web-magazine
web-magazine

図書館資料保存ワークショップ
[図書館に修復室をツクろう!]㊷
コロナ禍のイギリスとドイツからのお便り

コロナ感染症の流行が一向に収まらない昨今、夜中に目覚めて不安にかられることがあります。そんなある日、4月29日のNHKラジオR1を聞いていました。午前4時5分からの「花が好き!自然が好き!」というインタビューの再放送です。

インタビューに応じられているのはイギリスのキュー王立植物園の公認植物画家、山中麻須美さん。キューガーデン公認植物画家5人のうちのおひとりです。
インタビューではなぜ一人の日本人女性が世界遺産にもなっている、もっとも英国的な植物園の公認植物画家となったのか、また、近年は「自分でなければできない仕事」として、キューガーデンにある日本由来の植物画の展覧会開催、そのカタログの出版・受賞などについて語って居られます。

キューガーデンといえば、大英帝国時代、プラントハンターと呼ばれる冒険家たちが世界中から持ち帰った植物満載の有名な植物園。という事位は知っていましたので、「そんなイギリス、イギリスしたところで、日本人の女性が活躍だなんて。凄いなァ」と、寝床のなかで聞きながら、少し気持ちが明るくなって来ました。

お話は食器などのデザイナーとしてロンドン在住で、世界中を飛び回り、活躍なさっていた山中さんが病を得て、お見舞いにお花など植物をいただかれたことに端を発します。他のものではなく、病気のお見舞いがなぜ植物なのか?植物の持つ力について考えさせられます。そして、デザイナーでいらしたことも関係あるのでしょうか。ボタニカルアートの勉強をキューガーデンの植物画家の先生について始められます。ボタニカルアートというのは科学的に描く植物画というものだそうです。

さらに、その後、幸いなことに最悪ではなかったそうですが、ご病気が再発します。その時、さらに将来の再発の可能性も宣告されます。その時点で「やりたいことをやっておこう。何か地球との対話、地球との関わりに貢献できることを遺したい。そこで、科学的に正確に描く植物画を本格的に勉強しよう」と身辺整理をし、その勉強のために20万枚の植物画や700万点の標本を所蔵するキューガーデンの図書館に週一回通おうと決め、図書館に、それは熱心に頼み込み、その熱意を認めた図書館側がついに、許可証を発行します。

ここで、「えっ!図書館!!」とドッキとしました。さらに聞き耳をたてますと、図書館に通ううちに、図書館が新しい建物に移転することになり、棚のサイズが変わったので、絵を赤い箱から、青い箱に移すという作業をご自分から申し出て行います。勿論ボランティアです。役に立つと認められると、その内に他のいろんな仕事も任されるようになります。ご自身では「図書館の不法滞在者」と名乗っていられたそうです。

「エェ~!!箱」です。私たちワークショップでは目下、軸や巻物の保管箱作りに苦心しています。これらの事情は先月のこのWEB MAGAZINEにも小梅さんが投稿しています。俄然目が覚めてしまいました。早速、その朝ネットで調べてみました。

勿論著名なキューガーデンのことですから植物園自体のページは沢山、付属の図書館の画像も見ることができました。が、さすがに絵が収納されている箱を見ることはできませんでした。

キューガーデンの図書館で行われたワークショップに参加されたイギリス在住の日本の方のブログにレクチャーなさっている山中さんの写真も拝見することができました。それから辿って山中さんのメールアドレスも公開されていました。

ラジオでお話を聞いただけで、いきなりメールを差し上げるのは、ためらったのですが、好奇心には勝てず、「どんな箱に保管されているのでしょう」との問い合わせのメールを送信してしまいました。

驚いたことに早速お返事をいただきました。結論から言うと、その箱は非常に高価な特注品だそうです。現在はコロナ禍でキューガーデンに出勤できないので、出勤可能になったら写真を送ってくださることになりました。

インタビューではキューガーデン始まって以来唯一の日本人植物画家山中さんならではの数々のお仕事が紹介されます。

「図書館の不法滞在者」と名乗っていた山中さんですが、キューガーデンの厳しい植物学者たちに自作の植物画を見てもらわれることにより、自主的な植物画の勉強を続けられ、ついに公認植物画家となられます。

