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白石奈都子
現代で生きる和紙

かなり以前から心惹かれていた名塩和紙という紙があり、先日その工房に伺った。
発端は、来春の展覧会に出品する作品で使いたかったから。
私には紙が好きなあまり、使わずに眺め、戯れ、興じる習癖がある。東京の紙屋さんで買った名塩の紙もその一枚だ。
無論、東京やwebからでも入手できるのだが、やはりどうしても一度製作工程を自分の目で見て体感し、職人の方の話を聞きたいという衝動が今回は抑えきれなかった。

訪問の折、工房に携わるスタッフの方と話していた中で
「和紙の職人は、良い紙を漉くことが仕事。それをいかに使い、世に出して広めることが私たちの仕事」という言葉が心に深く響いた。

大学を出て間も無く、若さ故のエネルギー過多と怖いもの知らずが相俟って、紙漉きと書道、その他制作に関わる全てを自分一人でやろうとしており、全部やった。でも自由に作りたいから職人にもなりたくないし流派や組織にも属したくない、と随分好き放題な生き方をしていた。
だがやはり、全てを完璧にはできず、やる気と欲求が消化不良をおこす日々を過ごした。

時が経ち、改めて手漉き和紙に真正面から向き合った。
素直に手漉き和紙の美しさに感動し、工程や考え方を含む全ての職人技術を敬い、感銘を受け、この技術を廃れさせたくないと強く思った。
帰京後、工房で購入した名塩和紙や前に我流で漉いた和紙、アジアの旅で入手した紙、機械漉きの紙に加工を施した。
加工は、揉み紙や礬水(どうさ)引き、柿渋などを用いた古来から伝わる日本の紙の加工技術と、仮名や草書等等、自由に筆を走らせ毛筆で書す。
一手、一筆で違いが伝わる。どの紙が良いということではなく、目的に応じて選ぶ必要がある。

写真1 | 現代で生きる和紙 - 白石奈都子 | 活版印刷研究所

名塩和紙の大きな特徴は、生漉きの雁皮紙に土を入れている。漉草に名塩の土を混ぜ、土地の水で溜漉きで漉く。土の重さも加味され、漉桁を持った時の重量は普通の手漉き和紙の倍以上だ。昨今では少なくなってきたが、紙床で水切り後も板で天日干しのみなので、労力と時間が必要だ
半透明で平滑な紙は、光の透過が少なく、襖で使う間似合紙や箔合紙などで使用されている。
雁皮の光沢と土の天然色が美しい。墨も独特の発色を放ち、映える。

現在、手漉き和紙はちょっとした美術工芸品のようになり、床の間文化の一つと化している。
海外で日本の文化や技術が認められて使用されることも大変喜ばしいが、やはり日本で使い、日本人の生活の中で生きて欲しいと願う。
特に、日本の気温や乾湿の差がある住環境においては、和紙は素材として優れ、適したものの一つである。

今後、和紙を使い表現することで、手漉き和紙と和紙に携わる職人の素晴らしさと仕事を広める布石の一つになればと思っている。

紙と書道との向き合い方にあぐねていた浮雲が、少し晴れた気がした。

写真2 | 現代で生きる和紙 - 白石奈都子 | 活版印刷研究所

写真1 | 現代で生きる和紙 - 白石奈都子 | 活版印刷研究所

写真2 | 現代で生きる和紙 - 白石奈都子 | 活版印刷研究所