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池ヶ谷紙工所
第12回「深くて面白いエンボス加工の世界」

エンボス加工についてご紹介してきた当連載も、12回目となる今回でひと区切り。これまでの記事を振り返りながら、エンボスの魅力について再確認したいと思います。

エンボス加工で得られる効果

まずは、エンボス加工についておさらいしましょう。エンボス加工をひと言で表せば「紙やアルミやフィルムなどのシートに凹凸を付ける加工方法」です。すでに印刷済みのシートに追加で加工することができます。光の反射具合が変わることで紙自体の質感が変わりますし、視覚的な色の見え方も変化させることができるので「インキを使わない印刷」という捉え方もできます。エンボス加工を施すことで様々な効果が得られますが、それらは概ね「装飾性の向上」と「機能性の向上」のふたつに大別されます。

「装飾性の向上」を目的としたエンボス加工では、加工前後で見た目に大きな違いが出ます。凹凸による変化はもちろん、シート表面の凹凸で光が拡散反射するため、エンボス加工後は光の反射具合にも変化が見られます。つや消し効果で上品で落ち着いた質感に仕上げたり、逆に照りを強調することもあります。通常の印刷だけでなく、他とは少し違った装飾性や質感を求める場合に、エンボス加工は非常に有効です。

「機能性の向上」は、使いやすさを向上させる効果を狙って施すエンボス加工です。弾力性・強度を向上させたり、厚みを変化させたり、静電気が発生しにくい構造などにでき、加工前とは違った性質のシートに生まれ変わらせることができます。弊所では特に、機械によるライン作業に使われるシートに施すことが多く、エンボス加工なしではラインに流せないようなシートもあります。製品の製造過程に問題が発生した場合に、受注元である印刷会社から「エンボスで解決できないか?」と相談されることが多いですね。

(写真1)写真上がエンボス加工前、下がエンボス加工後。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)写真上がエンボス加工前、下がエンボス加工後。

(写真2)装飾性の向上の例。写真右・エンボス加工後は光の反射が均一でなめらか。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)装飾性の向上の例。写真右・エンボス加工後は光の反射が均一でなめらか。

(写真3)機能性の向上の例。図のように静電気が発生しにくいシートにする加工は、工場の生産性に大きな影響を与える。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)機能性の向上の例。図のように静電気が発生しにくいシートにする加工は、工場の生産性に大きな影響を与える。

(写真1)写真上がエンボス加工前、下がエンボス加工後。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真1)写真上がエンボス加工前、下がエンボス加工後。

(写真2)装飾性の向上の例。写真右・エンボス加工後は光の反射が均一でなめらか。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真2)装飾性の向上の例。写真右・エンボス加工後は光の反射が均一でなめらか。

(写真3)機能性の向上の例。図のように静電気が発生しにくいシートにする加工は、工場の生産性に大きな影響を与える。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真3)機能性の向上の例。図のように静電気が発生しにくいシートにする加工は、工場の生産性に大きな影響を与える。

エンボス加工専門業として

弊所「池ヶ谷紙工所」は、名刺や革製本に多いワンポイントだけエンボスを入れる加工ではなく、ロール機を用いて紙やフィルム全体にかけるエンボス加工を専業としています。エンボス機を持っている印刷会社などはいくつかありますが、エンボス加工のみを専門的に扱う事業所は数が少なく、私が知る限りでは近畿地方には数件しかありません。専門業者が少ない理由のひとつに、エンボスロール機の扱いにはこまめな調整や手入れが必要で、品質の維持管理に手間がかかるという点があるかと思います。

代表的なのは、ロール同士がかみ合うように行う「トレーニング」と呼ばれるメンテナンス作業。これを怠ると望む深さで柄が入らなかったり、シートの左右で深さに差が出たり、柄のズレが目立ったりと、均一でない不完全なエンボスになってしまいます。また、機械を長く稼働させているとロール自体がすり減ってくるため、エンボスの入り具合は常に一定というわけではありません。

これらのエンボスの深さのばらつきやズレは、温度や湿度、シートのクセ、機械のクセなど様々な要因が重なって起こるものです。同じシート・同じロール・同じ速度で回してもいつも同じにはならず、その入り具合はまるで生き物のように刻一刻と変化を見せます。ロールを通せば均一なエンボスがすぐ出来ると思われがちですが、実際の作業現場は不確定な要素であふれており、知恵と経験をもった私たちのような職人の介入が必須です。

