嬉しくなるものだが、それを生み出すレトロな印刷機もまた、活版印刷の大きな魅力だ。
ハイデルやチャンドラーといった本格的なマシンの存在感には惚れ惚れとしてしまうし、テキンと呼ばれる手動の印刷機は形も愛らしく胸がときめく。1枚1枚を自分の手で刷る様子は何とも楽しそうで、見ているうちに「自分で刷ってみたい!」と思ってしまうほどだ。

この秋、そんな願いを叶えてくれるワークスペースが大阪の堺筋本町に誕生した。
その名を「echos (エコース)」。古くからステーショナリーの卸を商うSHINSO CO., LTD.が自社ビルを改装してつくりあげた空間で、訪れた客はそこにある機械を借りて自由に印刷ができる。

【活版クリエイター紹介 vol.7】つくる楽しさと、人の輪が生まれる場所をつくる|echos(エコース) | 白須美紀 | 活版印刷研究所

ワークスペースはセンスよく設えられており、棚にはテキンが4台並ぶ。他に、シルクスクリーン製版機と箔押し機もあるという。さらに目を引くのは、モーターの力を借りながら手動でローラーを転がして印刷をする半自動のヴァンダークック(VANDERCOOK)というマシンだ。
「もともとは校正刷りをするために作られたもので、70年前の機械なんです。これに出会い惚れ込んでしまったのが、活版印刷のワークスペースをやろうと思ったきっかけでした。活版印刷でものづくりされている先輩に助けていただいて、アメリカから輸入したんですよ」。
と、大きなマシンを動かしながら話すのは、店主の沖那菜子さん。亡くなった祖父が創業したSHINSO CO., LTD.を母とともに切り盛りしながら、クラウドファンディングを募ってechosを立ち上げたという。

【活版クリエイター紹介 vol.7】つくる楽しさと、人の輪が生まれる場所をつくる|echos(エコース) | 白須美紀 | 活版印刷研究所

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echosにある機械はすべて時間貸しだ。印刷するための版は持ち込んでもいいし、なければ、沖さんがオーダーに応えて別途製作もしてくれる。アルファベットだけでよい場合、サイズが合うならスタジオにある木製の活字を使わせてもらうことも可能だ。紙は店内にあるものを購入もできるし、持ち込みもOK。紙以外に、帆布のトートバックなどにも刷れるという。
「使い方はあなた次第、お好きに刷ってみてね」
という風通しの良さがなんとも心地いい。話を聞いているうちに、自分だけのオリジナル印刷物をつくりたくなってしまう。

ヴァンダークックの上には印刷中の木版が置かれていたが、それは沖さんが手彫りした作品だった。沖さんは、大学で版画を学び、パリの銅板画アトリエに留学した経験を持つアーティストでもある。A3ノビまでのサイズが可能で木版を刷るのに向いているヴァンダークックに惹かれてしまったのは、自然のなりゆきだったろう。刷りあがったプリントを見せてもらうと、樹脂や金属とはまた違うやわらかな刷り味が印象的だった。

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人が繋がり、笑顔になる場所

echosのスタイルには、実はモデルがある。沖さんがかつて訪れたアメリカのポートランドに、同じようなワークスペースがあったのだ。そこではクリエイターたちが自由に出入りしており、さまざまな交流が生まれていて、その輪からまた新しい作品が誕生していた。そこにあるのは、たった一人でアトリエに籠ってつくり込むのとはまた違う、共同スタジオならではのものづくりの姿。
「活版印刷を通して人がつながる場所にしたかったんです。クラウドファンディングに挑戦したのも同じ理由です。色んな方に立ち上げるプロセスから共有してもらい、この場を一緒に育てて欲しいと思いました」

echosが西日本の活版印刷関係の集まるイベント「活版WEST」の会場となったのも、同じ思いが根底にある。沖さんが発起人となって、大阪の諸先輩がたの協力を得て実現させたのだ。その結果、関西から九州までを中心に21社が集まる賑やかな活版イベントが開催され、さらに活版印刷の裾野を広げた。

【活版クリエイター紹介 vol.7】つくる楽しさと、人の輪が生まれる場所をつくる|echos(エコース) | 白須美紀 | 活版印刷研究所

アトリエオープン、イベント開催が続く一方で、クラウドファンディングの支援者も、支援のリターンとしてechosを利用しにやってくる。
彼氏の誕生日プレゼントにポスターを刷りにきた女の子、結婚式の案内状を二人で刷り来るカップル。みんな「楽しい!」と目を輝かせて製作していくという。きっとその作品を受け取った人たちもまた、同じように目を輝かせているはずだ。
「祖父の時代につくったものを活版印刷で復刻したカードがあるのですが、葉っぱの形をしているんですよ。それを友だちに送ったら、みんなとても喜んで電話がかかってきます。メールやSNSも便利ですが、紙でのコミュニケーションは想いが手元に残るところがいいですよね」

この場所でオリジナル製品をつくったことをきっかけに、また新たな活版印刷のクリエイターが生まれるかもしれない。
あるいは、ここに集うクリエイターたちから、新しい何かが生まれるのかもしれない。
そんな未来を予感をさせる空気が、echosには詰まっている。
何が起きるかはまだわからない。だが、これからここで生まれるたくさんの印刷物が、多くの人たちを笑顔にすることだけは間違いなさそうだ。

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echos(エコース)

沖 那菜子

【活版クリエイター紹介 vol.7】つくる楽しさと、人の輪が生まれる場所をつくる|echos(エコース) | 白須美紀 | 活版印刷研究所

住 大阪市中央区博労町1-2-17
  briq SINSO BLDG 1F
電 06-6263-2673
営 予約制
  火曜・木曜 11時~21時
  土曜・日曜 10時~19時
休 不定休 
交 地下鉄堺筋線/中央線「堺筋本町」 

活版印刷機
1,000円(税別)/1時間

※紙代・製版代は含まれません。

※活版印刷機を利用する場合、その日のワークスペース利用料は無料ですが
同行者はワークスペース利用料
500円(税別)/1日が必要になります

詳しい利用方法はホームページをご覧ください
http://echos.site/top/

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