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池ヶ谷紙工所
第10回「ハンドメイド作家とコラボレーション」

紙と革が融合したような素材

今回は昨年に手掛けた、ハンドメイドの作家さんとのコラボレーション事業をご紹介します。

ある印刷所さんから、服や雑貨をハンドメイド制作する作家の方々をご紹介いただきました。珍しい紙素材を使って、様々な雑貨を制作するという企画があり、そのシートにエンボスを入れてほしいというオーダーです。木屑と紙を混ぜて作るというそのシートを見せていただくと、紙と革が融合したような不思議な素材でした。革よりも張りがあって紙よりもなめらかという特徴があり、通常はランドセルの中敷きや靴のソール素材などに使用する素材だそうです。

なるほど、たしかに面白い質感の素材です。ただ、私の主観にはなりますが、ややつるっとしていていまひとつ味気ないかな?という感覚もありました。エンボスはただ柄が入るだけでなく、時として、素材の質感や印象が大きく変わることもあります。しかも、入れ方の加減で素材の表情変わってくるところが、エンボス加工の面白いところ。相談の結果、布目のエンボスを入れて、キャンバス生地のようなあたたかい手触り感のある雰囲気をプラスということになりました。

(写真1)布目のエンボスを入れたシート。独特の質感がある。 | 第10回「ハンドメイド作家とコラボレーション」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)布目のエンボスを入れたシート。独特の質感がある。

(写真1)布目のエンボスを入れたシート。独特の質感がある。 | 第10回「ハンドメイド作家とコラボレーション」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)布目のエンボスを入れたシート。独特の質感がある。

硬いシートへの対応

ところが、このシートへの加工は、当初考えていた以上に大変なものでした。

エンボス機に通してみたところ、思った以上に素材が硬く、期待通りにエンボスが入りません。それも、少し柄が薄いとかそういうレベルではなく、ほとんどエンボスが入っていないというくらいのレベルで入りません。正直「これはやばいな…」と思いました(笑)。

シートが硬いことが一番の原因ですが、一枚ものの大きな原紙ですので、シート全体に均一に強い圧をかけにくいというのも原因のひとつです。例えば半分のサイズにカットできれば、もっと容易にエンボスが入るでしょう。ただ、大小様々な種類の雑貨を作ると聞いていたので、作家さんにはカットしていない原紙のまま渡した方が使いやすいだろうなという思いもあります。カットの相談はせずに、原紙のままできれいにエンボスを入れる方法を模索します。

このシートは紙というより布や革に近い質感で、エンボス機に通したときに強い反発力がありました。とはいえ紙には違いないので、いつも行っているようにシート自体を一時的に柔らかくしてやることで、エンボスが入りやすくなるはずです。霧吹きで作業場の湿度を上げ、時間をおいて紙になじませます。すると、紙自体を傷めたり素材感を損なうことなく、狙い通りに紙が少し柔らかくなりました。同時にエンボス機のロールの温度を上げます。弊所で使っているエンボス機は、ロールの中に入っているコイルで温度調整ができるので、ぐっと加熱して熱々のロールにします。シートが十分に柔らかくなったところで、高温のロールで強く圧をかけてやると、きれいな布目が出たエンボスを入れることができました。原理で言えば、アイロンのような感じですね。最後にシートをしっかり乾かして完成。一枚一枚違いがある紙の風味が、エンボスを入れるとそれがよりいっそう際立つようになりました。

デザインの一部としてのエンボス

このシートで作った雑貨の展示会を見に行きましたが、素材感をうまく生かした素敵なものばかりでした。ペン立て、鞄、ブックカバーなど、様々なアイテムを制作されていて、私は名刺入れを購入しました。使うほどに味がでてきて、気にいっています。普段よく手がける機能性を重視したエンボスももちろん意義のあることですが、やはり「デザインの一部としてエンボスを使ってもらう」というのは、また違った嬉しさがあるものですね。

今までに扱ったことがない珍しい素材の案件で、私たちとしても大変勉強になりました。今後も、こういう機会があれば積極的に参加していこうと思っています。

(写真2)展示会の様子 | 第10回「ハンドメイド作家とコラボレーション」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)展示会の様子

(写真3)名刺入れを開いたところ。細かく加工されている。 | 第10回「ハンドメイド作家とコラボレーション」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)名刺入れを開いたところ。細かく加工されている。

(写真4)花束やドライブーケを入れて使う花鞄。 | 第10回「ハンドメイド作家とコラボレーション」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真4)花束やドライブーケを入れて使う花鞄。

(写真2)展示会の様子 | 第10回「ハンドメイド作家とコラボレーション」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)展示会の様子

(写真3)名刺入れを開いたところ。細かく加工されている。 | 第10回「ハンドメイド作家とコラボレーション」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)名刺入れを開いたところ。細かく加工されている。

(写真4)花束やドライブーケを入れて使う花鞄。 | 第10回「ハンドメイド作家とコラボレーション」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真4)花束やドライブーケを入れて使う花鞄。