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池ヶ谷紙工所
第9回「食品容器へのエンボス加工」

食品容器に適したエンボスを提案

今回は、とある食品メーカーの新規案件のエピソードをひとつ。印刷会社を通して、弊所に発注があった案件です。

食品容器のパッケージに使用するという無地のシートが持ち込まれ、梨子地のエンボスでテストをしてほしいという依頼でした。テストしたシートを提出して、忘れた頃にまたもう一度テスト依頼、ということが繰り返され、テストの度に紙の仕様が少しずつ変わっていきました。

本当はどういう仕上がりにするのか細かく打ち合わせをするのが理想ですが、今回はそれが難しいとのこと。どんなエンボスの入れ方が最良かを考え、こちらから提案します。
印刷会社の営業さんから伝え聞いたところでは、成型するときにシートをたくさん重ねて機械で打ち抜き、それからラインに流すそうなのですが、材質のせいかシート同士がくっついて仕方ないということです。このコラムで何度か紹介した事例ですね。それで最初のうちはいろんな材質でテストを繰り返していたのかな、と思います。私たちとしては、その問題が発生しているであろうことは経験上想像できたので、まずはこれを解決できるエンボスで考えなければなりません。

大量生産に対応するために

この案件に取り組むにあたって最初に思ったのは、「他ではできない方法でやろう」という考えでした。どうやらそれなりに大きな案件で、弊所だけでなく他のエンボス加工業者にもテストを依頼していたようです。ただ普通にエンボスを入れるだけなら他でもできるので、エンボスでシート同士のくっつきを解消できる範囲で、再現性が高くできるだけ効率のよい方法を考えました。

その方法は、エンボスをやや浅めに留めておくという選択。一般的に浅いエンボスは深いエンボスよりも再現性が高く、可動中に少々ズレが出てきても、シートへの影響はごくわずかで済みます。結果、シート全体を通じて品質が安定し、トレーニングの回数も少なくできるので可動効率もよくなります。

この提案ができたのは、弊所はパワーがある大型エンボス機を導入しているからです。小さな機械は力のかかりが弱いため、それなりの深さでエンボスを入れ続けようと思うと、機械をフルパワーで可動させなければなりません。そうするとやはり歪みがでやすく、トレーニングでの調整も頻繁に行わなければなりません。その点、大型機は余裕があるので長時間可動しても品質が安定しており、かつ機械やシートへの負担が軽い浅めエンボスにすれば、さらにより長く可動させることができます。

小型機では、おそらく2,000mくらい回すたびにトレーニングが必要になると思います。これはかなり短いスパンのトレーニング。作業効率が悪く、最悪、作業が追いつかずに納期に間に合わないという危険性もあります。それに対して今回提案した方法なら、5倍の10,000m以上は機械を可動させることができます。食品容器ですから売れ行きによっては生産数が多くなるでしょうし、大ロットの発注をいただいたときのことも考えておかないといけません。品質に問題のない範囲の中で、最大限生産性を高められる方法として提案しました。

(写真1)薄めに入れた梨子地のエンボス | 第9回「食品容器へのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)薄めに入れた梨子地のエンボス

(写真1)薄めに入れた梨子地のエンボス | 第9回「食品容器へのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)薄めに入れた梨子地のエンボス

プロの立場から問題解決の提案

最終的に先方に気にいっていただき、「この商品は池ヶ谷紙工所の柄・機械でないとダメだ」と言っていただきました。また、結果論になりますが、最終的に情報量の多い込みいったパッケージになりましたので、デザインの邪魔をしない浅めのエンボスでよかったと思います。

今回の案件は様々な事情が重なって、直接顔を合わせて打ち合わせする機会がありませんでした。もちろん、しっかり意見交換しながら進めていくのが理想的ではありますが、いつもそれが叶うとは限りません。しかし、そういうときこそ、クライアント様の求めるものをしっかり考えて提案することも大切かと思います。また、クライアント様自体が、問題の根本や解決策を正確に見いだせていないというケースも往々にしてあります。エンボスのプロとして培った私たちの経験を生かして、問題解決の方法を提案していくことが大事だと考えています。企業や商品名は明かせませんが、新しいブランドラインの商品のようですので、その立ち上げに関われて光栄でした。

製品開発の段階で困っていることがあれば、ご相談ください。エンボス加工で解決できることがあるかもしれません。

(写真2)食品容器への加工なので、埃などの異物が混入しないようにエンボス機をビニールテントで覆う。 | 第9回「食品容器へのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)食品容器への加工なので、埃などの異物が混入しないようにエンボス機をビニールテントで覆う。

(写真3)作業するときは防護服を着用。 | 第9回「食品容器へのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)作業するときは防護服を着用。

(写真2)食品容器への加工なので、埃などの異物が混入しないようにエンボス機をビニールテントで覆う。 | 第9回「食品容器へのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)食品容器への加工なので、埃などの異物が混入しないようにエンボス機をビニールテントで覆う。

(写真3)作業するときは防護服を着用。 | 第9回「食品容器へのエンボス加工」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)作業するときは防護服を着用。