私たちエンボス加工専門業者は、それぞれ独自のノウハウを持って作業にあたっており、継ぎ手がなく途切れてしまうとなかなかすぐに同じことができないという面があります。ご依頼いただく案件はひとつとして同じものはなく、日々挑戦の連続です。そうして積み重ねられてきたエンボス加工の技術を絶やすことなく残していきたいですし、エンボス加工に関わる者として、もっと多くの人にエンボスの魅力を伝えたいという気持ちがあります。

(写真4)「トレーニング」と呼ばれるロール柄のメンテナンスの原理。質の高いエンボス加工には、この作業が欠かせない。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真4)「トレーニング」と呼ばれるロール柄のメンテナンスの原理。質の高いエンボス加工には、この作業が欠かせない。

(写真4)「トレーニング」と呼ばれるロール柄のメンテナンスの原理。質の高いエンボス加工には、この作業が欠かせない。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真4)「トレーニング」と呼ばれるロール柄のメンテナンスの原理。質の高いエンボス加工には、この作業が欠かせない。

エンボス加工のこれから

近年は、作業場を飛び出した新しい取り組みを行っています。ハンドメイドの作家さんとの珍しい素材を使ったコラボレーション、持ち運べるミニエンボス機を使った出張エンボス加工、展示会やワークショップへの参加など、多方面に積極的な活動を展開しています。これまであまり多く手掛けて来なかった、雑貨、ラベル、商品ステッカー、ウェディングペーパーアイテム、といった新しい需要をより多く引き出したいですし、エンボス加工自体の一般への周知活動ももっと必要だと思っています。

このようなエンボスの効果や良さを目の前で実感していただける活動には、学ぶところが多く、やはりエンボス加工は「深くて面白い」ものだと再認識します。多くの人にエンボスの魅力を分かっていただくことは、将来的に私たち自身のためになるでしょうし、専門業者である私たちが気づかない新しい魅力や使い方を発見できるかもしれません。業務の性質上、どうしても作業場に篭る時間が多くなってしまいがちですが、その中でも空いた時間を使ってできるだけ多くの人と関わって、今後につながる新しい動きをより積極的に模索していきたいと思っています。

(写真5)ハンドメイドの作家とのコラボレーションでは、今までにないくらい硬いシートにエンボス加工を施した。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真5)ハンドメイドの作家とのコラボレーションでは、今までにないくらい硬いシートにエンボス加工を施した。

(写真6)取り回しのよいミニエンボス機には、大きな可能性がある。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真6)取り回しのよいミニエンボス機には、大きな可能性がある。

(写真7)今後はワークショップなどに積極的に出店し、エンボスの魅力を伝える活動を増やす予定。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真7)今後はワークショップなどに積極的に出店し、エンボスの魅力を伝える活動を増やす予定。

私たちのエンボス加工が力になれることは、まだまだあると思います。またこのコラムでご紹介できそうな事例や活動があれば、続きを掲載させていただくかもしれません。エンボス加工についてご興味やご相談がある方は、池ヶ谷紙工所まで一度ご連絡ください。

(写真8)様々な柄のエンボス。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真8)様々な柄のエンボス。

(写真5)ハンドメイドの作家とのコラボレーションでは、今までにないくらい硬いシートにエンボス加工を施した。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真5)ハンドメイドの作家とのコラボレーションでは、今までにないくらい硬いシートにエンボス加工を施した。

(写真6)取り回しのよいミニエンボス機には、大きな可能性がある。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真6)取り回しのよいミニエンボス機には、大きな可能性がある。

(写真7)今後はワークショップなどに積極的に出店し、エンボスの魅力を伝える活動を増やす予定。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真7)今後はワークショップなどに積極的に出店し、エンボスの魅力を伝える活動を増やす予定。

(写真8)様々な柄のエンボス。 | 第12回「深くて面白い エンボス加工 の世界」 - 池ヶ谷紙工所 | 活版印刷研究所

(写真8)様々な柄のエンボス。