2011年にはインドトチノキの一年を描いたシリーズで英国王立園芸協会ボタニカルアートショーで金賞受賞、2016年には日本の植物だけの日本の植物画家によるボタニカルアート展を開催し、大変好評であった。ので、2017年には日本でもその展覧会を開催、24万人が訪れたという紹介もされました。

また、2015年6月、京都大学ホールにて催された「日本植物園協会50周年記念シンポジウム」に招待を受け「キューガーデン、世界遺産の現場から」というタイトルで講演もなさっています。数々の日本国内での、しかも京都での活動も私は存じ上げなかったことが悔やまれました。

2011年の東日本大震災で生き残った奇跡の一本松の植物画も描き、2016年にロンドンの日本大使館で正式に披露され、陸前高田市の復興記念公園東日本震災津波伝承館に寄贈されました。

これらのお仕事は山中さんのホームページで、美しい(でも非常に科学的に正確な)ボタニカルアートとともに拝見できます。

この日は前編でしたが、5月26日から27日にかけての午前4時に後半がNHKラジオR1で放送されます。山中さんからいただいたメールによれば、このインタビューでは京大の研究者との共同プロジェクトやキューガーデン所蔵の日本の古典籍『本草図譜』の修復などについてのお話もあるようです。是非聞きたいと思います。

また、箱の写真を送っていただいた時にはもう少し詳しく、キューガーデン所蔵の和古典籍や日本の植物画などの修復や調査についても伺って、このWEB MAGAZINEで紹介できるかも知れません。楽しみにしています。

キューガーデンについては山中さんが解説を書かれている『英国キュー王立植物園:庭園と植物園の旅』(平凡社、2019年4月、定価1800円)という本が出版されています。全頁写真の美しい、キューガーデンについての歴史から現況、そして山中さんならではの日本関係の記事が満載の本です。

そして、ドイツからは「図書館に修復室をツクろう!」㉙2019年4月15日号で登場していただいたバイエルン州立図書館の修復家Iさんに、コロナ禍でのお仕事の近況をお尋ねし、お返事をいただきました。

書物修復という現場で、現物を扱うお仕事は、従来通り出勤できない状況では、どのように仕事をなさっているのでしょうか?

Iさんからは、筆者への個人的なお便りとして、お返事をいただきました。ホームワークにする場合は各自から申請し、認められれば「課題」が与えられるのだそうです。「課題」というのは、取り組んでいるプロジェクトの報告書作成、論文執筆のための調査、準備など。Iさんによれば「ホームワークでも、やることはいくらでもある。」ということです。

このメールをいただいて「ドイツでは、やっぱり本の修復家は専門職として独立を認められているんだ。」とつくづく思いました。自分の仕事の仕方はこの状況下でも自分で決めることができるのですね。

私たちのワークショップ再開も何時になるのか目途がつきません。が、突然の開催中止でしたから、修理途中の資料を抱えています。このコロナ感染拡大のようなことにぶつかると、明日は何がおこるか分からない時、今までボランティということで、少し遠慮がちだった修理作業のペースを上げて行かなければいけない。と感じています。

イギリスの山中さんからは「イギリスではボランティアの地位は高いです。ボランティアでなければ出来ないこともあるのではないですか」と励ましていただきました。

図書館資料保存ワークショップ
M.T.

(写真1)『 英国キュー王立植物園 』 | コロナ禍のイギリスとドイツからのお便り - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)『英国キュー王立植物園』

(写真2)山中さんの描かれた「奇跡の一本松」『 英国キュー王立植物園 』より | コロナ禍のイギリスとドイツからのお便り - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)山中さんの描かれた「奇跡の一本松」『英国キュー王立植物園』より

(写真1)『 英国キュー王立植物園 』 | コロナ禍のイギリスとドイツからのお便り - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真1)『英国キュー王立植物園』

(写真2)山中さんの描かれた「奇跡の一本松」『 英国キュー王立植物園 』より | コロナ禍のイギリスとドイツからのお便り - 図書館資料保存ワークショップ | 活版印刷研究所

(写真2)山中さんの描かれた「奇跡の一本松」『英国キュー王立植物園』より