三星インキ株式会社
顔料について
では、色の再現についてお話させて頂きます。
現在、印刷インキに使用している着色剤としては顔料あるいは染料がありますが、今回は顔料について説明させて頂きます。ただ、顔料も非常に深い学問なので、このコラムでは簡単に説明させて頂きますのでご了承下さい。
人類はその昔、鉱物を粉砕して顔料として使用してきたとされており、約35~40万年前には酸化鉄を主成分とした土を利用して黄・赤・茶系の色を作り出し、魔除け等の為に顔や身体に塗っていたとされています(その名残かどうか分かりませんが、今でも色材の事を顔料と呼んでいます)。その当時に使われていた酸化鉄を主成分とした顔料は今もなお使用されており、現在は弁柄(ベンガラ)と呼ばれ、昔インドのベンガル地方から輸入されていた事から名づけられたと言われています。
色の付いた鉱物を粉砕する事で得られる顔料は、水や油と混ぜるだけで色が再現できる為に重宝されており、非常に高価な金・銀・銅やダイヤモンド等も使われてきましたが、これら鉱物は鮮やかな色合いを得る事ができなかったようで、現在でもあまり使われていません。
それに対して、ラピスラズリという宝石からウルトラマリンブルー、マラカイト(孔雀石)という石からマウンテングリーン、水銀鉱石(辰砂)から朱 等は鮮やかな色合いを有する顔料であり、様々な所に使用されてきました。
特に絵画の世界で多く使用されており、オランダのフェルメールという画家はウルトラマリンブルーを好んで多用していました。有名な絵画『真珠の耳飾りの少女』の青いターバンはまさにウルトラマリンブルーで描かれたものです。尚、前述の通り、ウルトラマリンブルーはラピスラズリという鉱物(宝石)をすり潰して得られるのですが、1kgの石から20g程度しか得る事ができなかったので、通常の絵の具の100倍以上の値段がつけられていたそうですが、フェルメールは借金までして使用していたとの事です。
鉱物以外では、先史時代にカーボンブラック(煤から)が使われるようになり、石器時代には酸化鉄と共に洞窟壁画等に使用されていました。その他に、巻貝の粘液から紫色の染料や、ウチワサボテン等に寄生する昆虫(カイガラムシ)から赤色の染料・顔料を抽出していました。尚、カイガラムシから取れる色材はコチニール色素として、現在でも使用されています。
その後時代は進み、18世紀頃に合成的(有機的)に顔料を作り出す技術ができ、染料と金属を合成した有機顔料が作られるようになりました(有機顔料に対して、合成せずに得られる顔料の事を無機顔料と言います)。
特に青系の無機顔料は価格が非常に高価であった為、安価品である合成ウルトラマリンブルーやコバルト青等が開発・製造されるようになり、その後、我々インキメーカーが使用している主要な有機顔料が製造されるようになりました。
現在、インキメーカーが使用している顔料を簡単にまとめると表のようになります。
次回は現在の顔料について少し詳しく書かせて頂きます。